« 2009年08月 | メイン | 2009年10月 »

2009年09月27日

異端者

異端者 あなたは ユダになりたがる イエスと言えずの偏愛を 秘めた薄暗い情熱を 皮袋に偲ばせて 肉体と言葉を賭けて 売りたがる あなたは ユダになりたがる 腐ったパンでもいいから 無理矢理口の中に突っ込まれると それを泣きながら うれしがる 渇望する渇愛の渦を さまよう放浪者よ 道行きもままならぬのに どこへ愛憎の哀しみを吐き出すのだ 十字架を背負うは 異端のあなた 裏切者は愛の二つ銘 その重き楔 付きまとう聖痕の形 同じ贖罪の証を わたしの身体にも手のひらにも 覚えさせてくれ 夜は始まったばかり さぁ 二千年分 偽りの恋をしよう

投稿者 つるぎ れい : 15:47 | コメント (0) | トラックバック

2009年09月20日

野良犬

野良犬 片手間に 愛みたいな てのひらを差し伸べたり 恋と錯覚させることばを囁いてみたり 生きるすべを教えたりすることを すべて やさしさだと受け止めてしまう 勘違いという餌は 餓えた私の五臓六腑に沁み渡り その甘さをいつまで忘れられない もう頭を撫でないでください 私は性質(タチ)の悪い野良犬 中途半端な野良犬 土下座したいほど愛が欲しいと吠えつづけた野良犬でした

