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2014年04月23日

飽和する部屋

毎日ため息の数だけ窓に夜
毎夜吐息の数だけ開く眼
毎日錯乱する音楽が
憂いを売りつけ
毎日壁紙を貼り替え続ける
毎夜蛍光灯の光が
私を眩しく辱める

高い空に焦がれ
白い雲に跨り
微風の宵に躰を預ける
そんな夢を囲いの中で見たら
生き物の匂いが
吸いたくなって

窓の外にいる
誰かの名前を
呼びたくなったのに
誰を呼んで良いかわからない

部屋の中
自力で割れない
残っていた風船ひとつ
今も二酸化炭素を 吹き込んでは膨張させ
私は私を圧迫し 心臓から潰していく

「私の息が まだ、ひとこと分残っています」

独房のような部屋から
飛ばした 赤い風船が燃ている


投稿者 tukiyomi : 23:19 | コメント (0) | トラックバック

炎の中で産んだ子に

痛みが私を突き動かすのだ
何十本もの針から
毒が首に差し込まれ
私は自分の神経が
ピアノ線のように
弾けて途切れてゆく
音をだけを聞いていた

腐食してゆく細胞(いと)は
見えない棺に入れられたまま
燃え盛る炎に焼かれ
赤銅に生まれ変わるのだ

抉られた針の穴から
くすぶり続ける
赤い暗号たちが
火と火という記号の羅列を作り上げ
言葉を残せと責め立てる

首に貼られた血止めのテープを取り払い
首筋から溢れ出す痛みをかき集めて
私の首(もじ)を
差し出した

さぁ
赤鬼のは現れたかったか

赤い顔をして怒れる
私に似た
赤鬼を私の血肉で
虜にできたか

そして
その首(もじ)だけを
愛せるか


私と赤鬼は
断頭台で晒し者にされながら
永い間くちづけを交わす

舌を這わせ口腔に滑り込ませては
お互いの臓器を舐め回しながら食いちぎる

繋がれた舌から
夜の沈黙の中で

アーッ、あ。アーッ、あ。アーッ、アーッッ!

という
母音だけの垂れ流しが始まると
字と行間が 滴り落ちる

私は鬼の子を産むだろう
痛みの中で怒りの中で
燃え盛る炎の中で

銀の針のような視線をした
紅蓮のオーラをもつ鬼を
人々いつしか詩と呼ぶだろう

そのためだけに
私は 今日 
愛する赤鬼を
喰い殺したのだ

投稿者 tukiyomi : 22:59 | コメント (0) | トラックバック

ピンクのマニキュアを買う
好きな男に会うためだけ
その日の私の爪を
彩るのは四十になると
決して塗れない色のピンク

この指先で好きな男に
触れるのだ

真夜中風邪を引きながら
何度もコーティングしては
塗り直し 塗り直し
たった一日持てば用はない物を
私は三時間かけて染め上げた

ホテルのドア口で
マニキュア瓶と別れ
五反田で鞄の留め金に
爪がこすれ
渋谷の人ごみに色が褪せて
私の男にあったとき
私の指に爪はなかった

ただ
私の指が
あなたの身体の輪郭になぞりあげ
よじれたあなたが声をあげた時にだけ
私の爪には 赤い火が灯るのだ

あなたの身体の 隅々に私の爪痕が
今も さ迷って
黒く 喘ぐあなたを
ピンクに 染め上げてゆく

一夜限りの恋物語は
一夜だからこそ
千年のシナリオを
感じたままに
あとは男の爪に
委ねよう

お互いの 指切りが
ひとつの 思い出となるように
男の長い指を
私は 今日引きちぎり
私の指は 男にあげた

投稿者 tukiyomi : 22:06 | コメント (0) | トラックバック

2014年04月20日

夢からの便り

忘れ去りたい過去ほど 眉間に刻まれ
悩んだ汗や疲れた陰が 額に滲む
頭の記憶より先に 肩で風を切って歩んだ
白い足跡だけが 残された街

握りこぶしを離せない花ざかりの古拙に舞う
桜の花びらの数を 見送るたび
五月の風が 友を攫ってゆく

初めて手を合わすことの
不可思議の 重さ
気づいてしまえば 震える肩とその指先

「夢から醒めない夢を見ている」怖い、と
泣いていた少女の 手のひらには
もう、指折り数える歳月に節目が覗く

誰かの見た夢の端っこの 通過点を
合掌する手の隙間から薄目を開ければ
厳しい人の優しい眼差しが 微笑んだ

肩をしっかりと寄せ合った 恋人同士だとしても
沈黙の花を 咲かせなくては いけないよ、

春鳥たちに それぞれの 夢を託けるために


投稿者 tukiyomi : 23:05 | コメント (0) | トラックバック

2014年04月14日

タイムリミット

冷蔵庫の中で母は 
飛蚊症と老眼の目を凝らしながら
自分の賞味期限を何度も何度も 
毎日 確かめる

私は母の頭の中から 一番初めに腐ってゆく
もやしや木綿豆腐の水を 
流しに垂らして 生ゴミにして毎日棄てる

それでも
白い冷蔵庫の中身は
綺麗な白いものから 腐ってゆく
私が昔飲んでいた 牛乳とか
誕生日に頬張った 生クリームとか
甘い思い出ほど 固まったまま
苦い時が過ぎ カビが生える

このままでは私は見つけてしまう
腐ってカビの生えた母
白い骨と粉になった母

そして温度計が 午前零時を指した頃
白い母が 覗き見る

凍てた私の温度の変化 
お前もとうとう、腐ったね、って

投稿者 tukiyomi : 22:29 | コメント (0) | トラックバック

2014年04月06日

アンテナ

アンテナが張り巡らされて うるさい
春の雨の水滴が どんなに意思表示しても
夜を昼に変えるような速度で
彼女たちを 蒸発させてゆく

私の内側にあるものを
私の外側のことと 置き換えて
無言で罵り合う 電波塔の赤い光

黙ったまま 私のスカートの中を
のぞき見したことを 告げていた
 (アナタノ受信トレイニ 一件)

アンテナが張り巡らされて うるさい
青い空を滅多刺しにした あの黒い導火線たち
ことにワイヤーで取り巻かれた 黒光りする蛇が
とぐろを巻いて 上から舌を出している

私は頭を覗かれ 体をグルグル巻きに縛られ
点滅する文字となって 
多くの知らない人たちのもとへ 拡散される
 (キンキュウニ オタシカメクダイ)

粉々になった私は
たぶん、あの日蒸発した春の雨のようで
いつも、スカートを覗かれている小学生
切り裂かれて転げ落ちた空のようで
黒い蛇に見下ろされて 
監視されては 怯えるモグラ
 (パソコンガ ウイルスニ カンセンシテイマス)

私は
アンテナに縛られ運ばれ 粉々になりながら
拡散されては 消されてゆく
 (デリート、デリート、デリート、)


投稿者 tukiyomi : 07:35 | コメント (0) | トラックバック