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2014年11月30日

現代病

私の身分証明書を コピーし続けるバイヤーの友人は
お金半分と 見えない敵に脅されている

アパートの向かい同士に 姿のない隣人
電気のメーターの数字の物音だけ上がる

チカチカするディスプレイを
流し読みして指で止めると
次の街まで一気に辿りうけるようになったのに
宅配ピザが 深夜徘徊

ハンドルネームで呼び合う
今日限りの恋人同士が
変人に変わりました、と
三面記事

私は 昔の左手首にある 太い筋傷を眺めながら
窓から見えない 木のことなどを 中途半端に想像して
外の景色を画用紙に 美しく描いて見せる

震えながら 布団にもぐりこんで暗闇に溶け込む頃
新しいウィルスが 光に乗って
世界を侵食し始めた

投稿者 tukiyomi : 20:55 | コメント (0) | トラックバック

生きてはいけない

まず、お茶碗を洗いなさい。常識を覚えるのです。
つぎに、旦那のパンツを毎日 洗いなさい。愛を育むのです。
さいごに、幸せだったと言いなさい。約束を守るのです。

はい!
せんせい。せんせい!
質問していいですか?
お茶碗を洗えない片手のひとは、常識人にはなれないのですか
旦那様がいないひとは、愛されないのですか
約束を守れないひとは、幸せになることができないのですか

常識が邪魔をして生きれないのです

せんせい。せんせい!
こたえてください!
生きなさい、とは 逝きなさい、との
同意語ですか? 類義語ですか?

もう、せんせいすら、 答えてくれないのは
なぜですか・・・。

投稿者 tukiyomi : 20:47 | コメント (0) | トラックバック

2014年11月29日

乗り合わせ

平日午前十一時四十分発の
高速バスに乗る人は 
どこか イワクつき

一番初めに声をかけてきた おじさんは
昼間から泥酔していて
小さな透明のペットポトルの中に
日本酒を入れていた

「お嬢ちゃん、いっつもなぁ、この時間は
空いとるさかい、時間より早うバスが来るんやけどなぁ~。」

好い気分で分厚い唇から酒臭いにおいが
暗い鉄橋下の高速道路を 益々錆びつかせる

訳ありのセールスマン
同じ安いビジネスホテルから出てきて
何処へ行くのか

黒い重そうなキャリーケースを側に置き
秘密書類を見るような鋭い幾何学の視線
が、映す 腕時計の針の一秒先

流行りの布リュックにカンバッジを幾つも付けた
二人連れの女子中学生は 乗車と同時に
スマートフォホンで 無言の会話

切符には 囚人のように 赤い数字の番号

私たちは 何処に向かうのだろう

道路から私たちを覗き見していた
巨大な看板たちから バスが逃げ出すと

真っ黒いトンネルが・・・
巨大な口を開いて 待っていた

投稿者 tukiyomi : 22:39 | コメント (0) | トラックバック

2014年11月26日

濡れ落ち葉

都会の住宅街の歩道を 年末を迎えようとする空から
心臓に刺さる零度の雨が 濡れ落ち葉にも突き刺さる

若葉だった頃 親木が大切に繁らせた「父」という葉は
厳格ではなく 風が吹けば吹くままに
アッチにふらふら コッチにふらふら
やがては 対になった葉にすら 見捨てられ
結んだ木の芽に 軽蔑されて 罵声を浴びても
風の吹くまま気の向くままに 酒を飲んでは赤くなり
脅されては 青くなり やがて冬になる頃に
葉の先が黒く染まって 癌に巣くわれ血便垂れる

それでも 悔やんだ歳月を 取り戻すように
働くことだけやめなかった

(自分が死んだら 誰が家族養うんや)
(お父ちゃん 宝くじこうたから これで九州に家族でいこう)

そんな言葉 普通なら もっと早くに言うのが良い父親です、と
人は言うかもしれないが
血便の付きのズボンを自分で洗っては 家族に心配かけないようにと
箪笥の奥底にしまいこんでも 今更九州になんて行けない身体

私は都会の雨に打たれながら 雨に濡れた落ち葉を掃く
掃いても掃いてもアスファルトにこびりつく 濡れ落ち葉
赤黒い血便を垂らした父の 焔のような決意が
どうか安い箒で簡単に 掃き捨てられてしまわないように

