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2012年11月30日

重ねる

重ねる


紅蓮の炎に燃え立つ
昼間の怒りを
黒い夜で鎮める

乾いた瞳に涙
汲み上げた水で
朝 顔を洗う

日が昇り太陽が
身体を焼き焦がす
日が沈み
濡れた風に身を晒す

囲まれた枠の中で
人生模様が
重ね塗りされて
濃さを増す

昨日より今日
今日より明日

怒り 悲しみを塗りつぶし
喜びを笑顔で照らしだし

一喜一憂の彩りの
重ねながら

人は
自分だけの絵を
完成させてゆく

投稿者 つるぎ れい : 14:56 | コメント (0) | トラックバック

樹海の輪

樹海の輪


カラカラと糸車を誰かがまわしている
その糸車の糸に多くの人の指が絡みつき
血塗られた憎しみの爪をのばしたり
いびつな恋敵の小指たちが
ピリピリと過去の妄念に反応して
親指は絞め殺されるように働きながら
天に一番近い中指に嫉妬しながらも
糸を燃やそうとする

カラカラと糸車はまわる
それは乾いた土地であり
それは渇いた喉元であり
蜘蛛の罠に引っかかった蝶が
食いちぎられていく羽の墜ちる音(ね)
最期の 悲命(ヒメイ)


   *     *

  (カラカラカラカラ・・・)

   *      *


さっきから大きな毒蜘蛛が樹海を編んでゆく
その下を長い大蛇が這ってゆく
細かい切れ間から もう 青空は望めない
蛇の腹の中で元詩人(ゲンシジン)たちの群れが
溶けて泡を吐く

見えない空
地上にない文字
樹海にはそうゆうものたちが浮遊して
死人たちがそれらを夢想して
この樹海を成立させているのか
乾いた音だけが響いてくる

    
    *       *

  (カラカラカラカラ・・・)

    *       *


誰かが糸車をまわしている
けれど
その糸にしがみついた多くの紅い情念たちが
歯車を狂わせてゆく

糸車をまわしていたのは誰だろう
それは 樹海をでっち上げた白い骨の妄念
散り散りになった散文詩
痩せた木の葉たちが 風に吹かれながら
くるくる回り続け
重い陽差しの切れ間を脱ぐって
やがて 土に還る


      (カラカラカラカラ・・・)


(カラカラカラカラ・・・)


     神は

      呼吸をするのを

         やめたらしい。  

      ※ 詩と思想新人賞2012年 第一次選考通過作品

投稿者 つるぎ れい : 11:09 | コメント (0) | トラックバック

世界の中心

世界の中心


悲しみを踝までに浸しては裸足で歩む触れたい背中


盲目の行方不明の両目たち夜を跨いであなたの夢へ


子守唄自分の為に歌っては涙を流すもうひとりの君


ただひとり私を信じてくれる人裏切りらないで夜明けの朝日


すぐそこに冬が来るから私たち肌のかたちが かまくらの熱


嘘つきと虚構と事実と小説と孤独と愛が詩人のスパイス


夜の闇静寂を滑り会いに行く私はいつかの御息所


箸が折れ携帯壊れヒステリーそんな私を畳んだ笑顔


いつの日もいついつまでも愛してるあなたはいつも世界の中心

 

投稿者 つるぎ れい : 11:00 | コメント (0) | トラックバック

2012年11月18日

メモ帳

メモ帳


あなたにもらった皮表紙のメモ帳に
文字がかけないでいる

昨夜の喘ぎ声の悲しみに言い訳したり
今日私についた嘘について説教してみたり
明日出会う友人とセーラー服を着ることを
全て
メモ帳に語りかけているのに
文字にはならない

変わりに
涙が零れて
真夜中にクチュクチュ鳴る指から
水蜜桃が割れて溢れ出て
親友の彼氏のノロケ話を
スィーツにして

あなたのくれたメモ帳が
重みを増して
日常生活の私の一部になるように

無声の私が
沢山ページをめくっていって
本当のことを言うと
メモ帳は
たった3日間で
全て書き込まれ

私の胸のポケットで
心音に温められては
鼓動だけを刻んでいる

投稿者 つるぎ れい : 20:11 | コメント (0) | トラックバック

2012年11月05日

秋空の海原

秋空の海原


とある田舎の早朝に
鱗雲は光を帯びて
金色の日常に
私のおはようの瞳(め)が
隙間に挟まったまま
泳げない

鱗雲の向こう側には
宝島があるのだろうか
太陽が隠し持ってる
宝箱を目指して
この町の午前六時半は
動き始める

昨晩の空からの訪問者は
夥しい水しぶきをたてて
はしゃいで帰ったので
草花は朝露の重さに
うなだれたまま
艶美な光の粒に
身体を洗っている最中

空には大海 地上には楽園

この張り詰めた
一日の始まりに
自転車に乗って
部活動に急ぐ
詰め襟少年も
地上から空に
宝島を目指す
水夫のひとり

自転車ペダルが回るほど
動き始める秋空の海
軽くなって行く私の足取り

そして東の空からは
まだ見ぬ向こう側の笑顔たち

やがて始まりの鐘が
晴れた空に響き渡るだろう
私の胸にも
あなたの空にも

投稿者 つるぎ れい : 10:41 | コメント (0) | トラックバック

2012年11月01日


「嘘がまことでまことが嘘で…」
昔の誰かの舞台のセリフを
僕は何度も繰り返しては
嘘の言葉を川岸に並べて
石を積んでいる
或いは意志という頑な
もろい正しさを壊したり創ったりして
シナリオみたいに並べてみては
まことしやかな 嘘に 罪悪感の印しを
川辺の石に刻んでいる

その意志が 君に届くように
或いは 届かないように
胸の内すら確かめられずに
言葉は千年先の虚構に隠されたまま
僕の描く世界に 君を
連れ去るにはどうしたらいいか
伝えるインクの色すら
セピアに褪せて消えていった

「嘘がまことでまことが嘘で…」
何度もその言葉を
石に刻んで叩いてみても
君の「秘密」を暴けないのは
君が 川辺で
バベルの塔くらいの高さで
その石たちを積み上げて
僕は いつの間にかブロックされていた

(暗い塔の中で嘘をついて泣いていたのはどっち?)

川辺の石の印しを文字の形にして
君に当てはめようと
あるはずのない 「真実(まこと)」を探しては
僕は さまよい続ける

言葉を無くしたままで
目を閉じたままで

光があったことすら
知らなかったようにして

投稿者 つるぎ れい : 12:52 | コメント (0) | トラックバック