« 2013年09月 | メイン | 2013年12月 »

2013年10月25日


我慢できなくなった空から
ゆらゆら ゆらゆら 焔(ほむら)が見えます

お父さんは
「良い子にしていなさい。」 と
布団をかぶせたまま 出て行きました
こんな嵐の前日は 必ず空に
ニタリと嗤う 月が見えます
私 シンクロして 私を探す
輪郭をなくして出て行く 私

為すがままに ゆらゆらと 立ち上がり
ほろほろと 見えない月に 喚ばれていました
白いノートから 我慢できなくなった文字
くっきり 浮かべて 立ち上り
私の影が 月に映えて 嗤っています

横隔膜の雨音で 辛うじて護ろうとする自我
から、はみ出そうとする 私の渚
お母さんが
「今日は外へ出てはなりません。」 と
完全に締め切った二重窓
カーテンの隙間から 嗤う月

伸ばされた腕を 私は欲しがりました
月に 抱かれて 苛まれて 
弄られて 悦んで そして、
私は猫のような玉虫色の目をして
真夜中になる 

 (汐が引くまで還れまい)

空に咲いた私の輪郭を 啜っては
ニタリと嗤う 月の聲

私を片目の達磨が 二つ並んでみてました
もう、墨を 入れてあげられない 両目から
黒い涙が 流れます

女の業力 支配して
月は色濃く 陰落とし
今宵の雨を 嗤います

投稿者 つるぎ れい : 19:58 | コメント (0) | トラックバック

2013年10月24日

せんせい。

せんせい。


せんせい。
みんなが違うことばかり言うのです。
私の国は、日本だといい、
私の国は、大和朝廷だったといい、
私の国は、経済大国だったといいます。

社会の先生に聞いたら
それらは全て正解だったといい、
倫理の先生に聞いたら
それらは全て間違いだというのです。

そして
生活指導の先生は
オーストラリアの首都は
シドニーだといっていましたが、
国語の先生は
キャンベラだ、と
こっそり 教えてくれました。

それらを
家庭科の先生に言うと、
【時々、名誉や富が変わったり
   加わったりすると スパイスされた
              品名になる。】
という料理のレシピを私にくださいました。

せんせい。
私の一番大好きなせんせい。
あなたは理科室で、それらのコトバが
私の耳にこれ以上、入ってこないように
私の両耳たぶにピアスホールの穴を
バキンと開けて、こういいましたよね。

 【この痛みだけを信じなさい。
   この耳たぶから流れる、赤い温みを信じなさい。
     冬に耳が疼く度に、それらの間違いを、
       記憶から消しなさい。】 と。
                      

せんせい。
また、あの理科室で痛みをください。
私をピアッサーで刺したときのように
もう一度痛みで、答えをください。
あなたに応える私になるために、
もっと、強く、酷く、貫いてください。

そして、また、あの、真っ赤な部屋で、
教え込んでください。
 【君が産まれた国は、
   アルコールの炎と消毒液の似合う、
     この理科室だけだ】 と。

投稿者 つるぎ れい : 20:22 | コメント (0) | トラックバック

2013年10月21日

供物

供物


私たちはお互いに捧げものにする「生け贄」について
話し合ってました

私が家に上がった百足を殺していた頃
あなたは勉強の邪魔になった金蛇を
殺していました

私が「百足は炎のような黒さだった。」というと
あなたは「金蛇は雲のような、白い腹をみせた。」
という
私が、「それが憎くて怖かった。」というと
あなたは、「怖くて、淋しかった。」という
私は「とても、痛かった!」というと
あなたは、「とても、悲しかった!」という

その痛みと悲しみを 私たちは 違う文字にして
両親のお仏壇に 飾って手を合わす

お父さん、お母さん、
これが私たちが 初めて殺めた生き物です
あなた方に 奉納します
お父さんが 怖いです
お母さんが 憎いです
お父さんとお母さんに殺された 私たちの
生物を捧げます
この歪な文字は はなむけ の、花

