« 2014年02月 | メイン | 2014年04月 »

2014年03月25日

春の視線

病院の玄関で、横たわったまま
毛布で、ぐるぐる巻きにされた
早歩きの真っ青な老人に、追い抜かれてゆく
受付の予約診のカードを促す女事務員は
にこにこ顔で、カードナンバーを
ゆっくり吐き出す
(お客様の番号は、六十一番です。)
(おきゃくさまのばんごうは、ろくじゅう、 いち、ばん、です。)
(オキャクサマノバンゴウハ、ロクジュウ、イチ、バン、デス。)

診察室に行くまでに、背の高い初老の外科医が一人、若いナース達に説教するが
白いスカートから出ている春の生足達は もう退社後の黒いストッキングで遠足中だ

待合室で詩集の一ページ目に
 「春ですね、今日は花見日和です。おたくも、どこかへ?」
と、問いかけられた。
私は無視して、詩集の二ページ目を捲る
中段落には
 「今年は良く分からない気候でしたからね、急激に体調を崩す人が多いでしょう.。
  ほら、あの人も入院三回目ですよ。」
私は私を追い越していった、あの、青い老人の行方を問われたが、答えられない
苦しくなって、詩集の三ページ、最後の行に目を移す
 「友人は、マンションの最上階から 夜桜に喚ばれたんだ!と、
言い張って赤いピリオドになりました。」

真夜中の赤い目覚まし時計が けたたましい音で叫ぶように
診察室から名前が呼ばれる
そして、ピアノのスローバラードのような 薬を与えられ
私は病院を通り抜けて私の朝を、迎えるだろう    

外は、むせるような春、春、春・・・
桜並木は丘の上の病院から下の車道まで 同じ顔した同じ色

苦い薬袋の群れ
背を曲げて 薬局を出て行く人々の群れは俯き
その後ろで 青い真っ新なジーパン達
桜を仰いで 枝、揺すり
花びらを散らして、子供の奇声に笑い合う

私は来ないバスを待ちながら
春の詩集が手放せない
桜の下には、たくさんの死体が埋まっている、と、
言っていた夜のことを想いながら
桜の下にいるたくさんの酔っ払い達の昼を
バスと私は、駆け抜ける

多種多様仕掛けの目覚まし時計は、
「春」を指したまま、目覚めることもない

投稿者 tukiyomi : 13:44 | コメント (0) | トラックバック

2014年03月13日

枠の中


首をかしげたくなることが 多すぎて
私の首は傾いてしまった
傾いたまま世界をみたら
結構 真っ直ぐ見えるものだ

私の首が引きつってしまった
痛い首の糸は 皮より薄く細くできていたから
いろんなものが そこから透けて見えた

(ウエノヒトニハ、ナンデモ、ハイハイ、イイナサイ!)

かなしみは
そんな
首を傾げることから 始まり
そして
引きって 固まった私の身体を
真っ直ぐだ、と
言い張る 平衡視線たちが
スケスケのまま あけすけに
嗤いながら  私を見下すのだ

投稿者 tukiyomi : 15:21 | コメント (0) | トラックバック

ヨイコノイキギレ

オカアサン、モウシンドイデス
ジブントチガウ、ジブンガ
イツカ、オカアサンヲ、コロスヨウデ、コワイデス

薬を飲んで眠るのよ
お前は眠っているときは、本当によい子なのだから

オカアサン
ワタシ ナンデウンダノ
ワタシ、ネムッタママダッタラ
コトバナンテ、イラナカッタヨネ
アナタノ、ナカデネムッタママ
ナガレテイケタラ
オカアサン二、クロウヤ、シンパイナンテ
サセナカッタヨネ

いいから、いいからお薬を飲んで温かくして眠るのよ

イヤイヤ、ナニモ、カンガエラレナクナルノハ、イヤナノ!

風邪を引いているから息切れをおこしているのね
のど飴と生姜湯で歪んだ声は治すのよ
お前の声は綺麗な良く響く声だから大切に
できるだけ良い言葉ばかり使いなさい
動けないときは
せめて人に見せる顔は少しでいいから
笑ってみせなさい
いつか、そのお返しはお前に戻ってくるのだから

