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2013年01月12日

川のほとり

川のほとり


私は川のほとりに
置きっ放しのものを並べている

小雨に濡れた癖毛とか
折りたためない傘のような恋話
幾重にも水面に広がるあなたの昔語り

川のほとりの森へゆく
白いワンピースが裸足に揺れる
あなたに誘われ 揺れながら
私はあなたの森へゆく

あなたの樹海は私を閉じ込め
誰にも知られない秘密を宿す

川のせせらぎが子宮に流れて
私たちは もつれあったり じゃれあって
あなたの汗が私の瞼をやさしく濡らし
同じ淋しさを分かち合う

滲んだ瞳でみえたもの
かるがもの群れは 去って行く
細すぎる雨が 頬を伝う
携帯の門限は 三十分
静かな風が 胸の真ん中を通り過ぎてゆく

薄れてゆく名詞たちを
並べなければならないほどに
私たちは同じ星にいながらも
いつも あなたは
星より遠い

抒情文芸145号
清水哲男 選
選外佳作作品

投稿者 つるぎ れい : 22:35 | コメント (0) | トラックバック

川のほとりで

川のほとりで


川のほとりで
私は石を積んでいます
或いは意志という言葉の危うさを
並べているのかもしれません

あなたは川のほとりを越えたのだから
もう会うことすらないのでしょう

未来の記憶が正しければ
あなたは確か
白装束に薄化粧
薄い紅を引いて箱に入った筈なのに
川のほとりで裸にされて
美しいまま 踝を水に浸して
その川を渡ってゆきました

私は川のほとりで石を積む
あなたの意志を受け継いだ
塔を築いて見せたくて

おかあさん…

寝息が聞こえません

今夜 あなたは川のほとりを振り返らずに
渡って逝く姿を私は見ています

私をおいて
そんなに幸せそうな顔をして…

「お互い生きることにつかれたね」

ひとこと 強く言い残した
あなたの意志を引き継いだまま
完成できない塔を
築けないと知りながら
川のほとりで 石を積む

詩と思想1・2月合併号入選作品

投稿者 つるぎ れい : 22:22 | コメント (0) | トラックバック

2013年01月09日

東京温度

東京温度


多摩川の水温は 多分温かい
不忍池の蓮の花は 年中色褪せない
銀座の画廊には おそらく辿り着けない

駅から駅へ 連鎖してゆく人々の
声を頼りに その表と裏を嗅ぎ分けながら
四方八方からのびる
黒と白のスクランブル交差点の真ん中で
私は
智恵子の見た空を見る

赤信号になる前に
私は私の東京行きの切符を
再び握りしめ
固いアスファルトや敷き詰められた
赤銅の道路を踏みしめて
柔らかな関西弁を履いて歩む

冬になる東京の街で
「阿多多羅山はどこですか?」
なんて聞いたら
「ここが阿多多羅山、ここがあなたの故郷(ふるさと)。」
と 答えてくれる人を探して
やって来たことは
東京駅で買った
ごま玉子と私の秘密

さよなら 東京

そして
ただいま

いつか第二の故郷にしたい
温かな
光と影の充ちる街

投稿者 つるぎ れい : 22:51 | コメント (0) | トラックバック