投稿者 つるぎ れい : 10:06 | コメント (2) | トラックバック

2009年09月19日

微笑

微笑 「昔は、こんな安らかな顔で微笑んではいなかったのに…。」  自嘲ぎみに苦笑を交えた声が遠くから漏れる。ミロのビーナスを前にして、鍔のある帽子を深く被り、黒いフロックコートに身を包んだ男が、この美神を懐かしそうに眺めていた。  いつもなら広いR美術館内には、洗練された美術品を見ようと人が絶えないのだが、平日で閉館時間が近いせいか、薄暗い館内には私と、フロックコートの男と白い石像だけが時間に置きざりにされていた。  ――笑っているのだろうか?  照明の加減からしても、アングルを変えてみても、私にはこの美神が笑っているようには見えなかった。  誰もが足を運び、その微笑を確かめようとする『モナ・リザ』ならまだしも、その古典的な肉体美で知られるミロのビーナスに対して、この男はなぜその表情にこだわるのだろう?  そんな疑問が私の頭をよぎった。  男は、私の顔色に少しの驚きと好奇心を認めたのだろうか? 静かにこう言った。 「お教えしましょうか? このミロのビーナスにまつわる伝説を。」  私は少しの間、躊躇したが、やがてコクリと、頷いた。  私のそんな様子を微笑をまじえた横目で見ながら、再び視線を美神にもどすと、懐かしそうに語り始めた。 「この美神はね、この世で最も醜悪な男の手によって、創られたんですよ…。」  もう何世紀も前のことですが、エーゲ海のメロス島にへパイストスという名の彫刻家がいたそうです。彼は生まれつき、左上半身に火傷のようなアザがありました。おそらく彼の両親も生まれつき、業を背負うこの子供に恐れをなし、皮肉にも醜い工匠の神の名を与えたのでしょう。  その容貌ゆえに、誰からも愛されず、父母にさえも疎まれる。  ヘパイストスは、呪われた自らの左上半身を憎み、そして美醜で人を判断する人の世を憎悪しました。当時のギリシャでは、自由で人間的なものこそが重視される傾向があり、独りよがりで、半獣人のようなへパイストスは、彼らの嘲笑と軽蔑の恰好の的になっていたのです。 「肉体的欠陥があるだけで存在を軽視される。ならば、とことん醜くなってやる。人々の口から吐かれる呪いの言葉と嘲笑を浴びたこの左半身。俺の存在理由がこの醜悪な左半身にあるのなら、この左手でお前らを超える美の結晶をつくりあげてやる。  俺が信じて、俺が愛して、俺しか愛さない ――そう、まるで女神のような女を。」  彼は、自らの存在理由を忌み嫌われるその左手に求めたのです。この時ほど彼は彫刻家であったことを喜ばしく思ったことはないでしょう。人は劣等感を優越感にかえる術を持っている。ただそれが彼の場合芸術であったわけですが、しかし、それは何と皮肉な手段だったことでしょうか。  その日以来、洞窟のようなアトリエの中では、絶えず槌で丸鑿を打ちつける音が響くようになりました。  邪悪な昂奮に蝕まれたその手で石を彫る。  二メートル余りの白い天なる種属の石に彼女は眠っている。  自然のままの無垢な堅実さと透明感を打ちやぶるように、へバイストスは大理石を彫っていきました。そう、まるで悪人の魂で天女をつくりだす幻影を夢見るように。  徐々に明らかにされる柔らかい輪郭、生々しい豊満な胸の起伏、発達した腰、右手は左胸を覆い、左手は平穏を保つように地を優しく静しています。下半身にまとわりついた衣、左足に重心をかけ、上体を左にうねり、そして右に曲げた巧みな技巧、計算されつくしたプロポーション、どこをとっても完全なる美の女神でした。しかし彼女の顔には、何かを憐むような悲しい表情が浮かんでいました。 「俺を忘れるな。お前を創った俺の左手を忘れるな。この世で最も醜い男の左手を。」  へパイストスは、台に登ると、女神の顔に左手をゆっくりとあてがい、何度も彼女に向かってささやきました。そしてその手をゆっくりと滑らせ胸部から腕にかけるゆるやかなカーブをなぞりました。  その姿は何と言ったらいいのでしょうか、ガラテアに恋するピグマリオン、いいえ、そんな純粋なものではありません。  彼は自らが美しいと認めた者を我が手で創り、そしてそれを汚していくような錯覚の悦びにひたっていたのです。この残虐じみた腐敗行為を繰り返すことによって、彼はよりいっそう自らの左手を尊び、彼女を愛したのです。  ある日、彼は冗談まじりに彼女に向かって、こんなことを言いました。 「きっとお前を見たら、誰もがお前を欲しがるだろうね。俺は、そんな風に創った。誰もお前から目をそらすことはできない。人はね、最も美しいものと、最も醜いものからは、決して目をそらすことはできないんだよ。 あぁ、俺はそれが見たい。俺を侮蔑した人間がお前を欲しがる姿を見たい。できるならお前の滅ぶまでの時間を俺にも与えてくれ。そうすれば、俺は醜い姿のまま浅ましい人間共を間近で見ながら食欲に生きてやる。この望みを叶えてくれるなら、俺のもてる全ての愛、全ての時間をお前に与えてやる。悲しい表情を浮かべた女神、お前が真に愛と美の女神であるなら…。」  瞬時、女神はその口角を上がりぎみに小さく微笑したかのように見えました。  この女神ができ上がる三日前から一人の男がへパイストスの所へ弟子入りしたいと現れました。猫背で猪首の男でしたが、ヘパイストスを師とあおぎ、本当に彫刻が好きなようでした。そして不思議にも、彼はその左手にへパイストスと同じような火傷のアザがあったのです。  その似かよった容貌ゆえに、彼も共感を抱き、アイオロスと名のるこの男を弟子にしたそうです。  ある月夜、アイオロスは用を足しに外へでていきました。深い闇だけの中に一つの灯がみえます。その明かりは、ヘパイストスがアトリエとして使っている石灰岩でできた鍾乳洞から漏れていたものでした。暗闇の中、アイオロスはその灯に向かって歩きだしました。 ――師はこんな刻限になって何をしているんだろう  そっと内をのぞいてみると、ぼやけた小さな灯の光に照らしだされる二つの顔が見えます。まさしくそれは、以前師が自慢げに見せた美神と、ひどく優しい面だちでそれを眺める師の姿だったのです。  彼は傷ついた左手を伸ばし、美神の顔にそっと手をあてがって愉快そうに口の端を歪めて笑っていました。まるで何かを蔑んで、勝ち誇った支配者の眼差しをもって…。  やがて彼は、そのただれた痕の残る指先で美神の口角をなぞり、そして徐々に軽い強弱をつけながら、滑り落ちるように長い首に触れました。 「お前は、この左手で創られたんだよ。覚えておくがいい。お前が美しければ美しいほど俺の左手は醜く、尊いものになる。いつかお前を美神と、うちあおぐ人々は、同時にこの俺の左半身を崇拝することになるんだ。」  彼はそう柔らかい声で語りながら、再び視線を指にもどすと、今度は彼女の首筋から流れるように広がる胸部へ、やがては巧みな均衡と、弱い起伏のおこつている腹へとなぞり続けた。  炎の加減であろうか――  へパイストスの手が美神に触れる度に、彼女の体は微かにうちふるえています。  アイオロスは、この光景から日がはなせませんでした。  師の偏執的な作品の愛し方。憎しみにも似た行為。  昔、あの美神を見てへパイストスの弟子になろうと決心したアイオロス。師と同じ傷を持つ自らの左手でも、あのような像が彫れればいいと望んだのに、何と言うことだろう。あの像は美神ではなかった。毎夜毎夜、師の左手によって汚されたただの偶像でしかなかった。一人の男の手におちた石の女でしか… アイオロスは、その眼で、鮮烈な美の崩壊を見た。 「何と俗物的な!俺は彼女を神聖な美神にもどさなければならない。その肉体が汚されたなら、せめて精神だけでも純粋な美神に。」  アイオロスはその夜以来、ヘパイストスの前から姿を消しました。  それから何年かたって、ミノアに宮殿を持つある王の使いが、へパイストスのもとを訪れました。何でも宮殿に飾る像が欲しいのでお前の彫る像が見てみたいということでした。  ヘパイストスは、ためらうことなくあの美神を王に献上し、かわりに自分は王の皇女を妻にもらいました。彼の美神は、宮殿の中庭に置かれました。ミノア王は、暇あるごとに像の傍に立ち、何時間も眺めるという日が続きました。 「お父様は、あなたの作品がたいそうお気に入りのご様子よ。あの像の傍を離れようとなさらないわ。」 「そうかい。あの女神からは、きっと誰も目をそらせられないよ。俺はそんな風に創ったんだ。」 「自信家ね。」 「本当の事だよ。」  王の娘が俺に仕える。俺の左手に仕える。そしてあの女神は王に仕える。全く愉快だ。今、醜が美を超えたんだ。世紀の大逆転だ。…でもまだだ。これからだ。奪い合え、俺の女神。俺しか愛さないあの芸術を奪い合え!あの美神を作ったことこそが、俺の人類に対する復讐なのだから!    王の娘へレネとの結婚を前日にひかえた夜のことです。  へパイストスの家から婚礼の指輪が、ある男の手によって盗まれました。 男はその後、宮殿の階段をかけあがり、壁を越えて、あの美神が置いてある中庭へ侵入しました。そしてその女神の薬指に、盗んだ指輪をはめこむと、こう語ったのです。 「いいのか。お前の男は、お前を裏切って明日結婚するぞ。」 それから男は、火傷のあとのような左手を女神の頬にあてました。 『この左手を忘れるな。』  その夜、中庭から、石をひきずるような音がして、ミノア王は目を覚まし、急いで中庭へ向かいました。すると、どうしたことか、宮殿を静した姿で立っているはずの像はありません。かわりに数メートル先から、土に埋もれた大きな足跡が続いています。  不思議に思った王がその足跡をたどっていくと、何とそこには、男の首を絞めつけている石像の姿があったのです。 女神は穏やかな微笑をたたえて、この殺戮を楽しむように男の首を絞めつけてゆきます。男も随分前からこの出来事を待ち望んでいたように女神を受け入れました。そして力をゆるめることのないその白い腕を眺め、その先にある指輪を想い死んでゆこうとしているのです。  その光景は、互いが互いに認め合った殺戮行為を思わせました。いつもなら、物悲しげな表情を浮かべていたあの女神も今は自らの運命をかえようとする一人の女としてそこにありました。そして男もまた、女神の表情が徐々に穏やかな微笑にかわってゆく様子を、さも愛しげに眺めていたのです。  王はしばらくの間、動けませんでした。この二人の殺戮行為を前にして、あの美神は、ますます美神になってゆく気がしていたからです。しかし、その行為こそ、王の溺愛ぶりを何と鮮やかに裏切ったことでしょうか。  王は下賎の者が使うまき割り用のオノをつかむと、嫉妬に狂う男の如く彼女の両腕めがけて、たたきつけました。  だが時すでに遅く、男は細く瞳を開いたまま死んでいたのです。  まるで、最後の一瞬まで、彼女の顔を忘れないような微笑みを浮かべて。  それ以来、女神の腕は男の首を絞めつけたまま離れなかったのです。婚約指輪を指に残した腕は結局男と共に葬られたそうですが、その行方はわかりません。美神もその日以来、姿を消したそうです。  もちろん、男が誰であったかを知る者はありません。  ただその左手には、火傷のようなアザがあったらしいのです。 「狂信的な話ですが…。」 男はそう言いながらフロックコートのポケットから左手を出し、帽子をとって私の方を向きました。 「この像を創った本人が言うのだから間違いありません」  男の手と左の頬には、神の裁きにも似た焼印の跡が残っていました。 「この美神は、間違えたんです。俺ではなく、アイオロスとその罪を共有したんです。あれほど忘れるなと言っておいたのに、全くバカな女です。」  ロココ式の風潮を帯びた館内では、閉館時間がすぎようとしていた。ライトアップされていた美術品も、少しずつ闇に姿を消してゆく。そしてまた、眼前の美神の微笑も陰をもって暗闇に溶けようとしていた。  私はしばらく考えてのち、男にこう語った。 「美神が間違えたとおっしゃいましたが、果たしてそうでしょうか?もしその話が本当だとすれば、貴方は、この像が崩れるまでの間美神と共に永遠に生き続けるのでしょう。」 「ええ。」 「もしかしたら、この美神は、知って間違えたのかもしれませんよ。」  閉館時間がすぎたらしく闇の中では私の声だけが響き、今では美神の微笑をたしかめることもできない…。  

投稿者 つるぎ れい : 19:10 | コメント (0) | トラックバック

2009年09月18日

黒揚羽

黒揚羽 光の匙加減で 金にも銀にも 瑠璃色にも染まる 今日の毒薬 私の 下半身の 石榴に吸い付いて 羽を広げたまま 食い下がる 羽先の スパンコールは 愛の屈折と 欲望の歪みと 限りない 色情の証 さぁ 飛び立ちなさい さまざまな 罪の形を その羽に乗せて さぁ 連れていきなさい お前が住む 原色世界の 万華鏡の坩堝へ

