2012年10月09日
意味のてのひら
意味の手のひら
誰かの為に歌うことになんの意味があるのだろう
ティシュを配るアルバイトの
彼氏を待つ女の腕時計の
パチンコの呼び込みの定員の
男を一時間半待たせて謝る女の
巨大な街に
飲み込まれなから
人は人と出会い
人に学び
人を知り
人と別れ
そのたびに
誰かの為の歌を
人は歌い始める
まるで握手した人数分の
手のひらの皺を数えるように
刻む記憶の悲しさ 深さ
あぁ、私は人の為に
歌った事がない
見ておくれ
この
皺ひとつない
理屈ばかり語りたがる
無意味な
手のひらを
詩と思想10月号佳作作品
蝶
蝶
ぬけがらになった心臓
ちからない白い腕
青白い血管が浮かぶ両の脚
広げさせ 広げさせ 広げさせ
瞳孔だけを動かす 私の裸に 指先から脚の爪先まで
少しずつ 少しずつ
細く長い針を刺す あなた
痛みを感じるまで赦さないと誓う
あなたは
私を甦らすために泣きながら針を刺し続ける
私は青白い死体の標本だ
あなたの涙で黒い髪は艶やかに濡れて
青白い血色は蛍光色となって
悲しみが哀しみを呼び覚まし
恋しさと愛しさは同化して
動脈が振動し始める
全身に刺さった棘に灼かれ
羽ばたけぬことに赦しを請い
苦痛の理由に涙を流す
死体から無痛の淋しさと悦びを背負って
私はいつか羽ばたくだろう
あなたが「蝶」という名の理由を授けた頃
私は標本箱の中で 一瞬だけ
綺麗に羽ばたける蝶
あなたはそっとその箱を
瞳にしまう
微笑みながら
微笑みながら
2012年06月29日
常春
常春
身体じゅうの痣から
透明な茎がでて
病室で溜め息を吐く度
花が咲く
プランタンの菫が
赤や紫や黄色になって
身体じゅうに咲く
痛くはない
辛くはない
ただ頭に
花が咲いたら
春がきたとおもいなさい
此方へは
還ってこれない
拘束ベッドの
箱庭で
枯れない菫が
植えられてゆく