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2015年01月23日

麻痺する指先

「非常ベルが鳴らしてみたかった」と、
その男の子は 泣きながら
お巡りさんに謝っていた


毎朝電車は ラッシュを呑み込むと 靴の群れを吐き出す
腕時計の長針先より 先にスマホ
乗り換えの電車は 急行より特急
徒歩よりは バス

車内には向き合う小学生高学年女子
の、喋る 今日の授業内容
「オカーサンたちって、昼ドラ、みたい。」
「アアー、ドウシテ、人、殺シチャ、イケナイノカナ。」

バスはいつもの角をいつも通りに 直角に曲がる
スピードを あげることもない
乗り込む人、喋る人、立ち上がる人、携帯が鳴る人、
全てが 無関係のままの 乗り合わせ

ーーー確信は されていた
ナニかに遅れてはならない。退屈で忙しい日々ーー

中央線 飛び込む自殺者に 舌打ちする音
ビックリして 切符が取り出せなくて 舌打ちされた音
上手く喋れないから 見てるだけ 聞いてるだけ

同じフィルムが瞳孔を開かせたまま
焼き付いて夜しか見せない
見たくないと思えば 乱視になる
聞きたくないと思えば 都合よく難聴になる
感じないのに指先だけ 聴くことをやめない

ーーナニかに遅れたいと思いながら 進まなければーー


地方テレビが取材している 黒枠の中の少年は
【人騒がせ】
という、カギカッコ、で、括られた

カギカッコにも入らない 私の指先が
非常ベルを 押したがる

投稿者 tukiyomi : 21:42 | コメント (0) | トラックバック

2015年01月22日

マスク

インフルエンザが流行り出すと
白いマスクが 飛ぶように売れる
ウイルスに感染しないため、
みんながみんなでしたがるマスク
唇から 漏れるイントネーション
頭も つられて 上がったり下がったり
地方出身者だの、田舎者だの、と
都会人に ウイルス拡散
山手線では ゴホンと注意の咳払い

誰もマスクをつけたがる
他人とは喋りたくない 関わりたくない
それなら見えない声を 電子通信
いつでも光のウイルスは
マスクの壁を越えて声を出す

マスクの下の唇が 赤過ぎたなら
白い色で覆い隠せ
口の端を 歪めて笑っていたならば
マスクは顔を綺麗にみせる最高手段

総菜屋店員の帽子とマスク
衛生管理という大義名分
喋らない、喋らせない、アジア系出稼ぎ人を
マスクひとつで 隔てれば
速やかに 地方弁、母国語を
バックヤードで シャットアウト

口封じされたコトバたち
白い帽子とマスクの間から
覗く、黒い両目の真ん中で
何色にも染まりたくはないのだ、と
境界線を 睨んでは
朝から朝へと 叫んでる

投稿者 tukiyomi : 02:41 | コメント (0) | トラックバック

2015年01月09日

腐る野菜

田舎からダンボールで送られてきた
白菜、大根、里芋に 手紙
走り書きで 手入れが行き届かなかった、という
詫び状が 一通

私が手伝っていた畑 耕していた土地を離れて
間もない冬の朝一番で 届いた野菜

ずっとこのアパートで暮らせたならば
食べきれた量かもしれないが
意識不明の父と交代で送られてきた 野菜
食べられないまま 実家に帰る

ごみ袋に さっさと仕舞えなかった それらが
日を追う毎に 臭いを放ち黒いカビが生えていく
(父の体にも黒いカビが生えていたことは 知っていたのに)

ごみ袋には捨てきれない想い
ごみ袋では閉じたくない未来
今更どんなに喚いてみても 黒からどろどろの水になる野菜
(父の体に溜まっていく腹水と 頭にはノウスイショウ、
モウ、アト、ハ、時期ヲ、待ツ、ダケ、デス・・・・)

毒素は身体中を巡って 父を壊した
私の本名を知らないお父さんが 育てた野菜
白菜、大根、里芋
そして 行き届かない娘

父を腐らせた私に 一通の封書
走り書きの ひらながなと漢字

「ねえちゃん、はよう帰ってきて、
今度こそ皆で仲良よう、暮らしたいんや、、、」

投稿者 tukiyomi : 19:13 | コメント (0) | トラックバック

2015年01月05日

向き合う鏡

食器を洗っている時に 現れる私の子供
ご飯を食べたばかりなのに 私を見ながらスプーンを持って
お皿をカチャカチャ鳴らしては はしゃいでいる
私はお前に お匙でご飯を掬ってあげれらないのよ、と
言ってしまえば お前は悲しい顔をして消えていく

私が部屋を片付けていると 散らかす私の子供
お願いだから良い子にしていて、と やさしく諭せば
ちゃんと絵本を一人で読んで きちんと座って待っている

私はお前を産むときに 夢の翼を捥いでしまったのだ
その証拠にお前の背中の二つのでっぱりが
空を飛んでみたいと ふくれている
甘えることを拒絶させてきた 私の胎内の遺伝子意志
強い子におなり、良い子におなり、何かをして見せなさい、
そんな言葉に耐えて来たお前の憤り 背中の二つの哀しいふくらみ

お前の食器を鳴らす音が消えると 私は哀しくなる
お前に絵本すら読んであげられない自分の貧しさを お前に詫びる

お前は誰からも笑われることなく育ち 誰にも笑いかけることができない
立派と呼ばれる大人の振る舞いを覚えては 失くしてゆく夢に追いすがる
 (ヘビが赤い赤い舌をチロチロ出して お前を舐め盗ろうとしている・・・

お前の夢 お前の道 お前の未来
それらを奪ったのは この私です、と 
責める事も責める言葉も教えないまま 大きく育て上げました
 (ヘビは赤い赤い舌であざとく舐める、子供の道は血より紅(くれない)

私が母親の真似事をすると 現れる子供
走り出し転げまわる笑顔や 朗らかな笑い声
私がてしおにかけて殺めてきたものは おそらくそういうお前の姿
 (ソレデモ、オカアアサンガ、ダイスキダヨ、ッテ、イッテ!
天に属する者をヘビの子に変えた呪いが 
私の体を這いずり回り 重く冷たい陰となる
 (ソレデモ、イツカ、ボクヲ・・・・  シテ!

「肉体」という檻の中で 決して笑うことのない私とお前
ミエナイチカラに繋がれたまま 瞬き出来ずに向かい合う

投稿者 tukiyomi : 22:25 | コメント (0) | トラックバック