投稿者 つるぎ れい : 04:03 | コメント (0) | トラックバック

言ってみたい

言ってみたい 海と陸に幾つもの水爆が落とされて 夕日が消えてしまっても 森林が全て砂塵に帰して 息をとめても 人間が エンデンジャーズ・スピンシーズとして 姿を砂漠に埋めても 全土が焦土の餌食となり この惑星が平面な骨となって 暗闇から沈黙が 永遠に浮かび上がったとしても 私が最後の人類として生き残っていたら 今は亡き貴女に 言ってみたい 「貴女といた地球はそれでも美しかった」 と

投稿者 つるぎ れい : 03:59 | コメント (0) | トラックバック

彼岸

彼岸 彼岸 何人が この朝方を見れずに 旅だったのだろう 何人が この柵を飛び降りたのだろう 私の 友達ふたりが 手招きする こっちへおいでよ 自殺とは 自由に生きれない 人間の特権だ この窓枠の 向こう側に 彼岸はあるのに 私は 枠と柵の分岐点に立って 道を選べないまま 鳴らない ナースコールを押し続けている

投稿者 つるぎ れい : 03:32 | コメント (0) | トラックバック

病院

病院 病院 できるだけ 楽な世界に 逃げ込んだつもりが ヤマイの重さと 夜勤の辛さに追われた 愛の飢餓者と 背徳者の女の群れ きれいな白い箱の中 開いて見ろよ 輸入品の輸血が溢れて こびりついてどす黒く心を染め上げる 糞尿の臭いと共に食事しながら 今は亡き母を求める 生き延びる事を余儀なくされた 老人のひ弱な叫び 人権という言葉に 哲学すれば 暇人の賜物と忙者が 高笑い チンケな小娘の戯れ言は 帰る道さえ喪失させる 手のひらいっぱいの忘却の薬 眠れ! 眠れ! 言い聞かせなければ いけなかったのは 暗闇の合間を縫って 響くナースステーションでの嘲笑い 「朝まで死んだふりをしなければ!」 だから 美しいものを 描きたい 昨晩の課長ナースが 放った 人権侵害の言葉を 忘れるためにも 自分の心にも世界にも美しい花を咲かせるためにも 上出来とは 決して言えないが 今は これが精一杯 夢想する乙女よ お前の閉じた瞳の奥が 美しいことに 想いを馳せていたら 私は 満足だ

投稿者 つるぎ れい : 03:17 | コメント (0) | トラックバック

2009年09月17日

メタボリック天気予報

メタボリック天気予報 産婦人内科の名医に言われた 受胎告知ですね それも 双子の上に 今が 臨月です キリストと釈迦を産むでしょう 産声は 天上天下唯我独尊 口癖は 我 神の子なり! 十字架を背負う人生模様とでました 病老死苦に 悩まされるでしょう 今は偶像崇拝者が配りまくる 砂糖菓子やスナック菓子に 気を付けてください! あと胎教が一番大事ですから 安静に軽いラマーズ法と 散歩がてらのウォーキングをお勧めします あなたも大変ですね はぁ…。

投稿者 つるぎ れい : 17:53 | コメント (0) | トラックバック

墓標

墓標墓標 花は二度咲き 一度目は土から芽吹き 二度目は切り取られて 芸者に変わる 紡ぎだす 淡い光の旋律を放ちながら ますます穏やかに たおやかに しなびれて 華の命に幕をおろす アンコールには答えられないくせに 心を癒した春風の色彩の奏で あなたの隣に 小さな紫の墓標を置こう 人の手では表せない あなたがたの優しい笑顔は 二年前のスケッチブックに 生きたまま記されていた 限りない花たちの春眠の墓標

投稿者 つるぎ れい : 17:43 | コメント (0) | トラックバック

2009年09月13日

肖像画

肖像画 薔薇 旅立つ 貴女の為に 何か贈ろうと思って 花屋に行ったら 赤薔薇一本350円もしやがるねん! よって 一番廉価な家にある ピンクローズを 百均の色鉛筆で七色に染めたった どない? あの日の「虹」みたいな花になったやろ 私は貴女の顔も姿も 見たことがないけど これが貴女の肖像画 私が描いたんは 貴女の姿やないで 貴女の心の形と色や! 手土産に 一本だけの特別製を もろてくれ!

投稿者 つるぎ れい : 16:09 | コメント (3) | トラックバック

恋をすると夜が長くなる 早く朝にならないか あの人が遠くに行かないか 確かめたくて 朝日を手に入れたがる 夢があると夜がうっとうしくなる 閉じ込めた情熱を 仲間と分かち合いたくて 行きたくもない学校が 宴会場になる 夜は私を哲学者にする とまらない思考回路は 頭蓋骨をはみ出して 一人歩きする うつろな目で見えるビジョンは 夜が訪れる前に夕焼けに照らされた男の顔 土手に座ってひっそりと血の涙を流していた 私の上にも あの男の上にも 等しく夜はやってくるだろう 漆黒の大いなる翼に抱かれて 二人とも死体のように眠ればいい 暗闇にやさしさがあるのなら 明日は滅びの笛が聞こえるはずだ

投稿者 つるぎ れい : 15:53 | コメント (1) | トラックバック

接吻

接吻 一室が3畳 病室のカーテンに君を閉じ込め ピュア・プアゾンの香を秘めた その胸に触れながら そっと引き寄せた 寄り添う胸の狭間 鼓動強く鳴りやまず 色は濃さを増し 半開きのサーモンピンクの唇から 零れる視線から 奪われることを 哀願する君の姿態 喉の奥の嵐を 僕の唇から君の体内(なか)へ 想いごと押し込めた 言葉のない 午後の病室 苦い液 鬩ぎ合う甘い蜜 悲しみの雫一粒 満ち充つ「病の味」>

投稿者 つるぎ れい : 14:56 | コメント (0) | トラックバック

ドア

ドア 誰しも人生に迷ったときに限って 目の前にドアが現れるのです そのドアの向こう側に出れば 多分、あなたは助かるはずです しかし そのドアは絶対押しても引いても 開かないでしょう もちろん力尽きて もたれてみても 開かない どうしますか? 缶詰も水もお金も才能も 恋人の命も恋心も愛情も 底を尽いてきましたよ ヒントを与えましょうか 私はあなた方が 詩人や物書きであるという前提で この謎を述べています もう開け方はわかりましたね 自分で書けばいいのです そのドアの真ん中に 自分の字で 「入口」か「出口」かを

投稿者 つるぎ れい : 13:04 | コメント (0) | トラックバック

てのひら

てのひら 簡単に嘆くことよりも 喜ぶことを覚えなさい 死ぬことよりも 生きることを学びなさい 世界は君が思うほど 怖いものではないのだから 泣きじゃくる私の頭を撫でる手は 優しいぬくもりを帯びていた あなたの唇から説かれた生命(いのち)たちが 春の日だまりの中目覚めるので 私はこみあげる涙をおさえきれない 春憂いのせいだよと 叱ってください 通過点の一つだと 笑ってください でなければ求めてしまう 木漏れ日のような あなたのてのひら

