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2012年10月30日

名無し山

名無し山


その山に名はない
ただロープウェイを使わなければ
山頂には登れないらしい
私は麓まで居眠りをしながらバスに揺られ
終点のバス停から近くの
ロープウェイ乗り場で切符を買った
天候は妖しくなり
濃霧が頭と目を白濁させて気が遠くなる
ロープウェイに吊された赤いゴンドラは
しつらえられた柩のように私に用意され
時折迫る強風に曝されては揺れた
標高が高くなるにつれ酸素は薄まり
山頂の公園に着いた時にはすっかり
体温を奪われた
そこには巨大な蝋燭の形をした石塔がひとつ
誰かが何かを刻んであった
高名な僧侶が書いた梵字だったか
定かではない

霧は晴れないのか…

私は山頂で消えたり現れたりする人影を追ううちに
ゴンドラに帰る術を失った
なぜこの山に登って来てしまったんだろう
自問自答を繰り返す私に
どこからか幼い子供の声が降ってきた
「お姉ちゃん 僕に名前(いのち)をちょうだい。そうしたらこの山を崩してあげるから…」

その山は今はない

ただ割れた境目から
溶岩が血の塊のように
どろり どろりと
うなり声をあげるように
溢れ続けた


詩と思想11月号入選作品

投稿者 つるぎ れい : 23:04 | コメント (0) | トラックバック

サイコパス

サイコパス


サイコパス

愛してはいけない人に恋してる
身の程を知れと言ってるみたい…


空を串刺しにする
伸びやかに しなやかに
聳え立つ あなたは一つの
強い意志

張り巡らされた
全ての策略も
戦慄のシナリオに変えて
街々を飾るひとつの
突き抜けた電波頭脳

私は
あなたの空を
泳ぐ鱗雲

あなたの青さに
染まって消える
過去に流れて逝く
透明な白

だから
私にも 発信して
これ以上の悲劇はないほどの
喜劇のような終わり方

恋しては消えてゆく
秋の高みから
狂った舞台の
サイコパス


もう
愛せないように
殺された
女が墜ちる
空(から)舞台

投稿者 つるぎ れい : 22:53 | コメント (0) | トラックバック

片手鍋

片手鍋


私の傍にはいつも片手鍋があった
「両手鍋ならお前にもっとおいしい御馳走や幸せを味あわせてあげられたに・・・。」
と 豚肉が傷んだいきさつや
胡瓜やもやしが腐ってしまった原因を
ガスの火で燃やしては 蓋をする鍋だった

片手鍋は孤独だった
はじめは両手鍋だったのに
片方が勝手にもげて
キラキラ光るステンレス鍋の
お料理を貪るようになったから

その愚痴を片手鍋は言わないで
夜になると黙って ひとり グツグツと
湯を沸かして深夜の食を作り
料理が冷え切るまで
両手鍋に戻れる日を信じて待ち続けた

煮えくりかえった鍋から
熱い湯がこぼれても
遠くにいる片手鍋の持ち手は気づかずに
床を拭おうともしなかったし
鍋置き場から
片手鍋が転げ落ちて修理に出されても
そろっていたはずの持ち手には
関係ないことだった

その頃片手鍋の持ち手は
ステンレス鍋と新しい愛妻料理を
笑って作っていた所だったし
出来上がった品に【私生児】と
つけられるのが怖くて
台所の洗い場にお金と一緒に流して片付けた