オカアサン
ツラインデス
ソウデキタナラ
ドンナニ、ラクカ

アイスルヒト二
バセイヲ、ハク、コノ、クチ、カラ
ハァ、ハァ、ト
ツバヤ、タンガ、デテキテ
ナケテハ、イキギレヲ、オコシマス

カツテアナタノナカデ、ツナガッテ、ネムッタママ、ノ
ワタシナラ
イキギレモセズニ
キット
ヨイコデイラレタノニ

オカアサン
クスリヲノムカラ
モウイチド
イキギレシナイ
ヨイコ二
ウミナオシテ、クダサイ

あら、お父さんが呼んでるわ!
今夜は冷えるから、よい子にして眠るのよ


オカアサン
オカアサン…
オヤスミナサイ…

投稿者 tukiyomi : 11:20 | コメント (0) | トラックバック

2014年03月12日

音の寸景

静けさを計るウサギの赤い目
重力を油で滲ませた猫の目

繋がりから逃れたいブランコの軋み
掲示板から剥がされたくない
選挙ポスターの唸り

ウグイス嬢の声に
救われた議長を乗せた選挙カーに
手を伸ばす少女の、救われない、声

挙手した少女の手は縛られたまま運ばれ
行方知れずの歌を唄う

病葉の温度を計る風は
夕暮れ時をかけて 遠くの電車に紛れ込む

大松で動く機関車の炎にくべられる
火の怒りが「命乞い」をしなさい!
と、軍人に命令させる

命に「恋」を賭けない
少女の沈黙が 繋がり合っていた
全ての長いものたちの区切りで
軋みだしてゆく

ウサギの瞳が赤を零す頃 青い雨の銀糸が
シダ植物たちを
腐らせては 征服してゆく、の、を
知りすぎた、猫の眼

コトバの原始を 後ろ足で 横切って行く

    *

やがて 声が消える
コトバが地球を 支えきれなくて

ブランコの鎖でできた 夜汽車は
揺れながら 揺れながら
軋み続けることだけを 世界に教える


投稿者 tukiyomi : 18:55 | コメント (0) | トラックバック

風葬

貴方は
飼い慣らされた春が またひとつ
骨を見せて通り過ぎて逝くのだ、と
冬の葬列の隙間から
骸が風化してゆく言い訳たちを 赦す

親しい者たちの名を
彫り込んだ胸を
見せることもなく
風花の舞う季節に
怯えることもなく
名もない風を受け止めてきた

ただ そんな悲しい景色のことを
赤文字で書いてはいけないよ、と
人を焼くような 人を焦がすような
色では書いてはいけないよ、と
青ペンを手渡してくれた時
触れた 貴方の指先

その温度 その体温が
泣いていた

投稿者 tukiyomi : 18:53 | コメント (0) | トラックバック

巡る水

人工的に中性緩和された都会の水は
下水に流された水子の怒りのように
喉に張り付いたまま 炎となって泣き止まない

生まれ出るはずの者たちが きちんと産まれなかった
不定形な塊となって 数多の人の
血肉を呪い腐らせ 脳髄を麻痺させ
命の再構築の原理について 原始に戻れと神経を焼き切る

記憶を辿れば その源泉は女であった

     *

赤ちゃんが鼻づまりをおこせば
口でその水を吸い出して息をさせてあげるのよ
それは母との未来を語った水の記憶

その土地に嫁いだからには
その土地の水に馴染むことから始めるのだと
土間の囲炉裏の側で 腰を下ろして母を叱っていたのが
亡き祖母の水の記憶

水は 厳しい

けれど私を守る水は汚濁をのみながらも
なんと 清浄であっただろうか

都会の水で干上がった身体を横たえ 喉の嵐を家水で鎮める

毎夜静かに湧き上がる井戸水が
私の血液を更新してゆく度
女という血脈が こぼしてきた
苦い水の事を想う

私も又 人と人との間を巡りつづけ
誰かを潤す為の水でありたいと

投稿者 tukiyomi : 18:51 | コメント (0) | トラックバック

がらんどう

なぜ
さびしいのだろう

わたしの からだに
ふさがらない、あな

あいてるなら
すべての凹凸をふさぎ
きょうかいせん
すら
なくしてくれる
きょうき
を まつ

わたしはすべての
あなを ふさがれて
あな、た

ころしてくれる
ゆめ を
ほしがる

さめない よる

みたせない
まま
まだ、
だ、と、
まだ、まだ、
だ、と
くちびるの すきまに
カギ、

もとめる

やがて
さしこまれる
やわらかな
きずぐち を
ひろげながら
わたしの
くらやみを
ひらいて ひらいて
それを
あな、た

おもいこんで ゆく

また、
まだ、
あい、
くるしい、夜。

投稿者 tukiyomi : 18:46 | コメント (0) | トラックバック

ある招待状

今日 郵便屋のおじさんががあらわれて 記憶を配達しますという

宛先は 「レスボス島よりティータイムを」と、書かれてある
(招待状か 何かだろうか・・・。)
開けてはいけない気がしたのは
昔の彼女が愛用したプワゾンの香が 甘い顔をのぞかせていたから・・・
なのに私の手は あの抗いようもない
眩暈の痛みに会いたくてゆっくりと封を切る