投稿者 つるぎ れい : 12:35 | コメント (0) | トラックバック

コギト

コギト 若者が  焚きつける炎の中に 言葉を投げ込むのは何故だ   それは若さという火種   誰もそうだったように   お前もそうやって生きてきたんだろう 甘い声で囁く悪魔 駅前のバス停から 吐き出される 鈍い光を放つ革靴達の群れ   あれは監獄へと向かうのだよ 老婆は北の地を指差して笑う 朝の来ない独房で 君は私が何をしているか知っているか 毎晩見知らぬ美しい裸体女を糧に 苦めのパイナップルジュースを搾っている   湿った熱を握る   ソレの為の手のひらで   恋人の肩を抱き寄せるのよ そう嘲笑うのは 練乳まみれの グラビア雑誌の熟女 では泥濘の地でも踏み締めて立つ 揺るがない真実はあるのか 私が問うと 私の中の神(わたし)が答える それは考えるお前 コギト・エルゴ・スム (我思うゆえに我あり) それがお前の生きている手ごたえ それがお前の生存許可書 それがお前の思想の足跡 私の内で脈動する 性と死と春の

投稿者 つるぎ れい : 12:27 | コメント (0) | トラックバック

くれない

くれない まどろみの穏やかさを割いて 昼寝の僕を急き立てるのは 水色の携帯 「あなたのくれた薔薇が今日咲きました。香りが凄く高いの、それでね・・・、あんまりうれしいから、花びらを一枚食べました。」 嬉しそうにさえずる小鳥は 僕のあげた薔薇の花弁を一枚食べてしまったらしい そうやって僕の薔薇は育つ 彼女の中で育つ それは僕が梳いてあげる髪となり それは僕が吸う乳房となり その奥で流れる紅さと鼓動となり 僕の体液も渦を撒いて彼女に満ちる そんなにいいものか 僕は庭の隅に晴れやかに咲く ピンクローズ一本にハサミを入れると 部屋に持ち帰り茎に沿って葉を切り落とす 次に棘を抜き取る 茎一本に重々しい冠をつけた女に 僕は彼女を重ねる 寝室で浴衣から白い体をはだけて 僕に全てをゆだねきった 健気な女を思い出す 僕は彼女の最後の冠(とりで)を優しくひきちぎると サディスティックな欲望が正当化される 恥辱の香を放ちながら 一枚一枚と着脱される彼女 見られて怯えながらも求め続ける 彼女の潤んだ目を思い出す 僕にしがみついて 赦しを請いながら 啼いて悦ぶ彼女の海底(うみぞこ) 指を這わせて あやつった夜 爪弾く僕の指先 泳ぐ体 壊れた時間 狂いかけの彼女 くれないに染まったふたり 薔薇の花びらを全部ひきちぎった時 僕の指はしめっていた

投稿者 つるぎ れい : 12:22 | コメント (0) | トラックバック

愛は風化する

愛は風化する 君に何度も「愛している」「必ず幸せにする」 と、言っていたのに 僕は、今日死ぬ 君への愛より僕のエゴが勝った日 僕は死ぬ 空虚感に襲われた街で 遺言状をばらまいたら 「チンケな広告なら間に合ってるよ!」とのあざ笑いが 頭上のカラスの糞と一緒に落とされた 聖人が 「地上に不必要な人間などいないのです。」 と、語るその名言こそ不必要 そんな言葉を鵜呑みにしたら ダラダラと煩悩の数だけ生きてしまうよ 坊主とて女遊びをする時代 気楽にそれを冗談にできるボキャブラリィなど 僕は持ち合わせていなかった 君に 「僕は、今日死ぬから」 と伝えると 「一緒に死にたい」 という 多分それは、予想していた答え 情死に3回失敗した三文物書きみたいにはなりたくなくて 「僕の息の根が止まるのを確認してから、君は死ぬんだよ。」 と、お願いすると 君は美しく笑って小さく頷いた できれば僕の死体が無様であることを祈る 君に死への恐怖が訪れることを 僕への愛が嘘っぱちの空っぽであったことを この猿芝居は一人舞台だったと 弱虫の僕が強がって飛び降りたグランドキャニオンの奈落の底 そこから僕には記憶がない ただ君が、僕の知らない誰かの横で 花のように笑っていてくれたらと思う 遺言状は漫才のネタになるが 僕を、ねぇ、もし僕のことが 君の中で風化するなら 僕の肉体が砂塵になり 君の目に入った時は 「あれ、なぜ、泣いてるのかしら?」 と、彼氏の前でおもいっきり笑って見せてくれ 激しい蜜月の形見を弔いに 愛は虚空を彷徨い続け やがては 思い出と共に風化する 

投稿者 つるぎ れい : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

閉ざされたアトリエ

閉ざされたアトリエ                               呪文は「花に毒薬、姫にヘビ」  助けに参りました姫、私は隣国の王子、名はヘビと申す者です  こんな閉ざされたアトリエで、貴女は何を描くのでしょう  こんな光も射さない暗闇で貴女は何を描けるのでしょう  家老の者たちが外の世界を遮断したのですね  姫、私は外界の美しい色をしたものたちを知っています  私は地を這う者です  姫、貴女に足りないのは色です  花には水が必要なのです  貴女が知りたがっていた外の色を貴女のなか体内へ入れてご覧にいれましょう  さぁ体も心も私にゆだねなさい 麗しき幽閉王女よ  では私を飲み込むのです  何を恥じらうのですか  姫ともあろう方が怖いのですか  赤黒い細い舌先でくすぐられただけで花弁がふるえていますよ  さぁは挿いりますよ  鱗がこすれるのがたまらないのでしょう  そんなはしたないお声をあげて 啼きながらうれしがって  貴女はよほどこの時を望んでおられたのですね  私が貴女にお教えする色は甘美な毒と蜜の味  この味を知ったなら このアトリエは無用の城壁  もう絵など描かなくても良いのです  ただ私と交わり混ざり合い 一つになる快楽を求めるままにむさぼるのみ  天上の姫、地上のヘビ  決して触れ合うことのない二人が突き上げ突き堕とした毒のなか胎  さぁ合い言葉を  ふるえるその清らかな唇から、淫猥なる至上のうた詩を!  「花に毒薬、姫にヘビ」  かくして暗闇に一条の光が射して  薄汚いキャンバスには艶美に狂う蛇二匹  千年来世の夢を見る

投稿者 つるぎ れい : 12:10 | コメント (0) | トラックバック

おとぎ話

おとぎ話 僕は君を失ったらきっと狂うよ オフィーリアの意識が浸透してくるベッドの中で 僕は夢見心地で君にささやく 「狂ってから、死のうか」 貴女のいない世界に一人 生きる強さが僕にはない それではあなたを食べてあげましょう 彼女は言う 一生懸命一片の肉片も残さず 食べてあげるわ 「女郎蜘蛛」だね あなたが言ったのよ 私のことを「けなげな女郎蜘蛛」だって じゃあ、僕は食べられちゃうんだね そうよ、あなたは誰からも好かれるから 誰にも渡さないの 重いな・・・君の愛は・・・ でもそれくらいの重い枷が 僕には丁度いい でも食べたその後は? そうね あなたを身籠るわ 他の誰のところにも転生できないように そして身籠ったその後は? あなたを産むわ そしてあなたは私に恋して 激情の果てに壊れればいい 壊れて死んだその後は? また食べるのよ 素敵だね 素敵でしょ そう笑い合いながら 僕は再び彼女の体に滑り込む 彼女は幽妙な海底 現世(うつしよ)から色情の恋獄に僕を繋ぎ止め 味わいながら巧みに踊る もう僕は戻れないほど溺れきっているのに 彼女のおとぎ話は終わらない

