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2016年10月27日

ヒルコ

(狼娘のお宿は何処だ
   それは夜ともなく昼ともなく 無差別に
   数多の男と交わった女の 落とし種
   種に理念なく伸びゆく手足なく目もなく耳もなく
   思いついたことを叫ぶしかない口があるだけ

(狼娘のお宿は何処だ
   男を千人切りした女の孤児なんやからな、
   あれが色情の業の姿というもんや。
   何、放っておいたら、直ぐ死ぬわ、
   あんな見た目も丸阿呆、叫ぶしかない奇形の児。
   それにな、昨日もヒルコがまた叫びよったやないか、
   【この村な、この村なァ、もうすぐしたら、なくなってしまうどぉ】

(狼娘のお宿は此処だ
   ヒルコ、なんか気持ち悪いわ、もう、殺(や)ってしまえや。
   不吉なことばっかりいいよる忌み児やし、
   村かって若いもん居らんのに、余裕かってないし、
   もう、ヒルコ、要らんやろ、役に立てへん児やし、
   わからんよう、殺(や)ってしまえや。
   ヒルコが居ること自体、村の恥よってに・・・。

(狼娘のお宿は此処だ
   せや、ヒルコは村のこと悪う言いよるでな、
   もう、見せしめや。ヒルコが居らんようになっても、
   ウチら、いっこうに、かまわんしな。
   こんなんどやろ、海の神さんの「人身御供」ちゅうんは・・・。
   それ、ええわ、ヒルコは役立つ、村の英雄で死ねるんや、
   役立たずが、役に立つ時がきたでな、じゃあコレで
   よろしゅう、頼んます

                 ※

縛られたまま海に放り投げられ、重石で沈められたヒルコの口から
何かが飛び出した、という噂も失せて、千の昼と夜が巡り終えると、
村は大津波の口から、すっぽりと腹の中へと、しまわれていった。

(狼娘は、お宿の中だ  
   

投稿者 tukiyomi : 21:16 | コメント (0) | トラックバック

2016年10月05日

鍵のかかる部屋

西日の射す部屋で
裾に黒い炭を付けたレースカーテン
輝きながら汚されていくことを思う

私は寂しい
ベッドの位置から進むことも退くこともできず
手のひらに収まる程の空気の厚みにすら押し潰されそうになる
時が頭の中を切り刻み 身体は痙攣している

数時間前の蛇同士の絞死刑の痕の嬌声
あ、の音をコップの水では飲み干せないまま
動けない四肢から床に深く埋葬されていく
あとからきてあとかたもなく過ぎ去っていくものの名を
片づけられないまま天井に答えを探す

(音の鳴るものは悲しいです。
(ケイタイとかスマホとか扉とかロックされて終わる声とか。

蝋燭の炎がゆっくりと立ち上がり揺れながら燃えていった
内側からも外側からも鍵は差し込まれ続けた
開かせてすべて暴くために指は鍵穴を回し続ける、
あ、の音。
クーラーの微風にも耐えていたレースカーテンの黒い秘密に
指が触れた
誰にも言ったことのないコトバを発し続けると
西日は視線を細めて一心に熱を浴びせた
黒かったものを白かったように言い訳して目を閉じる

私は開かれたままロックされた
成婚の痕が蝋燭の炎に炙り出される

鍵のかかる部屋に
   雌雄の区別のつかない蛇の抜け殻二つ
   燃え尽きて歪なだけの蝋燭の蝋
   腐って苦い水になった林檎

夜の扉を開いて 私は月に鍵を差し込む
カーテンで空は遮られると
あなたの指が 今夜もまた
壊れた林檎のカタチをなぞる

投稿者 tukiyomi : 16:20 | コメント (0) | トラックバック