     *

封入口から一番初めに出てきたのは 桜の花びらだった
その花びらには、一文字「恋」とだけ 書かれてあった
次に出てきたのは星空だった
流星の先っぽに「憧」を 乗せていた

最後に出てきたのは歪んだ赤い唇で大笑いする甲高い声
ゾロゾロとムカデが何万匹も這い出して
そのムカデには彼女の顔が張り付いていた
そして鱗には「憎」が黒くて鋭い鎧をきて
私の鼻から口から耳から穴という穴から
噛み付きながら舐めまわし
細胞を侵食し壊死させながら
記憶を 再封入するよう片付けてゆく

      *

私は小さく折りたたまれながら誰かの手で捨てられようとしていた と
その矢先、招待状の底辺から挿入させられたペーパーナイフをもった
誰かの手に落ちていた
ペーパーナイフの手は、私を丁寧に拾いあげて 広げて 広げあげ尽くして
その手をナイフからペンに持ち替え「男」と太く硬い文字で一筆書きを施した

全ての悪夢や私の身体で蠢いていた蜜虫は叫び声を上げて逃げ出した

今 私はその男の腕の中で昔愛した女の名を呼んだ罪で
クシャクシャにされながら、捺印を施され 
記憶は「激」という文字だらけで 真っ白に汚されて更新された

        *

いづれ 「御祝儀」袋に納められ
大安吉日 晴れた日に
あなたのもとに届く予定だ


投稿者 tukiyomi : 18:44 | コメント (0) | トラックバック

2014年03月06日

火の鳥


夕焼けに黒く灼かれて一羽飛ぶあれは私よひとりという鳥


抒情文芸 小島ゆかり 選  入選作品

投稿者 tukiyomi : 21:49 | コメント (0) | トラックバック

あなたが 今触れている
パソコンのキーボードの
アイ、の漢字変換の音と
わたしの 来い、の
漢字一文字変換の音が
響き合う

あなたが触れる
ピアノの鍵盤の黒から 流れるフレーズを
わたしの唇の赤が リフレインして
溢れ出す

哀しみを音にしてみれば
指先から唇まで
喜びに変換された メロディーたちが
触れ合いながら 染み渡る

あなたが わたしに届くまで
わたしが あなたに響くまで
これから起きる出来事すべて

人と人とは交差しながら
時間より早く
空間より高く
音楽より鋭く
想いを伝えるために

言葉を織りなし
虚空に音を解き放ち
嬉し泣きと泣き笑いを
繰り返しながら

それぞれの音で
歩んでゆく


抒情文芸150号  清水哲男 選   入選 
選評 本誌にて記載有り。

投稿者 tukiyomi : 21:04 | コメント (0) | トラックバック

正解

親指ですら右手と左手では 形が違うのに
なぜ簡単に手を合わせて 祈れるのだろう
感情線の皺に深さも その上がり具合や切れ目も違うのに
右手と左手を合わせて しあわせと言うコトバに
置き換えたりするのだろう

 昔 入水自殺した友人は
 いち、たす、はち、は、じゅうろく、だ、
 と、言い切って元気に解答した
 それを聞いた独裁者のような指導者は
 面白がって手を叩いては 世間に言い廻って
 笑った
 私も 笑っていた 
 多分・・・困ったような顔をして・・・

右手でいち、を指折って そこから左手で、はち、を足したら
両手で一本 指が余った
その曲がれない小指が 彼女のような気がして
私は彼女が溺死した池に 今も合掌することが出来ない

 どうして教えてあげなかった
 いち、たす、はち、は、きゅう、だ、と。
   (それって合ってる?)
 どうして指導者を名乗る常識人は逃げまわる
 彼女を殺した噂を未だに垂れ流しながら
 どうして彼女は最期まで言い張った
 いち、たす、はち、は、じゅうろく、だ、と。
   (それって、間違ってる?)

世界のどこかにいるもう一人の彼女が同じ答えを発する声が
水底から波紋の息を拡げて 浮かび上がる度
私の原稿用紙の端っこは汚れて ぶらさがりの句読点が
となりの句点の○の褒めコトバを
欲しがっては叫んでいる

夜に白い小指立てながらペンを握っている間だけでいい。
薄っぺらいこの世界に 正解のカタチひとつぶら下げて
黒い句読点、の、その先に来る余白たち
どうか、どうか、読んで欲しい

合掌できない多くの手のひらたちの
言い訳くらいには はみ出したくて
黒いぶらさがり、イコール、彼女の叫び 、

投稿者 tukiyomi : 03:39 | コメント (0) | トラックバック