投稿者 つるぎ れい : 11:38 | コメント (0) | トラックバック

籠の鳥

籠の鳥 小鳥に自由を与えた 籠の中に入れて 啼き方を覚えさせ 餌づけをし ラム酒を少し入れた水で 毎日可愛がっていたのだけれど 小鳥に自由を与えた 小鳥はいつも 「あなたのモノよ」 と、さえずるけれど それは本当の事なのか 小鳥に自由を与えた 愛でるだけ、かわいがるだけでは 僕の疑惑は首をもたげる だから小鳥に自由を与えた かれこれ三日は帰ってこない 今頃小鳥は仲間を見つけて 違う喜びを知ったはず 僕の苦悩とひきかえに 小鳥は夢見心地でさえずるはず 「こんな世界があったのか」 「こんな自由があったのか」と 〜自由になった小鳥はきっと帰ることはないよ〜 悪魔のような囁きが頭の中でリフレインする 僕は知りたかったんだ 僕は確かめたかったんだ 小鳥はずっと僕の傍でさえずる事が 本当の幸福であるのだと 僕は小鳥が去った籠の中 「あなたのモノよ」 という残声を胸に抱いたまま 籠(きみ)の中で囚われの身

投稿者 つるぎ れい : 11:31 | コメント (0) | トラックバック

夢の又ゆめ

夢の又ゆめ 魂なんてみえないくせに 「仕事魂」 「女魂」 命なんて地球より重いんだぜ! 英雄の 名台詞の裏側で なりやまない リストカットと 闇に葬られる中絶児 時給九百八十円だった私 どれだけ動いた どれだけ泣いた どれだけ愛した どれだけ誇れる 自分がいる 自分がいる ベッドの上でデカルト気取り 檻の中のソクラテス だから ここから出なければ 魂には響かない 命は語れない 賃金袋は穴だらけ 生きるためには 大切なモノは量り売り どんなに明確な 宝地図も 持ってるだけじゃ 宝箱は蓋を空けて カビまみれ 病み上がりの 色眼鏡じゃ 探し物は見つからない

投稿者 つるぎ れい : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

2009年09月12日

慈母観音様へ

慈母観音様へ 戦後資本主義が生んだユウセイホゴホウにより 堕胎天国は幕を開け 女共は 素知らぬ顔で殺し続けた 透明な骸を何体背負っているかが ステータスになった男に足を開き 従軍慰安婦の末裔は 要らない命ばかり生産する 間違えて産んでしまいました の生存許可書は剥奪され 虐待と衰退と餓死の履歴書は積載量オーバー 社会保険庁博愛児童福祉課は 困るんですよねぇ の、一点張りで 会議室は愛想笑い 親の顔を知らない子 親の笑顔を知らない子 同じ地獄に住んだ子らよ 産まれたかったか? 死にたかったか? 埋まれのは泣き声か? 亡くしたのは無邪気さか? 封じられた産声 聞かされなかった子守唄 慈母観音様 どちらもヒネクレ者でそちらに逝きます どうか別け隔てなく 抱いてください 愛してください 胸に響く優しい声で 光の絵本を読んであげてください みんな良い子です すぐ眠って夢をみます 約束された来世の幸福を握って 未(ま)だみぬ優しい両親のてのひらを夢みて…

