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2017年06月17日

昭和バス

昭和という小さな家族の乗り合わせ
不思議で不可欠な力が運転していく昭和バス
十才半ば、私の春
道路工事の終わった平成通に差し掛かると
祖父の姿は消えていた
草履では歩きにくくなった、と呟いて
晩酌の一合升を、置いたまま

平成の角を横切って
芝居小屋の前を通過するとき
祖母が赤紫色のボタンを一つ鳴らした
好きな芝居が来たのだ、と
バスの外から手を振った
待ち合わせの女友達と小屋へ行き
シートに五銭の入った、ガマ口を残して

桜吹雪の晴れた日に
父は病院からバスに乗り
長く曲がりくねった坂道を
下りながら昇って行った
ここをでたらもう一花咲かせる、と
自分の灰で花を咲かせる人だった

  幾度も春と夜の目を盗んで  
  修羅と鬼の隙間を掻い潜り
  たくさんの峠を越えて
  昭和バスは黄昏時の山へと向かう

花に涙雨
滴り貼りついたままの花びらを窓辺に伺い
言葉少なになった母が
どの景色も綺麗やった、と
心拍数に手をやりながら
姨捨山の切符を握り
唇を結ぶと
年老いた猫の目をじっと見る

抒情文芸  163号 

入選作品

清水哲男 選 (選評あり)

投稿者 tukiyomi : 19:19 | コメント (0) | トラックバック

2017年06月15日

声一つとして・・・

声、一つ、同じではない
同じ言葉の意味を発しても、白、黒、黄色、
声一つとして
国会の扉をノックできる音階と
名もなき島で撲殺される音階がある
声一つとして、人間の喉を黙らせる
          ※
   ぼくは見た
   知恵が五体満足を見定めて
   裸の身体に王冠をつけるのを

   ぼくは見た
   愛がカタワになったせいで
   河原で虐殺されていくのを

   正義は多数決で 法律になれた
   胸に鈍く光る同じバッチ共が
   いのちについては無関心のまま
   議会で手を挙げた者だけを褒め称える手を持った
          ※
ぼくは河原にうずくまり
手をあげられなかったから 足を斬られた
声一つ、あげることすらできなかった
ぼくの喉は声が出せないように釘が刺されていた
母が賢く生きてねって、ぼくの喉に釘をさした
(母さん大好きだよ、この国に産んでくれてありがとうって
(どうして伝えたらいい?
言葉を求めれば求めるほど喉から血があふれて声にならないまま
声一つで、兄妹すらも違う国
          ※
黒い死体は白い炎に焼かれて黄色いビジョンに映し出された
(ねえ、国家って、五体満足じゃないと、
(頭が人並み、という範囲じゃないと、
(声一つとして、あげられないの?
異国でもう一人のぼくが後姿しか見せない母に問いかける
白が似合う美しい母は金の髪を揺らして振り返り
青いまなざしを向けて赤い口角をあげると
アイスピックでぼくの喉を 今日も突き刺す

投稿者 tukiyomi : 22:03 | コメント (0) | トラックバック

小詩  二篇

「母 」


「家庭に光を灯して共に」
煽り文句は便利なコトバ
その言葉をバーゲンセールで買った母

巨大な塔を一つ、造ってみないか、と
安請け合いした黒い声が
赤く点り、二つ連なり、
三つめに爆発して、「僕」

僕に左手なく右足なく
麻痺した舌で 母に届くコトバもなし

五体満足な母が
何でもいいから
言いたいことがあれば
ここに書いてごらん、と
見せつづける白紙

真っ黒に裏打ちされてしまった
僕のコトバ、僕だけの声

僕は 塔の上で笑っている、
キレイな白紙ばかり見せる母に
今日もペンを投げつける


「楽園 」


その声が聞こえない
伸びることしか知らない真(ま)っ新(さら)な声が
コインロッカーの箱にしまわれていく
はじめから何もなかったように
もう、その声は聞こえない

ここは楽園
花畑で荒地を隠した楽園
世界で一つだけの花を皆で歌いながら
誰もが同じ背丈であることに安堵した

その声が聞こえない
生れ落ちたばかりの闘志
振り上げたままの何かを掴んだ拳
肯定せよ、肯定せよ、泣き喚く第一声、

原始の衝動で夜を叩く声を
赤い舌たちが「私生児だ」と切り刻み
灰色の花園に誘い込んでは埋葬していく
その声は、夜、荒野の中で干からびた
         
        ※

「ここは楽園、こんなふうに楽園!」
大歓声に誰かが大きな拍手を贈る

投稿者 tukiyomi : 21:51 | コメント (0) | トラックバック

2017年06月05日

隣の芝生が青いので

となりの芝生が青いので
ちょっと軽くやいてみた

となりの芝生が青いので
火炎瓶も投げ込んだ

それでも芝生は生えてくる

長く庭に生えてきた
枯れた芝生は威張ったり、
後から来た芝生は自慢たらたら、

私の庭にの芝生だけでも、
借り入れ手入れが大変なのに

となりの人が私の芝生が青いから
焼きが回って火を着けた

となりの芝生が青いから
平和がひとつ焼け野はら
となりの芝生が青いから
喧嘩にくれて日が暮れる

となりの芝生が青いので
となりの芝生が青いので
みんな
となりの芝生が青いので

投稿者 tukiyomi : 22:14 | コメント (0) | トラックバック