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2014年09月29日

S

寡黙から 泣き止まないS
誰かに救ってもらいたいS
オムライスを掬うスプーンを 手渡すように
救いを手渡して 掬って食べることができる
Sの始まりから終わりへの 繋がり

救われないあなたに 救って欲しい 私がシンクロして
向き合うことの大きさに 比例してゆくS

誰もが知っている街の 誰も来ることのできないお店で
私たちは銀河系の言葉で 星の名をオーダーして食べる

一番美味しかった蠍座のアンタレスの 赤い心臓を
フォークで突き刺して 私たちは食べた
皿の上には赤い毒まみれの オムライス

 すくえないね・・・と、あなたは言った
 うん。すくえない・・・。と、わたしは呟いた

無限大の真似を 横向きでしたかった S
でも 
スプーンは転がってしまって 横たわったまま
迷宮入りに なってしまった

饒舌からはみ出して 戻れないS
繋がらない途切れた距離にいるのに
あの時 スプーンを手渡したかったのは
救われたいSに 私の心臓を すくって、
食べて欲しかったからかもしれない

 銀河鉄道に乗って 二人
 カムパネルラの 後ろ姿を
 見かけた話がとまらない

(話に釣られたS、話に吊るされたS,)

ああ、センチメントに向き合う 二つのエスよ
その話が 有限な街のレジのなかに収まって
誰にでも買われてしまうことは
もう とっくの昔に 知っていたのだけれど


投稿者 tukiyomi : 21:10 | コメント (0) | トラックバック

2014年09月28日

日蝕

腕には花の痕
ぬるくなった前頭葉から真昼が滴り
効き目のないエアコンの風が
指先を 揺らしている
デコルテの青白い呼吸が 唇から漏れる
白熱灯の陰り 閉ざした瞼から
上手に笑う あなたが潜む

 (ひらきなさい。怖れてはならない。
   二度目に死ぬことも。)

空から降ってくる太陽の重さと熱さを
女の水だけで蒸発させる宴が繰り返される

鏡が 私を吸い込み 奪い続け
肉体の輪郭は溶けて フラスコを濁してゆく
実験は繰り返され 私の眼は
アルコールランプの炎に 投げ込まれたまま
燃え続けている

夜 ちぎれた声 途切れて 聞こえる
あ、あ、あ、い、い、い、い、い、
その先が いえない

蛻になった私の部屋で 心臓を鷲掴みにして
笑う男がいる
 

(新しい太陽を植えてあげよう。
   今度からはこの光で動きなさい。)

真夜中に巨星がうめき声をあげては
流星になって滅ぶ
そのたびに私の子宮から月見草が咲き乱れ
腕にその残骸の痕を遺して逝く

喉から、あ、い、が、生えて滴り落ちる時
ああ、また、私の上で
無口な月が太陽を餓死させている

投稿者 tukiyomi : 18:48 | コメント (0) | トラックバック

夜を置く

デジタルの文字の数だけ姿見せラインのように近くて遠い

退屈な私たちに夜を置くスマートホンの便利な夜明け

東雲を鎌で研いだ三日月は昨日噛んだ爪の歪さ

山間を染め逝く夕陽の亡骸が蝉の骸の瞳に映えて

鈴虫に夜の始まり告げられて彼岸花の紅さを慕う

眠れない眠剤の罪の濡れ衣をカプセルにして飲み込む朝日

一人部屋独りの黒に馴染ませた瞼の奥にもうひとつの黒

くちびるが乾いたままでため息を吐き出さないで吸い込む遊び

眠れない夜をこじ開け眠らせる裂いた空から取り出す朝日

蟋蟀の一夜を浸す涼しさに壊されてゆく扇風機たち

残照の残り火みんな星になれその身一つの光を纏え

投稿者 tukiyomi : 01:33 | コメント (0) | トラックバック

行方知れずのゆくえ

【行方を尋ねないでください。
それは、行方不明になりたかった人、限定で、お願いします】
そんな紙を 寂れた下町の施設に 貼ってあげたい時がある
何の名札も値打ちも持たないということの
自由さと 保証のない危うさを 背負って旅に出た者たちに

名前や住所や、姿勢や仕来りを 押し付けたがる
「上」と 思っている人たちの みすぼらしい自負心を
満足すためだけに貼られる バーコードやナンバーで
彼らを呼んだり ましてや 白い箱に閉じ込めて
飼育しては覗いている「上」