私たちの手は血まみれです
真っ赤な二本の蝋燭が めらめらと燃え上がり
汚れて黒ずんで 腐り堕ちて 青ざめながら
溶けて逝きます

お父さん、お母さん、赦してください
私たちは こんなふうにしか 生きられません

やがて 私たちの肉体も甘い透明な不浄の水となり
その蜜に群がる無数の黒い
ハイエナのような蟻たちによって
笑われながら 解体され 
あなた方の所へ 運ばれてゆくことでしょう

その時は
お父さん、お母さん、一緒になりながら
私たちを 食べてください
 ・・・お前たちの一生も、所詮、
       虫螻みたいだったねと・・・


あぁ、
カラカラとした笑い声が 
カラダから響いてきます
私たちが捧げたものは 全部昔から 
奪われていたモノたちばかりでした
 
 父に・・
   そして、母に・・・

投稿者 つるぎ れい : 22:34 | コメント (0) | トラックバック

2013年10月13日

淋しい充電器

淋しい充電器


一万円札だけの旅
一万円札だけの価値
自分の電池が切れるまで 歩く
チャリチャリとポケットに詰め込んだ
値打ちを確かめて 入ってゆくのは暗い路地
贅沢な焼き豚丼で 電池をチャージ
心配してくれない親は
感情電池を切断したままだ
帰りたいのに帰れない日に限って
丼屋のBGMは フル回転で
前頭葉に染み渡る、から
聞いたような口を開いて 私に涙を伝達する
店から外部への接触はシャッターの隙間から
オレンジ色に光る 街角娘をシャットアウト

斜め上の高級レストランの三階から 
白く輝く白熱灯
見下ろしていたのは 大雨の中
赤黒い泥としみに感電した
ネットカフェの看板持ち

私は歩く 
黒い服を着込んで
背中は 停電したままで
来たことも無い暗い道
でも いつか身を屈めて辿った
苦しい産道の指示表示のネオンに向かって
一本道のアーケード街の光を 目指す

私がエコーで 私の内部を見つめるように
私が心電図で 息をしていることが
ばれないように 
停電したまま停滞を続けて 這っていく

 人間は大声を出して働く
 電池が切れるまで
 ネオンの色はすぐ変わる
 見失うための目くらませ

スクランブル交差点から 
はみ出したいと 強く思った
信号が赤になったら
一目散に 走り抜けたいと思った
路地裏はそんな暗い跳躍力で 点滅していた

移りゆく景色を電線に阻まれ此処に来るまでに
何度更新をかけても 電波は届かなかった
誰でもない誰かである 宛もないメールが
ひとこと 欲しかったのだ
夕暮れが赤黒く胸にこみ上げるように
すれ違った人の 笑顔や言葉が響き渡って
私の内を 交信して 消えることは無い

真っ黒い個室の充電器からは 
人が流す血のむくみが感じる赤が
充電中の表示と共に 滲んで落ちて
私の夜が 赤く零れたまま 掬えない

投稿者 つるぎ れい : 08:12 | コメント (0) | トラックバック

2013年10月06日

未来の魚

未来の魚


父は生きる 沈黙の中に
母は語る 夢のような言葉
私は横たわる 足りない絶望を枕にして

川の字になった
冷え切った水槽の中
打ち上げられた魚を三匹
飼って眺めて笑っていたのは
水槽を覗くいびつな
あべこべになった
薄笑いの目 目 目 目

金貨で競いたがる噂話
コインで
家族を秤にかけた優越を
父の呻き声がかき消して
母のヒステリーが口から火を吐いて
私たちの水槽がパシャリと軽い音で弾けた

川の字なんて
はじめからなかった
まして
川で泳ぐ水すらない

ただ 今度生まれ変わるなら
人にさばかれる魚ではなく
家族三人
一つの田に植えられた
秋の稲穂になろう

実がなるほどに
頭を垂れ
人の糧となり 人を満たせる
秋の夕陽に映えた
沈黙だけの 幸せを抱えた
金色の
稲穂畑の一粒だけにでも

投稿者 つるぎ れい : 18:11 | コメント (0) | トラックバック