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2018年12月31日

夜の中

電灯を持って 夜を渡っていく
陽に炙り上げられた煤けた空は
山影に 明かりをしまう

小指ほどの電灯をつけようと ボタンを押す前に
避け切れない車のライトに 身体は轢かれる
カーブミラーの中は 車が去ったあとの
痕跡を静かに見つめるだけだ

前方の二階の窓は火事
その隣の部屋で殺人事件が起きていた、と
ゴミ置き場のポスターの男が
赤い部屋へと指をさすが
交番の巡査は異常なしの欄に〇を書く

書いた〇は交番の玄関で赤信号より赤く灯る
濃いメイクの女の顔が得意そうに目配せを送り
それが私の肋骨の隙間のあたりを通過していく

   私は照らされ轢かれて 見つけ出されて跳ね飛ばされて
   砕けながら千切れた左手で傾く首を持ち上げ
   何とかまっすぐ歩こうと 追いつけない足を𠮟りつける

コンビニに辿り着く前に恋人と
動かない舌で話をしたような気がしたが
店員に中身のない財布を量りに乗せたら
全てなかったことになっていた

帰り道はさすがに暗いと思い
小指ほどの電灯のボタンを 
押して足元を照らしたら
うしろから私がついてきた

左手首で首を斜めに上向かせると
見たままの空が頭の上に貼りついた
星空は私と一緒に動くので
星はどんどんひっかかり
歩くたびに背中が 
みるみる重くなる

足元を照らしていた電灯が
地面を昼間に仕立て上げるころ
夜に泣いていたのは
もう赤ちゃんではなく 
おばあちゃんだった人だということが
明るみに出ていた

あのトタン屋根の二階の火事も殺人事件も
帰る頃には交番の手柄になっていたのに
入口の〇は更に赤い灯を点して浮いていた

巡査は濃いメイクの顔の女と旅に出た、と
掲示板には書いてある
行き先はゴミ置き場の男が指示したらしい

私はカーブミラーから 
必要な記憶を取り出すと 家路を急ぐ

   頭に貼りついていた星が流れ始める
   流星群の日は人がいっぱい死ぬのかなって
   一緒に空を眺めて星になった友人のことを
   下から見上げる

大きなドラムカンに何かを燃やし続けている家の畔の
大きな橋を渡ると 私の体は五体満足になっていた

坂の上の三叉路の三体のお地蔵さまに
お菓子を供えると
私の家の入口が開くのだという

         *

私に名前は 未だない

投稿者 tukiyomi : 23:48 | コメント (0) | トラックバック

2018年12月05日

縁側

一日中縁側で過ごす人は
陽の目を見るのが少なくなった人だ

何を話すでもなく 寄る猫を追い払うでもなく
牛乳屋を見送って 小学生の登下校に目をやりながら
物干し竿がハンガーごと錆びていくのを
固まったまま じっと見つめている人だ

庭に落ちた葉を
数えるでもなく教えるでもなく
減ることにも増やすことにも関心なく
塩辛いお茶の味を
いつまでも喉に含ませている人だ

日当たりのよい縁側は
手押し車の茶色いミシンを出し 脱穀機をまわし
庭にはうろつき回る鶏を放ち 雑魚獲りで捕獲した魚を泳がす

土手の上をヒルに咬まれた男の足が通り過ぎ
手拭いを頬被りした女が 柄杓の入ったバケツをおろし
縁側の方にお辞儀する
そのあとを金色の丸いやかんを抱えた子供が
必死でついていく

土をいじり 水をまき
育ったものと実を結ばなかったものを
庭は映し出していた

内側から見えるもの
そこを通り過ぎたもの
そして運び出されて戻ってこなかったものが
庭先で遊んでいる

赦すことも手放すこともできず
墓守りのように座り続けた長い影も
陽の傾いた縁側と重なり合いながら
少しずつ 倒されていく

投稿者 tukiyomi : 21:55 | コメント (0) | トラックバック

宿題

母に愛を頂戴と 両手を差し出すと
母は遠い所を見るように 私を見つめる

朝 白い大きなお皿の上に
母の首が置いてあった
寝室の机の上にある手が握っていたのは
((少しでも足しになれば…、
という文字だった

私は
愛する、ということについて 解答するために
母の首を提出した
倫理の先生は激怒し警察に電話を掛けた
心理学や哲学の先生は大絶賛して拍手した
社会の先生は私を取材し
科学の先生は私の脳波を計った
そして医学部の講師は
母の首をいくらで売ってくれるかと
真夜中に呼び出した

ただ用務員のおじさんだけが
私と同じような解答をしたので
飼育係にさせられたという

私の答え合わせは 誰がするのだろう
愛する、ということを宿題にした人は 
一体誰だったのだろう

校舎では
警察やマスコミや大学教授やドクターが
大声でナニカを喋り続けている
母の首を抱えながら 自分の首を傾けると
飼育小屋の中にいる用務員のおじさんと目が合った

次の日 私の首が
飼育小屋の棚の上に置かれている夕刊が
出回った

どうやら宿題の答え合わせは
その先から 始まるらしい

投稿者 tukiyomi : 21:45 | コメント (0) | トラックバック