人は 人と人との間に いつから川を作るのだろう

その川の向こう側に 憧れる者を
人同士で 裁けるのだろう

境界線を人差し指で 引いた人
その人に 私は引き金を向ける

投稿者 tukiyomi : 01:00 | コメント (0) | トラックバック

2014年09月23日

見えないものを見 聞いたことのない歌をうたう
聞いたことのない声を出し 人と関わりたがる

私の目は 饒舌に喋り続け
下半身の纏った嘘を 脱がせようとする

私に口はないが 手はいつも人を殴りたがるし
私に切符はないが 目を瞑れば何処へでも行けた

あなた方の瞳に映る私は 私であったであろうし私でもない
あなた方の記憶する私は 決して立ち止まらない 君や誰か

               ※

青信号のスクランブル交差点 
誰も私の顔をして歩いているのに
誰も私になれないまま  毎日を通過していく

私は 赤信号の中に住む

私は 交差点の真ん中の点

私は その点を振り返った君に 微笑んだ
踏みつけられたままの文字

投稿者 tukiyomi : 03:21 | コメント (0) | トラックバック

2014年09月09日

おいやられる。

新しい文明についていけない、老い、ヤラレル、という人々をターゲットに 
マネーゲームは 果てしない

今日も 宅配便の中年が 老婦人が出した百円玉が一枚足りないと
トロクサイ手つきを笑いながら 右手のポケットに
すばやく隠した 百円玉

 (サインひとつで いいのです
 (わざわざ 判子なんて要らないですから 
 (どうかここにお名前を

なんでも 新しく素早く便利に 身を隠す
旧人類の名前を 電話帳でシューティング
今日はネット会社の社員でテレフォン 明日は通販の珍問屋

 (サインひとつで いいのです
 (わざわざ 判子なんて要らないですから 
 (どうかここにお名前を

今日来た 生命保険のオネーチャン
タナカさん、って 昨日健康食品配ってた親切な人と
名前が ナンダか、 似ているね、

父が 二千人のタナカ、さんに 百円玉を 配り歩く

投稿者 tukiyomi : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

幻の人

バスの隣の席で 私の名をしきりに呼ぶ男がいる
私には 知らない隣の人
しかも 違う名前で呼ぶから 
私を呼んでるとは思えない

隣の男が手を握ってくれるのは
私が寂しそうだからというが
私は そうされることが 寒かった

男の手の感覚しか覚えていない
私は 彼の方を向かなかったから顔も見ていない
彼が呼び続けたのは 私の本名じゃないから
お互い知らない人のまま バスに揺れていた

男は名残惜しそうに 
私に似た名前を呼びながら バスを降りた

知らない人だったけど 悪い人ではなかった
もしかしたら 私は彼と同じ場所で
降車したかったのかもしれないけれど
彼が呼んでいたのは 私じゃなかったから
お互い幻の人のまま 手の感覚だけで
愛し合ったみたいに別れた

私はこの街にいる私を 私とは思わない

そしてまた 私の追いかけてきた人も
幻の人 その人であった

投稿者 tukiyomi : 10:15 | コメント (0) | トラックバック

私の中心

今 私の中心に私はいない
好きだった男に 中心を持っていかれて
棄てられたから

私は スーパーのゴミ箱や
彼とはぐれた バス停に
私の真ん中が 落ちていないか探し歩いた
寂れたアパートの水道管の中や
新生活を始める為に自宅から持ってきた
鍋の底にも 手を入れては
突っ込んでさらえてみた

一生懸命探しまくった私の姿をみた彼は
「予想以上に汚かったね」と、いうと
私の中心をポケットから 取り出して目の前で
嗤いながら 握り潰した

日本の中心で 今日私が殺されたことなど
勿論、明日の新聞にも載りはしない

投稿者 tukiyomi : 10:13 | コメント (0) | トラックバック

私を待つ

詩を待つように 私を待つ
たとえばバス停
駆け込み乗車して
時間に運ばれていく人と
置き去りにされる私
発車したバスがベンチから遠ざかるスピードで
私たちの溝はできてゆく

同じ街まであなたを
追いかけてきた情熱に
私は乗り遅れてしまったのだ

じろじろと私の荷物の中身を
透視しようとする
小賢しい人混み

私は守る
私の住民票
私だけの記入欄にいる あなたの名前
真実味を帯びた嘘みたいな名前

大切に抱えて 泣き出したのは
私があなたを追いかけすぎて
私を 見失ったから

私は 一枚で二枚の紙切れになりたかった

いつかは 名前ごと
燃やされるのだから
あなたと 灼かれたかったのに

バス停で産まれた孤児が
柔らかな詩をかくように
「私」をお待ちなさい、と
また この時刻に服の裾にしがみつくので

もう一人の私が
産声を…

発車させてしまうしかない


抒情文芸  清水哲男 選  入選作品

投稿者 tukiyomi : 10:09 | コメント (0) | トラックバック

手紙のような

東京に来て 一週間足らずで死ぬ
入居前前日に 薬を飲んだらいいよ、と
投げ出された薬の粒を 拾い集めながら
どうしても足らない錠剤の分 あなたの都合を呪う

副作用が頭にのぼり それでも
洗濯物だけは 取り込んで
明日入居するはずだった
ワンルームの間取りに
衣装ケースや冷蔵庫の位置を示した
大きな藁半紙を 枕元に置いて寝る

ささやかや未来の夢が 見れそうで
あなたが この紙切れが
私が信じた総て だったと 泣いてくれたら嬉しい

そんなはずない
投げ出されたのは 荷物と私
荷物だった私
滲んだ希望に 私は笑顔で映らない

田舎モノが三畳個室のホテルの
一番隅角部屋で 死んでいたら
情けのある東京人は 「東京を汚すな!」
と、いい
情け容赦ない東京の風は 私の身分証明書だけを
黙って 抜き取るだろう

あの人は 言った
詩集は遺言なんだ、
その時、その時にしか、書けない遺書だと

私は今 遺言という詩集を
叫んで書いています
これは詩ですから 虚構です

ただ、枕元に置いている
冷蔵庫や洗濯機 衣装ケースの配置図も
詩集に入れてください

そして願わくば
明日 新居に届く お揃いのお茶碗と箸のこと
一つでは 用が足せない可哀想な
使われないモノたちのことを
遺言という詩集に 載せてあげてください

私はそのぺージで あなたのことを 見ています

さよなら 私たち


投稿者 tukiyomi : 10:05 | コメント (0) | トラックバック