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2015年03月31日

腐る、父の見る夢に、腐る家。

家に泥棒が入って 大黒柱にタイマー付きの爆弾を
何ヵ所も日時をずらして 仕掛けて逃げた

百二十年続いた掟や道徳心や慣わしまでも
少しずつ破壊していく
傾き始めた家の 頭は白蟻に食い荒らされて
かすかすに表皮が剥がれ落ち 柱の内臓が腐っては
昔 松ヤニを溢したあの樹液すら その樹皮の裏側で
細胞は核爆発を繰り返していた

盗まれたものは なにもなかったが
そこで暮らしていた団子虫たち、つくもがみは
家の頭に風穴が空くと そこから入るすきま風に
はじめて冬の寒さを 知る

柱時計はおやすみなさい、を告げると
もう 針を動かすことを放棄した

(父は腐る、父が腐る、癌におかされた毒素が頭を這いずる
(それでも 出来るだけ人間らしく逝きたいと願いながら
(生き長らえる夢にすがり 時々私たちの行けない所まで
(飛んでゆく頭、を 見送るしかない、小さな母と小さな私

家が永い夢を見ている、
自分が腐っていることを、自分が腐っていくことを
せめて泥棒と 家主たちには悟られまいと、
心臓に穴が開く前に 斜めにずっしり倒れては
こめかみを 何度も何度も床に打ち付けた

(おやすみなさい、私たちは永い夢を見ている、

投稿者 tukiyomi : 15:57 | コメント (0) | トラックバック

2015年03月25日

名詞

手紙という名詞一つで嘘をつき君はすべてを赦されている

真実に名前があるとするならばいつかは弾けるウルトラソウル

なぜ愛は中心に置かれて赤くなるデーターベースの中が夕焼け

種という記号一つで結ばれた僕らは美しい本の虫たち

みみたぶをかむようにしてあじわいたい ことば ことば やわらかくして

腕時計放り投げた昼下がり靴音が鳴る じぶん じぶん

運ばれる私の名札や荷札たち整理できない片づけられない

投稿者 tukiyomi : 06:04 | コメント (0) | トラックバック

2015年03月24日

動詞

人を、愛、する、 ということに、疲れて、しまった、人の
愛、している、というものに 縋りってみたくて 家出した

「し」はいつも隣り合わせに居たし 
高速バスに頬づえつく、くらいの、考える、という距離
移り変わるものは 季節ではなくて人の心
速度をあげて回転するタイヤの円周率、三.一四.一、
幾度目かの春
無限旅行を続けなければならない 
あなたにとっては 終わりの
私にとっては 始まりの 春

車窓の景色が変わるた毎に 傍にいた人は
伝言をのこして 下車していった 
何を彼らが言いたかったのか 夕陽が傾く頃
終点の改札口の駅員さんが パチン、と
切符を切った音で気が付く

今日の日付変更線が変わる前に 
飛行機に乗らなければならない
たそがれ、を飛ぶ真っ赤な色に染まった
カモメのような 淋しい飛行機に

人を、愛、する、 ということに、 疲れてしまった、人の
愛、している、 という風景を 私は見ていた
「し」というものが 目から夕陽を零して落ちていく度に
私の、わたし、が 泣き止まない

