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2010年10月27日

暗闇

暗闇 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 今日の母親のヒステリー 徐々に削られていく 彼女の海綿状組織 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 昨晩の止まらない父親の咳 私の未来を哀れむような 泣きそうな顔 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 静寂を破る飼い犬の 吐き気のような嗚咽 聞こえすぎる私の耳 愛すべき家族よ 時計は午前零時指したまま 黒く壊れました もう私達は白い息継ぎを やめてみても 赦されるでしょう 目を閉じましょう そこには暗闇はありますか はい やっと在りました 安らぎの木箱の中 瞼の奥に優しい優しい 暗闇が

投稿者 つるぎ れい : 21:42 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月26日

ぬけがら

ぬけがら 蝉時雨の森で 命がけの優しさに 胸を射抜かれる 繁華街の林で 初めて出会う声に 頭を撫でられる 海辺の見知らぬ駅で いつか私の描いた絵を 見つけては暖色系の色を混ぜる デジャブのような旅を 繰り返しては 私は春夏秋冬を生きてきた 言葉に 出会いに 秋雨が降り続く 頑なな蛹は やわらかくなって 人づてに破られていく 私は 黙ったまま泣いた 透明になったぬけがらに 降り注ぐ雨は 殼をまあるくつつみこみ 私の季節を 真っ白に再生させた

投稿者 つるぎ れい : 20:29 | コメント (0) | トラックバック

花の降る午後

花の降る午後 花の降る午後 <strong>君の為にしつらえた 此処は楽園 天然極彩の夢の柩 紅は君の爪先に オレンジはぬばたまの髪飾り 白いパステルで 君の肌を塗り替え ショッキングピンクの恋をする 鮮やかな薫に酔いどれ 君は永久の眠りに 犯される ひとひらひとひら舞う花びらに 大輪を歌う花言葉に 僕は【くちづけ】と名付け 甘い毒を君から吸い込む ぬるい真昼 透き通ってゆく 君と共に 天に召される 花の降る午後

投稿者 つるぎ れい : 17:22 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月25日

秋雨

秋雨 秋雨が森を静寂(しじま)で包むようあなたの声が耳に降る午後 秋雨の中に佇む女(ひと)がいて震える肩に悲泪石(ひるいせき)降る 悲しみが降り続くなら花園の棺に埋もれて眠れよ私 寂しさに名づけてくれとせがむ胸頬を伝う雨はいつも独り 夕映えも太陽も白く彩られ虚空にぽっかり秋雨は降る 静けさよ遠くでチャイム鳴る鐘の涙に濡れたくぐもる秋の日 泣かないで誰にもいえず口ごもる誰かの為に消えた雨音

投稿者 つるぎ れい : 15:56 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月24日

曼珠沙華

曼珠沙華 恋に名があれば楽になる病 蝕まれた紅 毒 死人花 朱に染まり朱に交わりて尚紅く褪せる真夏を焦がした火花 空の青やがて暮れゆく陽射しすら曼珠沙華には焼かれる宿命(さだめ)

投稿者 つるぎ れい : 23:02 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月23日

花陰の祈り

花陰の祈り さざ波をたてる音に芯は濡れ記憶は薄く壊れた硝子 指に蜜薫りに秘密しっぽりと造花ではない切り花を抱く あともなくさきもない今影を追い置いてけぼりの指にくちづけ 暗闇で開花する花に名をつけて優しく呼んだ地上の果ての名 君の目の中に映える僕はまだ輝く檻に閉ざされたまま 髪を撫で髪をなで上げ髪を梳くあなたが神に溶け出す祈り 暗闇が懐かしいと泣く子供子宮の中で暮らした二人

投稿者 つるぎ れい : 21:42 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月22日

花陰の人へ

花陰の人へ 花陰の人へ 赤い首輪の中に おさまり切れない情熱が 紅黒くはみ出しながら 僕の芯に契約書を描かせる 偏愛の行方に身を任す女 あなたに呪縛の枷を 美しい人よ シャンデリアの下の 飼い猫よ 唇から鳴き声 拘束から吐息 精神的陵辱すら 青い悦楽 ターコイズの 川の流れの真ん中で 僕は贈り物の天然石を つなぎ合わせて 世界に境界線を引く 僕らが選んだ檻の中で 「愛してる」の愛憎劇は 世界を震わせる さぁ 咲き誇れ 偏愛の火花よ 枯れることを知らない 彼岸花のように 激しさに染め濡れた 花陰の人よ

投稿者 つるぎ れい : 20:24 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月12日

花葬と葬列


花葬 なんで生まれてきたんだろう地球の裏側聞いた質問 さよならと早く言いたいさよならとベッドの柵で囲まれた脳 小鳥たち囀り空は青く澄み平和な午後にスカッドミサイル 真実を映す鏡はギラギラと光る眼を十年前の私に送信 なにひとつ遺せないまま逝く人の 骸を飾る朱の彼岸花