投稿者 つるぎ れい : 18:46 | コメント (0) | トラックバック

ロクデナシ

ロクデナシ  その頃『世界に一つだけの花』という曲が流行した。 〝№1にならなくてもいい   もともと特別な ONRY ONE〟  それはそれでいいだろう。それはそれでそう思えれば幸せだろう。  でも僕は№1になりたかった。安隠とした平単な毎日に自分を置きたくなかった。  「この中で全国模試三位の人間がいる。――溝口泉くんです。」  あたりまえといえば、あたりまえの結果だった。僕は凡人とは違う。かといって天才でもない。でもより完璧に近い人間になろうとする努力をおこたっているわけではない  ――№1にならなきゃ、意味がない――  僕をいつもそうかりたてるものは、人々の賞讃の言葉と羨望の眼差しと母の言葉だった。  「泉、なんでもいいから良いことで一番になってちょうだい。泉は何でも良くできるしとってもいい子だもの。母さん期待してるわ・・・。」  下校途中の車内の中で、何度も聞かされた言葉だった。僕は幼な心に、 「母さん!僕が一番になったら誉めてくれる?」 と満面の笑顔で尋ねたことがある。すると母は、誉めてあげるとは言わずに 「泉が世間で有名になったら、みんなをビックリさせて、父さんの借金を全額返済してあげてね・・・。」 と、僕の方を見ずに言った。  僕の父は、長所として人あたりが良かったが、それが短所となり、よく人に騙された。 某人の級友というだけでその保証人になったり、マルチ商法に騙されたりして、ついには自営業の会社を倒産させ、田畑を全部売り払っても、まだ三千万残る借金をしたのだった。  その時から母さんの口ぐせは 「父さんのようなロクデナシになってはダメ!!あんたは父さんとは違う!今に世間をあっと言わす大物になるのよ・・・!!」 と言うのが常であった。  ――母さんを嬉ばせたい。誉められたい。父の苦労から解放させてあげたい。その為なら僕はなんだってしただろう・・・。  その思いが今の僕を造った。僕はいつの頃からか自分の価値というものが、人に認められること、母さんに誉められること、その賞讃の言葉全てが僕の存在理由となった。  十六歳の少年が、王者の夢を抱くことはたやすかった。  クラス替えで、鶴町と出会った。僕が初めて興味を持った人間だった。学力が優れているわけでもなく、かといって容姿がいいわけでもない。どちらかといえば、落ちこぼれという部類の人間に入るが、彼はひょうきんで 〝一番、尊くえらいのは自分だ!〟 なんて笑いながら大声で言うものだから、僕はそのバカバカしさに笑いが止まらなかった。  彼の人間的羨望の眼差しを自分に向けたい。本当にえらいのが誰なのか、はっきりさせてやろうじゃないかという気さえおこってくる。  ある日僕は鶴町に冗談で 「お前、自分のこと一番エライなんて言ってるけど、そのエライお前が尊敬している人って誰なんだよ。」 と聞くと鶴町は 「きまってるじゃん。両親だよ。」 と、笑って即答した。その答えは、僕をイライラさせるのに十分だった。  その日、家に帰ると母が泣いていた。パートで働いた金を父がパチンコに使ってしまったらしい。母さんは泣いて僕にすがってきた。 「泉、父さんに何とか言ってあげて!!母さんの生活の為にこんなに頑張っているのに、父さん分かってくれないの!」  女の細腕に、こんな力がどこからくるのかという勢いで僕に抱きつく母。もう三年も前に買ったほころびた服で、散髪も行っていないのび放題の白髪。〝こんな母に誰がした!!〟僕は、自分の力のなさを恨み、父への怒りをあらわにした。 「父さんは、何処にいるの?」 「自分の部屋でお酒を飲んでいるわ。」 「そう・・・。」  僕は父さんの部屋の襖を思いっきり開けた。 「父さん、なぜ父さんは母さんの気持ちがわからないんだ!何に考えてるんだよ!自分のやってることわかってんのかよ!母さんがどんな思いで暮らしてるか知ってんのか!」 と言うと、父は背を向けたまま 「お前、父さんの事どう思う・・・。」 と聞いた。 「最低だよ・・・いっそ死んでくれたらって思うよ・・・!!」 「そうか・・・。」 父は、こっちを見ずにポツリと言った。  それからというもの僕は暗澹とした毎日が続いた。家に帰れば必ずといっていいほど、母が泣いて僕に父の愚痴をいいつけてくる。 正直、勉強どころではなかった。そんな中僕の胸の中には一つの疑問がでてきた。  ――父さんの悪口を言う母さん。父さんを愛して結婚したんじゃなかったの?僕は、本当に祝福されて生まれてきたんだろうか?  僕には、両親の愛が信じられなくなっていた。  「――くん、 溝口くん、もう聞こえないの?」 「え、何だったっけ?南」 「あのね・・・。」  南というのは、幼なじみで今は僕の彼女だった。陽気で優しくて穏やかでかわいい。 僕が心を許せる唯一の女。ずっと一緒だった分、何でも話せた。だから僕は南の言葉なら信じられる。ところが、僕は次の瞬間、意外な言葉を聞く。 「あのね・・・。鶴町くんっていい人ね。」  僕はその時、きっと怖い顔をしていたと思う。  いつも楽しそうで劣等感なんて全ったくない鶴町を、そして何よりも、自分が一番尊敬できるのは両親だと笑って答えた鶴町を、南は、僕の目の前で誉めた。僕に何が足りない。 完璧になろうとしている努力をすればするほど、僕は鶴町に全てを奪われてゆくような気がしていた。  その日を境に僕は、精神安定剤を常用するようになった。一時的な心の平安の中でも、鶴町の存在は僕を恐怖させた。 ――この薬を飲めば、鶴町のようになれる・・・そんなおかしな妄想まで抱くようになっていた。誰も信じられなかった。もちろん自分すら。  いつのまにか僕は、自分に足りないものを補うかのように薬を服用していった。  学校へ行けなくなったのは、薬を服用してからそう長くはなかった。行きたくても行けないのだ。鶴町の横で南が笑っているようで恐かったのだ。そしてしの笑みが、学校へ行けない僕への嘲笑であるかのような気さえしてくる。いや、南だけではない。世間が世界が、僕の事を嘲笑っているようで、ただ怖かった・・・。  部屋を暗くして、できるだけ動かないようにした。 ――太陽に見つかってしまう・・・  僕は陽のあたる全てのものから隠れなければいけなかった。  「泉、あなたどうしたのよ。あなただけが母さん頼りなのよ・・・。」  学校にも行かず、勉強もできなくなった僕に母は、参考書を持ってきた。僕はうつろな目でそれを見て小さく 「母さん、もう本はいらないんだ・・・。友だちが欲しいんだ・・・。」 とだけ言った。  「僕は孤独だった。勉強が出来ない自分に価値をみいだすことなどできなかった。世間から、社会から適応できない自分がはがゆかったが、薬はそんな僕の意識をゆっくりと飲みこんでいった。焦燥感と不安と、僕ではない自分への安定感との空回りの日々が続いていった。  それでもやっぱり薬は一時的なものにすぎなかった。薬が切れると、僕は錯乱した。学校へ行けない自分を責めた。大声でわめいて窓にむかって椅子を投げつけた。そうなると母が決まって 「泉、いい子だから薬を飲んで。お願い。」 と泣きながら、薬を持ってくる。この時の母の涙は、僕への失望感の涙だったのか、愛の涙だったのかはわからない。だってその時僕は自分の事で精一杯だったから。  ――今夜死のう。そう決心した。薬でふらつく足で台所へ向かう。収納ドアから包丁を取り出し手首にあてた。ヒヤッとした冷気が僕を興奮させた。思いきって強く押しあてて引いた時、鋭い痛みが体中にはしった。僕は僕の痛みに驚いた。  ――まだ痛みを感じるのか!こんなに絶望しているのに。まだ未練があるのか!こんな頭をひきずって生きていかなければならない自分。人としての価値を失っているのに!この痛みが皮肉にも僕に生きていると告げてくる。役立たずのこの僕は真夜中の台所で大声で泣いた。 初めて産声をあげたように泣いた。 〝ここにいる。助けて!愛して!〟 というふうに。  手首を刻んだ夜なによりも、僕の心が痛がっていた。                    気がついた時、一番始めに見えたものは白い天井だった。 左手がドクドク痛んで目をやると包帯が巻いてあった。石腹が重いのでそっと頭をあげると、父さんがうつむいて眠っていた。病院だった。父さんが運んだらしい。  僕は起き上がろうとしたが体だがだるくて動けなかった。 「安定剤が効いている。あんまり動かない方がいい。」  眠っていると思っていた父が、うつむいたまま低い声で言った。 「お前どうして自殺しようとした?」 という父の問いに答える気力もなかった。 〝僕にはもう人間的価値がないんだよ〟とは言えず逆に 「父さんは、なぜ母さんと結婚したの?」 と、とりとめのないことを聞いた。  父はうつむいたまま語りだした。  「母さんは、働き者で、何でもできて負けん気が強くて美しい女性だった。俺が結婚の日を選んだ時も、〝その日は社内旅行でハワイに行く日だから〟なんて俺を困らせたりしたもんだ。お前が生まれる前、父さんは浮気した事があるんだ。寝言で〝愛子ちゃん〟と母さん以外の女の名を呼んだ時、母さん実家に帰っちゃって、俺は帰ってきて下さい。お願いします!なんて土下座したこともある。今思えば本当に惚れてたんだろう。 お前が母さんのお腹の中にいる時、旅行したことがある。そこのなだらかな平野で、母さんと約束したのは、二十年後三人でまたこの地にこようと言ったんだ。それなのに、俺は母さんに苦労ばかりさせてしまった。俺には母さんやお前のような才能はない。