 (水は 一か所にいれば濁る
 (流れなければ息ができないのさ、君も人も僕たちも

 (燃える水になりたい、濁った油のようでなく、
 (水のカタチを宿したままで どこまでも、どこまでも、、

飛行機は私だけを赦して 飛び去って逝く
誰の背中に乗って ここまで来てしまったのだろう
誰の背中に寄りかかり ずっと泣いていたのだろう

 (流れるまま 炎のように生きなさい
 (浄化の源泉を 湛えて歩め

「愛する」ということに 「疲れてしまった」人の、夢の中で
私は「愛せる」というふうに 現れる

    緋色にゆらりゆらりと ゆれる夜の焔
    決して焔に溶けない 蝋燭が二本
    枯れないカーネーションを 活けつづけ
    ひび割れた老眼鏡を 置く

旅去った者たちよ
私はあなたがたが名付けて遺した 唯一の動詞だ

投稿者 tukiyomi : 17:21 | コメント (0) | トラックバック

花粉症

杉の花粉が飛ぶ頃に
人も鞄をぶら下げて
何処へいくのか 東へ西へ

人混みを通過していく
訛りや方言を
マスクで覆って
笑って ハクション

新人の 媚びた上目使いに
上司の イライラ
管理職の中間位のストレスが
三種三様 口から鼻から
飛び回る

大勢の戸惑いを 乗せた電車が
細く長く 北へ南へ

鼻から水が 口からくしゃみが
流れて吐かれて 花粉症

プラットホームに立つ 私
上りと下りを隔てて 青年
彼が漏らした くしゃみは多分
私が何時しか ひとこと多い花粉症

花咲く春に 誰かが何処かで 
鼻をすすり 目を赤らめて
必死に仕事にしがみつく
小さな国の 大きなくしゃみ

投稿者 tukiyomi : 07:03 | コメント (0) | トラックバック

2015年03月15日

カラスの行方

東京の地下街から 
胸を焦がすような茜空は売ってませんか

そんなことを言ったら 嗤われるだろうが
本当はみんな 自分の町に住む
夕焼け色の切符を手に入れるために
上京しては 行方不明になったことを
私は 知っている

地下街に網羅する
どの線からも 家に帰れる便利な時代に
年老いた両親を姨捨山に 
沈む夕日ごと おいてきました

多摩川の水に映える 滲んだ空が
橙色の空と雲の輪郭線を 
くっきり仕切って 映してみせる

車窓からは 西日が深く
父母の遺言めいた 眼差しで
私の胸を 斜めに突き刺し追い立てる

見上げると
カラスが一羽 西へ西へと飛んでゆく
森までたどり着けるだろうか
森でも独りで眠れるだろうか

(電車にゆられて どこまでも、どこまでも、、

私は か細い音を連れながら
森へ森へと 消えてゆく

投稿者 tukiyomi : 20:02 | コメント (0) | トラックバック

2015年03月04日

創世記

 ーーーーーーはじめにコトバありきーーーーー
        「ヨハネ伝黙示録 より」


神はコトバにて人間を造った、いや、正確には、人の間の者たちを
それは 私たちのこと
無意識に神に従い マインドコントロールと
洗脳を仕組まれた 私たちのこと

あなたは塵から造られ 私は肋骨から生まれでた女
私たちは箱庭に幽閉され 今はたった一本の林檎の木に
蛇が絡まっているだけ

私はあなたに何を喋ったか覚えていないし
あなたもまた 私になんといったか忘れてしまう
コトバを話すことを許されていたのは 私たちの神
それ以上に コトバはない

文字は味方だったかもしれないし
絵は友達だったかもしれない
けれど それにらについて交わす知恵も
私たちにはなかった

箱庭を覗いてくる 神の右目と左目
が、相談しながら、コトバを持たない私たちを
「甚だよし!」と、されては 庭を手入れする

ミニュチュアガーデンのなかに 洋服があったとしても
神は ブドウの葉で 着飾る私たちを赦さなかった
寒さも痛みもわからず 裸でいるだけの屈辱が
楽園の道楽者の定義
(お前たちは私たちの子供、私たちが作り上げた人形
(生まれたままの可愛い子、何でもしてあげるからココロ、だけは持たないで!

自らの手で「生きたい!」を掴みとった林檎の実は
あなたの喉で燃えて刺さり 私に血を流させた

私たちは 親から追放された
生きる足枷と引き換えに 自由とコトバと苦難とココロの
松明を燃やして逃げる

(産めよ!殖やせよ!地に満てよ!)

背後から抱かれたその声は 右からでもなく 左からでもなく
私たちの中央の額を裂いて 見開かれた千里先をゆくコトバ

創世記の幕開けの 声
木偶の坊から走り出す 朝日を呼ぶ母音「あ」
見るものを射照らしビックリさせ前進させてゆく

そのたびに「あ」は 拡散し 生まれ変わり
黙示録の冒頭を 生きた人のコトバとなって
描かれる

投稿者 tukiyomi : 18:13 | コメント (0) | トラックバック

靴底

夕暮れチャイムの音を 靴底で踏む
冷めた指で掴みたかった夢は
温い毛布の中のちがう体温

斜めに闇を切り裂く車のライトに
いくつもの私の顔が 現れては消されていった

パンプスではもう歩けない距離まで
重い足を引きずりながら
自分の影を踏みしめて来た
両手には 夜食袋の重さが 
指にのしかかる

 (冬至までは冷え込みますから
 (お体に気をつけて

誰が言ったか分からない伝言のような言葉
思い出しながら 路地裏に入ると
夜をつれた 黒い冬が私を覆う

 (オトウサンガ ニュウインシタノ
 (シンパイシナイデ、ケンサニュウインダカラ・・・

足先から しんしんと捉えてくる
粘りつく冬の影
私が私でなくなる温度に 侵されてゆく

流れるライトに炙り出される 寒さの正体
動けるだけの力で 白い気配を 靴底で蹴りつける

抒情文芸  154号 清水哲男 選 入選作品

投稿者 tukiyomi : 17:17 | コメント (0) | トラックバック