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2012年06月29日

常春

常春


身体じゅうの痣から
透明な茎がでて
病室で溜め息を吐く度
花が咲く

プランタンの菫が
赤や紫や黄色になって
身体じゅうに咲く

痛くはない
辛くはない

ただ頭に
花が咲いたら
春がきたとおもいなさい

此方へは
還ってこれない
拘束ベッドの
箱庭で
枯れない菫が
植えられてゆく

投稿者 つるぎ れい : 20:38 | コメント (0) | トラックバック

2012年06月28日

ある恋いの形見に

ある恋の形見に


戻れない蜜月を
振り返れば
其処には欠けた三日月

鋭い鎌で胸を刺し続けた僕らの
いつかの夜空の爪痕
今更の今日が
明日を隠すんだ
孤独が約束に
鍵をかけるんだ

満ち足りない日常に
くるまれた新聞紙から
腐った桃から滴り落ちた
水蜜桃の苦さを
僕は知ってるから
違う果実を探しながら
過去を千切りながら歩く

熟れ落ちた林檎を
かじってみても
僕らには
エデンは遠く
君またも遠い

僕は果てしない
夢を見るために
瞼を閉じた

琥珀色の瞳に
君を染まらせないように

そんな色のブランデーの海に
君を酔わせないために

孤独が約束通り過ぎた夜
狡い僕から

風に揺れてる
雛罌粟のような君へ

投稿者 つるぎ れい : 19:46 | コメント (0) | トラックバック

2012年06月18日

ただ君に・・・。

ただ君に・・・。


秒針に胸を刺された夜の華眠れぬ夜に枕を濡らして


いじらしい棘ほど甘い顔はない花のように微笑む嘘つき


秒針の音聞け叩け我が胸の鳴りやまぬ夢の扉を開け


淋しさに唄があるとするならば薄情者が吹くよ口笛


俺の詩は普遍的だという君の普遍性ってなんのメタファー


隠してたでもバレバレの嘘をつく男の言い訳 女の秘密


新しい秘密と陰口増える度 人と人とが夜手を繋ぐ


眠れない夜を数えてモノロクローブー触れる針に揺すれ揺すられ


ただ君に優しくしたいだけなのにコインが裏切る本音の裏側

投稿者 つるぎ れい : 18:39 | コメント (0) | トラックバック

2012年06月08日

黒い箱

黒い箱

黒い箱


長持ちする
飾られた言葉が
優しい配色で
贈られて
私を癒やしては
私の代わりに咲いて
枯れて消えた

せめて
絵にかけば
消えないだろうと
毎日描いて
描き終わった頃

花も枯れて
贈り主も消えた

まるで
始めから予知されたように
黒い箱に
収められていたっけ

私は
水彩画の思い出を引き裂いて
柩に涙を刻む

ラナンキュウスの花束を
勿忘草に替えて
黒い箱に閉じ込めた

投稿者 つるぎ れい : 17:51 | コメント (0) | トラックバック

小詩    二編

小詩  二編

【唇】


赤薔薇のように
開いて
赤薔薇のように
咲いて
赤薔薇のように
色づけた

胸に薔薇のような
棘が
刺さったままで


【風の中】

風の中を
旅人は行く

風の音を
纏いながら

淋しそうなフルート
悲壮なヴァイオリン
二短調のピアノ

風の中を旅人は行く
旅は胸に響く

渦巻くうねりの中
すべてのハーモニーを
上手に奏ながら
旅は
続く

投稿者 つるぎ れい : 17:09 | コメント (0) | トラックバック

2012年06月05日

降り積もる雪のように

【降り積もる雪のように】


あなたの望む
あなたにおなりなさい

例えば雪のように
柔らかく白く
降り積もりなさい

やがて踏みにじられ
汚されて逝く
その傷や痛みを
涙や嘘で繕うのです
そうして白い瘡蓋で
覆うのです

人はまるで
降り続ける白い粉雪
自分を掘り下げるように
自分を重ねて行く


   ※抒情文芸134号入選作品 清水 哲雄  選

投稿者 つるぎ れい : 19:54 | コメント (0) | トラックバック