もっていたものといえば小さな会社だけだ。今はもうそれすらもない・・・。それでも、信じてはくれないだろうけど、父さんの守りたいものは今も昔も、お前と母さんだけなんだ・・・それなのに・・・お前は・・・。私はただ、お前と母さんの笑っている顔を見たかっただけなのに!!」  父はまるでこの十六年間を後悔するかのようにうつむいたまま嗚咽を漏らした。  ――この人は不器用なのだ。そして寂しかったのだ。働いても働いても、家族に認められない辛さ。一番幸せにしたい人に罵られる辛さ。僕は何故わかってあげられなかったんだろう。社会的にかけている物が、人間的に欠けているものと、どうして言える?  僕が本当に憎んでいたのは、そんなに何でもできて何でも知っているくせに父の愛を信じられない自分の孤独をおしつけてきた、かわいそうな母へだったのかもしれない。  誰も誉められたい。誰も認められたい。そして誰も愛されたい。ロクデナシは父さんじゃない。父と母の痛みを裁き続けた僕自身だったのだ・・・。  「父さん、僕に言ったさっきの言葉、母さんにも言ってあげなよ・・・。」  僕はそう言うのがやっとで、すぐ眠ってしまった。もう怖い夢は見ないような気がした。  目覚めたのは次の日の夕方だった。ゆっくりと体を起こして窓の外をなんとなく見ていた。コンコンとノックする音がして、僕はドアをふり向いた。 「入るぜ。」 ――鶴町だった。  おそらく南が僕の自殺未遂の事を彼に告げたのだろう・・・。もうそんなことはどうでもよかった。僕の心は自然と穏やかだった。友達がきてくれたことの方がむしろ嬉しかった。  「お前、ちょっと見ない間にえらく儚くなっちまったなぁ。」 と、いうのが鶴町の第一声だった。 「相変わらず、君はおもしろいなぁ。」 と、小さく笑うと鶴町は少し驚いたように、 「お前、そんな風に笑えるんだなぁ。」 と、まじまじと僕を見返した。あんまりみてくるものだから僕は恥ずかしくなってしまった。 「いや、なんか昔は、〝俺に触ったらケガするぜ〟って感じで正直怖かった。なんか昔の俺もそんな感じだったから・・・。」  僕は、鶴町のその口調の重たさに同じ匂いを感じた。  ――彼にだけ今までの事を聞いてもらおう・・・。そんなことで悩んでいたのかと笑われてもいい。  僕は、今の僕の心の証人をつくりたかった。  僕は鶴町に全部話した。№1であり続けたかった葛藤、鶴町という存在の恐怖、両親の不和、南への不信、両親への疑心、追いつめられる毎日のこと、自殺、父との和解・・・。ゆっくり話すつもりが吐き出すように話していた。安静剤も効果を失うほど、僕は興奮していた。 みんな言いたかった。みんな聞いて欲しかった。僕ごと全部、鶴町だけに受け止めて欲しかったのかもしれない。何がそうさせるのかはしらないが、僕は全部話し終わると泣いてしまった。 「情けないだろう僕は・・・。自分でも自分がこんなに弱い人間だったなんてって思うよ。いつもみたいに笑い飛ばしてくれよ。」 僕は鶴町の顔を見るのが恐かった。ただ恐かった。僕はずっとうつむいたまま涙を流していた。  「お前、今歩けるか?」 僕に背を向けた鶴町に僕は 「ああ。」 と答えた。 「今、夕焼け綺麗だから、屋上あがらないかそう言う話だったら、屋上で聞いてやる。俺こうみえてもロマンチストだから。」  その言葉に僕はパジャマの上からフリースのジャケットを羽織ってベットからでようとしたのだが、足がふらついて転んでしまった。 鶴町は、そんな様子を見て 「仕方のない奴だな。」 と、僕に手を差し出した。鶴町の手は暖かかった。  屋上は、一面夕焼けだった。街も樹も山も畑もみんな真っ赤に染まっていた。僕は鶴町と給水塔の下の段差に腰かけた。 「さっき話しだけど・・・。」 切り出したのは鶴町だった。 「お前が話してくれたから、俺も言うけど今から話すことは絶対秘密にしていてくれ、今そう誓え!!」  不仕付で横暴な鶴町に圧倒された僕は 「わかった。誓う・・・。」 と、返事した。  僕はこれから鶴町の意外な過去を聞く。 「俺、ちょっとだけ少年院に入ってたことがある・・・。」  「俺の母さんは俺を産むと他界した。俺は父親に育てられた。片親というのははっきり言ってつらいもんだよ。小さい頃から親父は仕事、仕事で俺には構ってくれない。 夜一人で眠る淋しさをまぎらわせる為に俺は夜になると街に出回るようになった。ネオンの下には人間がいた。活気があった。俺が気がついた頃には、この明かりの下に群がる連中たちと一緒にバカをやっていた。金がなくなったら平気で街の親父どもを叩きのめし金を取った。その金でいいモノを食って商売女も抱いた。気にいらない奴は半殺しにした。 その頃の俺は、まるで何かに憑かれたように街へくり出しては暴れた。でも金があっても気にいらない奴の腕をへし折っても、俺は満たされることはなかったんだ・・・。 〝これを打つと極楽へ行けるよ〟そんな薬の売人のあおり文句が俺を夢中にさせた。俺は親父狩りでためこんだ金を全部ヘロインにつぎこんでいった。白い粉を溶かし込んだ注射器何度も腕に刺した。極楽というのか頭の芯が痺れて、うっとりした。現実からの解放。このままそれが永遠になって欲しいと願った。そうだ。俺は何かから逃げ出したかったのかもしれない。俺はいつしか覚醒剤なしでは生きていけない体になっていたんだ。  親父に見つかったのは路上で倒れている俺を警察が呼んだからだ。俺は親父狩りできる体力もなかった。うつろな瞳で親父を見上げたら、親父は俺をおもいっきりぶん殴りやがった。警察が薬物中毒看者用の病院を手配したが親父は、家に連れて帰るといいはってそれから親父と俺の戦争が始まった。薬が切れると、人が化け物に見える。親父も例外じゃなかった。暴れる俺に親父が近づいてくる。それだけで俺には十分すぎる程の地獄だった。笑う声、罵しる声、獣の声、車の音、歪んだ空間ここがどういう世界なのかわからなかった。絨毯を這う、体のちぎれた男、水道の蛇口から出る海月、こっちに向かってくる暴炎、見えない恐怖に怯え、自分の出す叫びはもはや人間の声ではなかった。エリートだった親父は会社をやめ、俺につきっきりになった。力強く俺を押さえつけ何時間も同じ体制で俺についていた。「大丈夫だ。お前は強い子だ。だから大丈夫だ。」俺にいっているのか、自分でいいきかせているのかわからなかった。 「それは薬がぬける少し前だった。俺はどうしょうもない恐怖心から逃げたくて親父の財布をくすねて薬の売人の所へ行こうとした。親父は止めに俺の背中から腹にかけて腕をまわした。俺は、その腕をふり切ると台所にある包丁で親父めがけて飛び込んだ。  ――親父はよけなかった・・・。  右腹を押さえて、 『つらかったな・・・。』 とだけ言って倒れたんだ。」  鶴町は夕日を見ながら淡々と語る。でも肩が震えていた。 「お前に俺の宝物を見せてやるよ。」 そういって僕に手渡されたのは黄色くなった皺皴の封筒だった。表には 〝明へ〟 と書いてある。  鶴町の父が鶴町に宛てた手紙だった。  〝明。元気でやっているか。少年院の生活には慣れたか?父さんの方は今、新しい建築物の設計で忙しい。お前に会えにいけないので手紙を書くことにした。  明、お前は、母さんが命をかけて産んだ私の形見だ。『明』という名は母さんが名付けたものだ。明けの明星に産声をあげたお前を母さんは、『明るく輝いて生きる子に育つように』という意味ををこめた。母さんは、 「私の宝物、あなたにあげる。大切にして。」 と言って死んでいった。お前を大切にしたかったのに、少年院(そんなところ)にやった自分を情けなく思う。だがな、明。どんな所にいても、お前はお前らしく輝いて生きて行け!決して死ぬな!生きていてさえくれればいい。どんなに社会に打ちのめされても、父さんはいつだって見方だ。だってお前はこの世でたった一人の父さんと母さんの自慢の息子なんだから。私の一人は淋しいんだ。明、早く帰ってこい〟  手紙を読み終ると鶴町は続けた。 「それを少年院で読んで嬉しかったんだよ。俺それまで親父から母さんを奪ったのは自分だって思ってた。俺は、こんなにも愛されて望まれて生まれてきたんだって。ホント誇りに思うよ。そしてね・・・。気付いたんだ。俺が半殺しにした奴の親も親父のように泣いてたんじゃないかって・・・。」  死んでもいい親なんていない。  望まれない子供なんていない。  僕たちはそう確かめ合った。  二人で黙って夕焼けを見る。本当にきれいな空だった。茜雲がゆっくりと通りすぎ、新しい雲を呼ぶ。その雲の輪郭を夕日が映し出した。僕達は同じモノを見ていた。  鶴町にはかなわない。これじゃあ南も好きになるわけだ。そう思って 「なぁ、鶴町、南を大切にしてやれよ・・・。」 と言うと、鶴町はキョトンとした顔をした。 「何言ってんの?お前、南はお前にゾッコンだぜ。何を勘違いしているのかは知らないが、お前が元気がないって、ずっと悩んでいたぜ。全くそう言うことは本人に話せっつうの!相談される身にもなってみろよ・・・。アレ・・・?もしかしてお前、妬いてたのか?」  鶴町は意地悪そうにニヤニヤ笑った。僕は恥ずかしくなってうつむいて、黙ってしまった。                                   完 -------------------------------------------------------------------------------- 散文(批評随筆小説等) ロクデナシ Copyright 為平 澪 2009-03-03 04:06:21縦  

