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2019年03月23日

名刺

手渡す人の人相が好かろうと悪かろうと
ついでにナントカ法人取締役だとか
はたまた○○財団ナントカ会長だとか
いつまでも覚えられない本人の名前と
どこまでも続く法人名・財団名・団体名

本人の名前より自己主張する予備知識が
独り歩きをどんどん始めれば
そのお墨付きを
利用する人 誉める人

たった一枚の紙切れで
年収何千万円がチラついて
握手する人 手を結ぶ人
   (そして口が聞けなくなる人の
   (居場所のない居場所をつくって
   (押し込めたがる人

社会人なら名刺を交換するのが礼儀だろ、
と 怒鳴り散らす人の
日本人は全員社会人だろ、
と 思えば都合のいい人の
礼儀が私の指を傷つける

私は名刺を持たない
宛もない言葉だけを頼りにしている奴に
どんな社名や配置部署が似合ったあろう

選ばれた良品の上質紙たちと
有名デザイナーのレイアウト

東京4号から大阪9号の圧縮サイズの中で
生息する君たちの暗号が前進して
ちいさな草花を踏みつけて行く

酔っぱらった社会人の
スマホで作れるお手軽保障
その紙切れの上で
人が浮いたり 沈んだり

投稿者 tukiyomi : 21:38 | コメント (0) | トラックバック

2019年03月06日

台所

そこには多くの家族がいて
大きな机の上に並べられた
温かいものを食べていた

それぞれが思うことを
なんとなく話して それとなく呑み込めば
喉元は 一晩中潤った

天井の蛍光灯が点滅を始めた頃
台所まで来られない人や
作ったご飯を食べられない人もでてきて
暗い所で食事をとる人が だんだん増えた

そうして皆 使っていた茶碗や
茶渋のついた湯呑を
机の上に置いたまま 先に壊れていった

カタチあるモノはいつか壊れるというけれど
いのちある人のほうが簡単にひび割れる

温かいものを求めて ひとり
夜の台所で湯を沸かす
電気ポットを点けると 青白い光に
埃をかぶった食器棚がうかびあがる

夜に積もる底冷えした何かがこみあげて
沸騰した水は泡を作ってあふれかえる

仕舞われたお茶碗と
湯気の上がることを忘れてしまった湯呑たち
その間で かろうじて
寝息を立てている老いた母と動かない猫

おいやられていくものと
おいこしていくものの狭間で
消えていった人のことなどを
あいまいに思い出せば
台所には 昔あった皿の分だけ
話題がのぼる


(抒情文芸170号・本欄推薦作品)
(清水哲男選・選評あり)

投稿者 tukiyomi : 20:43 | コメント (0) | トラックバック