特に 私のような弱虫や 
川の字に手を繋いで歩く幼稚園児の靴になど 
決して 踏まれませんように

投稿者 tukiyomi : 20:39 | コメント (0) | トラックバック

2014年11月11日

ぶらんこ

ブランコを こいでごらん
ここに座って ゆっくりと動かしてごらん
ブランコがわたしを喚ぶので 
わたしは赤い夕焼けをスカートに隠しながら こいでゆく
赤い空に向かってだんだん 滲んでいったのは
わたしの中を 巡る水
スカートの下の暗い夕暮れが わたし一人を責め立てる

夕焼け空とわたしは 世界からはみ出したまま飛んでいく
ブランコをゆすると わたしの胸も小さくふるえて
セーラー服の下の平らな胸は 少しずつふくらんで
幼い痛みに芽吹いてゆく
それでもわたしは夢中でブランコを こいでいた

ブランコの振り子が 天に届きそうな頃
わたしは沈んで堕ちてゆく 大きな赤黒い太陽に向かって
真っ新な白いスニーカーを蹴飛ばし 一番星にしてくれてやる

真夜中になってもわたしは ブランコをこぎつづけた
冷たい鎖をしっかりと掴んだ手の方角から 
暗い闇が押し寄せてくる
地下のマグマが ブランコを突き上げようと 振動する
わたしは こわくて 固く熱くなる鎖にしがみつく

ブランコは 小さな宇宙を渡る船だ
ブランコのなかでわたしは 一度死んで もう一度死ぬのだ
空を渡る船を わたしはこぎつづけなければならないのだ
変態を繰り返すわたしに 
今度はブランコ自身がわたしを 前にも後ろにも激しくゆさぶる

ブランコは 逆送する時間を刻む振り子だ
午前零時の数字に消して 短針の行方をくらますたびに、
わたしは、あああああ、という 自分の文字が暗い空で 
流れては溶けてゆくのだけを知る

前にも後ろにも苛まれながら
無くしたスニーカーの片方を
もう片足で見つけなければならない距離を
噛みしめる

夜空の脇腹から剥がされると 
わたしは昇りつめていた坂を さかさまに堕ちていく

朝 わたしは決まって夜の公園で まだ独り 
ゆれていたブランコのことを 思い出すと
いつも座っている椅子を赤く染めてしまう

茜空に消えた白いスニーカー
あの靴が わたしの片割れ

真っ赤に 染まった私を揺さぶる
裸のままで 泣いてる少女

投稿者 tukiyomi : 21:16 | コメント (0) | トラックバック

青い骨

左手首に巻き付いた羅針盤が 重い
針が進むたび あなたの温度は青白く
凍える海を目指してゆく

万年筆の先を
指に刺してでも 温もりを
あなたに注いであげたいのに
あなたは 時に苛まれながら
私の体へ少しずつ 遺言状を書き写す
(僕が死んだら、海へ散骨して欲しい)

私の体に沈んでゆく
あなたの声を忘れたくなくて
喉仏のあたりを 私は緩く齧る

左手首を締め付ける 海を指した羅針盤
あなたは 早く軽くなりたいと
もう一人の自分に 憧れながら
ノウゼンカズラが 項垂れて
落ちて逝く夏を呪うように羨望する
(来年もあの花を、二人で見られるだろうか)

海は、とおい、と、うねりをあげて
私達の 今夜を飲み込むだろう

夜の海に 染め上げた指で 
私はあなたの尖骨を ペン先にして
遺言状を 二通書き終えたら
きっと 私は二度死ぬだろう

とおい、と、海鳴りは 響く
左手首の羅針盤 針は重なり合ったまま
今、息を止めた

投稿者 tukiyomi : 19:09 | コメント (0) | トラックバック

2014年11月04日

マヌケな家政婦

片づけておいてね、って 言った
私の責任だとしても
鞄という鞄の ファスナーもホックも全部
ジッパーは下ろされ パックリと口を開けて
私を 逆さまに覗いて笑っていた

自分では見つからなかったモノすら
見つけられてしまっては
机の上に置いてあったし
窓際の洗濯鋏やハンガーには
恥も一緒に吊り下げられていた

片づけておいたよ、って
あなたは確かに言っていたのに
部屋の真ん中に置かれた鍵付きの
特大キャリーケース
ポツンとそのまま 置かれてた

 当然だよね
 鍵を閉めたまま
 鍵だけ持って帰ったんだから

 悔しかったでしょうね
 その中に あなたが一番みたい秘密が
 入っていたんだから


もう決して 開かないキャリーケース
もう決して 瞼を開くことのないあなた
片づけて 片づけて
私は 泣きながら
冷めた箱に キスをする


投稿者 tukiyomi : 20:40 | コメント (0) | トラックバック