投稿者 つるぎ れい : 17:11 | コメント (0) | トラックバック

割れたトマト

割れたトマト さんじゅうよんさいにもなって 母親にトマトをふたつ おもいっきり なげつける 母は心臓が悪い 母は老化がはやい 母は寝たきり さんじゅうよんさいにもなって 母親にトマトをふたつ おもいっきり なげつける 割れたトマトは 私の頭だったのか 母の心だったのか 先端から まっしぐらに 数々の ヒビが入り ふたつとも 赤い涙を流していた

投稿者 つるぎ れい : 14:38 | コメント (0) | トラックバック

     虹 虹を あなたにあげたいんだ たくさんの色をしていて 空に続く橋のようで きっと ふたりで渡れば 夢に辿り着くはず きみの病気も あの掛け橋の向こう側には きっとないはず だから 走って走って 雨がやむまえにって 太陽が沈むまえにって 祈りながら走ったのに ぼくの手には 転んだ時の泥しか つかんでなかった それなのに きみは 私が見たかったのは 虹じゃなくて 泥だらけのあなたなの なんて笑うもんだから ぼくは泣けてしまって 泣けてしまって 西日がさす 病室で ぼくの顔に うっすらと 虹ができてしまうんだ

投稿者 つるぎ れい : 14:21 | コメント (0) | トラックバック

世界に微笑

  世界に微笑 病院の待合室で 吼えまくる老女の悲命(ヒメイ) で、本が読めない 苛立ちの後ろ側には きちんとアマチュア精神分析者たちの指定席が用意されていた 子供はアメが欲しいとねだり 五病棟では甘い尿を蟻たちが待ち受けている 商談成立に足早に歩む医薬品セールスマンの声の高揚に追いつくためには 彼女のエフカップが必要だ 人は速さの違う時計を飼っていて その連鎖作用が地球(せかい)を裏側から手回しする 思考が残酷な人生の支配者という結論をまぎらわすために とりあえずバスの待合室に書かれた  「S E X 」 の、スプレー文字に二本の縦線を入れて  「S 田 X 」 にしたのに まだ、どこかのバカヤロウが落書きした  「プリンセスマンコー」 のイリュージョンに、笑いが止まらない

投稿者 つるぎ れい : 14:17 | コメント (0) | トラックバック

リカちゃん人形

  リカちゃん人形 「どうぞご自由に触って遊んでいってください。   その後は、元の所に片付けてください。」 デパートの一角のおもちゃ売り場に、なぐり書きでかかれてある看板のすぐ下で、私は、恐ろしい光景を目にした。 なんと、パンツ一枚で仁王立ちしているリカちゃん人形。 全くどこの変質者だ!どこのフィギュアオタクだ! 私は、リカちゃんに白地に小花の半袖のワンピースをを着せると、まじまじみながら、心の中で、 「これでよし!」 と、呟いた。 ・・・途端、 「お母さん、あのオバチャン、ナニやってんの?あの人形触れるの〜?」 という五歳くらいの女の子が、私を、邪魔者扱いする。 ・・・・すいません。変質者は私です・・・。 そそくさと、その場から離れると、自分はリカちゃんに振り向き、  「君は、少女の夢であってくれ!」  「決して、男のロマンになるな!」 と、またしても心の中で呟いて、おもちゃ売り場を後にした。 バスの中で揺られながら、 今日の私はなんて良い事を、したんだろう! と、自分を褒めた。 家のベッドに横たわると、また違った感情に襲われた。 果たして、私は本当に良いことをしたんだろうか・・・? リカちゃんの大きな豪邸「リカちゃんハウス」 父親のピエールは、外国籍の有名指揮者 両親は中睦まじく、美しい姉妹で、三時にはティータイム たくさんの美しいドレスと靴で、高級クローゼットは、休む暇なし 王子のようなリカちゃんのボーイフレンドの、ワタル君 何不自由ない絵に描いたような貴族生活 女の子なら誰もが憧れる完璧な人形の国 でも でも・・・ 決してワタル君はリカちゃんとデートしても、 彼女のショーツを引き破ったり、 ましてや、リカちゃんに、カエルを裏返しにしたような体位をとらせたりはしないだろう。 せいぜい結婚したとしても手をつないで眠るだけで 「二人の赤ちゃんは、コウノトリがキャベツ畑でさらってくるのさ!」 なんて、キザなセリフを吐きながら、ほほえむだけの王子様 私は、昼間のデパートで、パンツ一枚で仁王立ちしていたリカちゃん人形の健気さを思い出す。  「どうぞ自由に触って遊んでください!」 あの看板は、まぎれもないリカちゃんの叫びだ!  「私を見てください。豪邸も、ステータスも、何も持たない裸の私と向き合ってください!」 リカちゃんは、人形からオンナになりたかったのだ。 弄ばれると知っていても、男の重みと熱さを感じたかったのだ。 少女がセーラー服を脱ぎたがるように ミスドのフレンチクルーラーの甘さを知りたがるように 腕時計の針は、ずっと真夜中を指すように 彼女は祈っただろう。 人形の涙は、官能の味がする 仁王立ちの裸のリカちゃん その姿は、少女が「春」に目覚める孤独の色だ   -------------------------------------------------------------------------------- 自由詩 リカちゃん人形 Copyright 為平 澪 2009-06-06 21:56:07縦  

投稿者 つるぎ れい : 14:14 | コメント (0) | トラックバック