投稿者 つるぎ れい : 02:43 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月09日

オセロ

オセロ 白い顔をした介護師たち 包帯まみれのリハビリ患者 誉め言葉の裏側で 黒い噂話が翻った時 私の手にある白いペットボトルの液体は 震えて裏返りました 白内障の父は黒い老眼鏡越しに 駐車場前に群がる老人の 白いパジャマの群れを嘲笑い 黒いアスファルトの四角に置いた 自分の車を忘れてしまうのです テレビは快活なエクササイズと 美白に美脚の放映を繰返し 待合室でその意味を解せるのは 黒い革靴の速歩きと 白い戦闘服の女たちで 裏返ったのは 女たちを責める幼児虐待の ホワイトコールの黒い声でした 白いサンダルと白髪の集団に はさまれて逃げ出したのは 黒いリクルートスーツの男性 やがて黒い部屋に 白衣装が一つだけ 黒いネクタイやスーツに 囲まれて 黒が安穏の勝利の笑みを 浮かべる頃になると 白い煙がのろしのように 立ち上ぼり 私の手にあったペットボトルは すっかり 空っぽになってしまいました 詩と思想10月号選外佳作作品)

投稿者 つるぎ れい : 11:37 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月06日

籠の鳥

籠の鳥 小鳥に自由を与えた 籠の中に入れて 鳴き方を覚えさせ 餌付けをし ラム酒を少し入れた水で 毎日可愛がっていたのだけれど 小鳥に自由を与えた 小鳥はいつも 「あなたのものよ」 と さえずるけれど それは本当のことなのか 小鳥に自由を与えた 愛でるだけ 可愛がるだけでは 僕の疑惑は首をもたげる だから小鳥に自由を与えた かれこれ三日は帰ってこない 今頃小鳥は仲間をみつけて 違う喜びを知ったはず 僕の苦悩と引き替えに 小鳥は夢見心地でさえずるはず 「こんな世界があったのか」 「こんな自由があったのか」 〜自由になった小鳥はきっとかえることはないよ〜 悪魔のような囁きが頭の中でリフレインする 僕は知りたかったんだ 僕は確かめたかったんだ 小鳥はずっと僕のそばでさえずる事が 本当の幸福であるのだと 僕は小鳥が去った籠の中 「あなたのものよ」 という残声を胸に抱いたまま 籠(きみ)の中で囚われの身

投稿者 つるぎ れい : 19:25 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月05日

錯乱

錯乱 錯乱 あなたを 幸せの象徴 のように思ってた 私の 真ん中に幸福な未来 私の 真ん中に満ち足りた世界 あなたの真ん中に 砂上の楼閣 あなたの真ん中に 赤いドライフラワー 描けない夢 届かない声 穏やかな虚構 二人を隔てる透明な膜 触れ合う事さえ 赦されない かつての日常 二人の真ん中に 飾られた 空白の錯乱

投稿者 つるぎ れい : 04:22 | コメント (0) | トラックバック

何も浮かばない部屋

何も浮かばない部屋 何も浮かばない部屋で 言葉の泡を パクパクさせる魚が 泳いでいた 何も浮かばない部屋で 蛍光灯が短い剣を キラキラ振り回し 私の目を乱視にした 何も浮かばない部屋で 過去の栄光の紙切れや女神たちが クスクス笑って 騒ぎ始めた 何も浮かばない部屋は 窓辺にサラマンダーを飼っていて 化石にならない命を 炎で焼いた 何も浮かばない部屋で 私は羊を数えていた 外は火遊び好きの魔女たちが 古代語魔術を唱えていた 何も浮かばない部屋 無言の水槽から一足 飛びだせば 自分の叫びが鼓膜を破り シーラカンスは眠りについた

投稿者 つるぎ れい : 04:17 | コメント (0) | トラックバック

空 雲行きは やっぱりあやしい 夏の恋は 稲妻のように 私の心を痺れさせたまま 遠い子宮に隠れてしまった 私は 期待の灯火だけ 残して 今日も 独り 暗闇に沈む

投稿者 つるぎ れい : 04:07 | コメント (0) | トラックバック

2010年10月03日

姫君

姫君 かの姫君は ネットと本があれば 生きてゆけるのです 他には何も知りたくない 幽閉王女は ネットと本に 知識が瓶詰め かの姫君は 幻想世界の住人です 膝を抱えて眠る 三角錐の中の少女 妄想でできた 伸び続ける白い白い象牙の塔 知識は一級品の物語 石灰石のバリケードで 身を守る 本棚の配列は彼女の遺伝子 象牙の塔は白い沈黙 姫君が 誠に恋を知ったなら それは姫ではありません 城を抜け出したなら それはきっと 美しいだけの愚かな女 けれどあなたは姫君です ハイネの詩に恋をした 文字配列のレールの上を 歩み続ける 法則的な文学少女 姫君よ 早くお帰りなさい あなたを抱くその腕は 地上にはない理想郷 あなたの愛する 教科書と 白い巨塔が 恋のまほろば 疑似恋愛が いつかの墓標 ですから 探さないでやってください 今頃あなたの王子様 異国の船に乗せられて 廃盤の 古書になって 埋もれたまま 電波も届かない声 ちぎれた恋文 白紙の散乱 過去の人

投稿者 つるぎ れい : 10:56 | コメント (0) | トラックバック