私は私の傍に三十余年一緒にいた
片手鍋を信じている

片手鍋は賢かった
片手鍋は涙もろかった
片手鍋は情が深かった

片手鍋は…
もう錆び付いて
自分が鍋であったことも
忘れてしまったけれど


詩と思想11月号執筆依頼掲載作品

投稿者 つるぎ れい : 22:46 | コメント (0) | トラックバック

2012年10月21日

同じ星

同じ星


あなたの孤独が
空から降りしきる夜は
遠い星の 夢を見ている

   *     *

見上げたあなたは
ただただ 遠く強い巨星

見下ろしたならば
あなたは生まれたての七つ星

あなたの名前を
並べてゆくと
宇宙の理に引っかかる

その先っぽからでいい
空から私に雫を垂らして因子をください

私はあなたに似た星を宿しては
その詩(こ)を
空へ解き放つ

私たちは 言葉で繋がれた
同じ涙の同じ星

同じ孤独抱えた星が 出会う確率は
東京行きの新幹線の中を 淋しさで逆走しても
辿り着いてしまう

あなたの駅に あなたの声に あなたの中に 
取り込まれて 墜ちてゆく

それはとても 悲しいくらい 100パーセントの引力で

   *        *

同じ星
だけど なんて 遠い星 
探しても探しても探してみても
涙が止まらないまま
夢から覚めない夢をみている・・・

投稿者 つるぎ れい : 17:59 | コメント (0) | トラックバック

2012年10月15日

ワガママ短歌

ワガママ短歌


ひとひとり愛せないくらいのわがままで告白したいあなたが好きだと

昼下がり微熱を帯びた過去の汗あなたの風邪はもう癒えましたか

愛せない愛せない人を愛してる躊躇う私を殺して欲しい

声すらも優しさすらも体温も全てを奪う白い錠剤

震災が繰り返される夢をみて鯖の味噌缶だけの夕べ

投稿者 つるぎ れい : 22:07 | コメント (0) | トラックバック

白い蜃気楼

白い蜃気楼


束ねていた栗色の髪をほどくように
その髪をかきあげるように
耳もとで囁いた告白は
僕の詩を書き始めた頃の
青臭いペンネーム

ほどかれた髪の上を
滑り出して
僕の詩はたなびいた
堅苦しい
もう一人の僕の名と一緒に
柔らかな風に吹かれ
君の笑顔に舞う
戸惑う僕の思いの丈

 (好きなんだ
   詩を描くことが)

そう告白したのは
新緑が芽吹いた
大切なひとへと向かう
それは いつかの
白い蜃気楼(ミラージュ)

投稿者 つるぎ れい : 18:49 | コメント (0) | トラックバック

2012年10月09日

意味のてのひら

意味の手のひら


誰かの為に歌うことになんの意味があるのだろう

ティシュを配るアルバイトの
彼氏を待つ女の腕時計の
パチンコの呼び込みの定員の
男を一時間半待たせて謝る女の

巨大な街に
飲み込まれなから
人は人と出会い
人に学び
人を知り
人と別れ
そのたびに
誰かの為の歌を
人は歌い始める

まるで握手した人数分の
手のひらの皺を数えるように
刻む記憶の悲しさ 深さ

あぁ、私は人の為に
歌った事がない

見ておくれ
この
皺ひとつない
理屈ばかり語りたがる
無意味な
手のひらを

詩と思想10月号佳作作品

投稿者 つるぎ れい : 08:09 | コメント (0) | トラックバック


ぬけがらになった心臓
ちからない白い腕
青白い血管が浮かぶ両の脚
広げさせ 広げさせ 広げさせ
瞳孔だけを動かす 私の裸に 指先から脚の爪先まで
少しずつ 少しずつ
細く長い針を刺す あなた

痛みを感じるまで赦さないと誓う
あなたは
私を甦らすために泣きながら針を刺し続ける

私は青白い死体の標本だ
あなたの涙で黒い髪は艶やかに濡れて
青白い血色は蛍光色となって
悲しみが哀しみを呼び覚まし
恋しさと愛しさは同化して
動脈が振動し始める

全身に刺さった棘に灼かれ
羽ばたけぬことに赦しを請い 
苦痛の理由に涙を流す

死体から無痛の淋しさと悦びを背負って
私はいつか羽ばたくだろう

あなたが「蝶」という名の理由を授けた頃
私は標本箱の中で 一瞬だけ
綺麗に羽ばたける蝶

あなたはそっとその箱を
瞳にしまう

微笑みながら
微笑みながら

投稿者 つるぎ れい : 07:59 | コメント (0) | トラックバック

生きる夢とあちら側

生きる夢とあちら側


同じ道違う道ゆく人が交差する句読点の分岐点


誰のため生まれてきたか知りたくて空に手を伸ばす昔の少年

地図にない街を自分で創っては嘆いて壊す生きる手応え


現実と汗と涙の狭間から出てくる夢は「自分を信じる」

容赦なく削らてゆく命の火ちっぽけな人が人を照らせる命の火

育つ愛誰の手のひらにいよいとも最期は黙って独りぼっちで


過ちは愛したほどに狂おしく君の胸には棘を遺して

どこまでも続く坂道を登りつめそこから何が見えていますか

もう耳も目も見えないし動けない私を見ているそれは神様

投稿者 つるぎ れい : 07:27 | コメント (0) | トラックバック