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2012年04月25日

恋人へ

恋人へ


恋人と呼んだ響きが悲しくてアドレスを消す泣くな親指


春めいた今より過去がせつなくて胸には虚空 瞳になみだ


君の名を真夜中に探す淋しさにくるまりながら泣いてしまおう


好きだった二人ぼっちの春の日々独白ばかり空に帰す夜

投稿者 つるぎ れい : 22:29 | コメント (0) | トラックバック

自然流通

自然流通


自然流通


深淵なる夜の
向こう側の空に
数多の風と雲を
数え上げ
ただ流れゆくまま
生きてゆく

在りし日の
あるがままに

あるがままの
自分のかたちで

投稿者 つるぎ れい : 22:26 | コメント (0) | トラックバック

密会

密会


エイプリルフールが記念日
月夜に時雨に濡れたい
酸素の足りない発情期
薄目をあけたら唇に嘘
伝言板は暗号で挨拶
ご主人様は入退院
傷が疼く 脚を伸ばす
東京と京都との距離をSkype
情欲儀式は忍耐でkeep
沈黙は薔薇一本で饒舌
ボディレンタルの利用
イラつきの帝国は崩壊


了解。

投稿者 つるぎ れい : 22:23 | コメント (0) | トラックバック


読み終えたら
いつか棄てられる本

例えば
本棚の片隅で埃にまみれて
タイトルが消えてたり
例えば
字の樹海に押し込められたまま
迷子になって泣き続けていたり
ましてや
ビニールテープで
ぐるぐる巻きに固められて
あの世に運ばれたり

そんな簡単なピリオドを
待ってたわけじゃない

もの言わぬあなたの
愛蔵書(こんせき)を旅するのが好き
一番好きなフレーズに
抱かれて眠るのが幸せ

あなたが もう
そのページを開くことが
叶わなくても
大切にしている行間に
私を挟んでくれたなら
文字の森の隙間から
一番星を見つけだし
薄い私を照らし出す
光に抱かれて眠りたい

投稿者 つるぎ れい : 22:21 | コメント (0) | トラックバック

2012年04月02日

sugar

sugar


甘い声で囁いて
あなたは私を溶かすつもりね

銀のスプーンで愛憎喜劇をかき混ぜて
コップの底に残っているのは
あなたの寛容すぎる真心だけ

あなたが飲み干してくれたのは
先走る私を
零れないように
癒してくれる
薄いくちづけ

午後三時の
マグカップの中にはレモンティー
ちょぴり酸っぱい世間から
すくい上げてくれたのは
いつだって
喉に染み付く甘さとゆとり

柔らかな日差し
指先二本の恋に
掻き回されて
私は素直に溶けてゆくけれど

いつかあなたが
疲れたときには
甘やかして笑わせて
眠らせてあげれる
私になると誓うわ

投稿者 つるぎ れい : 23:21 | コメント (0) | トラックバック

無題

無題


無題


私は焼けた砂場ではなく
夜中のブランコです

私は冷えたポカリスエットではなく
なかなか落ちない点滴です

父は冬の岩場ではなく
昔 井戸に置いてあった洗濯板です

母は向日葵ではなく
夕暮れに沈む太陽です

町の人は言います
「ああは、なりたくないもんだね…」

町の人は歩きます
私たち家族には
全然追いつけないスピードで

笑いながら

喋りながら

だから
カーテンを閉めます
耳栓をして目隠しして
家族仲良く暮らせるように
墓を掘りました

その墓碑名に刻んだのは
関係者以外立ち入り禁止

投稿者 つるぎ れい : 23:16 | コメント (0) | トラックバック

方舟

方舟


愛していると憎しみは
燃える薔薇の孤独と棘

記憶の中のあなたに
恋い焦がれても
錆び付いた絆の扉は
赤銅の鎧を
纏ったまま動かない

枯れ果てた涙を
引き寄せる手段の言葉は
方舟にのせられたまま
紀元前をさ迷っている

投稿者 つるぎ れい : 23:10 | コメント (0) | トラックバック

見送る

見送る


結婚は人生の墓場。
お母さんはなぁ、お父さんに騙されてんでぇ。仲人のおばさんがどうしてもって言うから、結婚したってん。
それまでお母さんはなぁ、大覚寺で生け花の師範を取り嵯峨流の看板も持っとる。
あんたにも、昔に見せたやろ。
お茶は裏千家一筋。
東芝で働いて、ずっと独身を通すつもりやったのに、お父さんと結婚したばっかりになぁ。
お母さんの体も人生もガタガタや…。


それは母にとって真実なのであろう

けれど
今 私の肩に片手をのせ
もう片手でズボンを掴み
バランスをとらなければ服が着られなくなった母
掴んだ肩にのしかかる
母の手のひらの悲しい重み

あぁ…お母さん

歌はじめ
歌人たちが華やぐあの異郷の地に赴く
安い服を着た背中の曲がった
白髪混じりのおばあちゃん

彼女の見送ったものは
何だったんだろう

私が 
今 見送った あの人は
一体 誰なのだろう


詩と思想4月号入選作品

投稿者 つるぎ れい : 23:06 | コメント (0) | トラックバック