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2011年04月30日

ボディーペイント

ボディーペイント


私は身体に
金色の蛇を飼っています
嫉妬の流動体が
這いずり回る
未練と栄光だけが
支配する半身

私は紫の鱗の分だけ
秘密を持ちます

爪先形の秘密たち
肌を締め付けこびりつき
過去の恋を
絞り出そうとする

私は表情を隠したまま
唇を閉ざし
誰にも知られぬよう
あなたを
アドレナリンから
追い出そうと足掻きながらも
滲み出る
終わった沈黙の夜を
数えています

私は上手に苦悩する

だから
あなたよ
描いてください
鮮やかだった
過去を私に


詩と思想五月号佳作作品

投稿者 つるぎ れい : 18:15 | コメント (2) | トラックバック

調律

調律


曲がりくねったト音記号を筆頭に
平行線は果てしない

追いつけないダブルシャープ
デクレッシェンドが
ゆるやかに
あやしてみたり
フラットに なだめられたり

頑固な全休符は
ポディティブな七連符と
相性がが合わない
沈黙の深みを教えようとしても
生まれついての八分音符
サッサと転がり
逃げてゆく

平行線に並べられた
ひとつひとつの個性たち
ひとつとして無駄はないのに
噛み合わない不協和音の楽譜を
ただ眺めながら

黒く塗りつぶされた
記号の群れを指でなぞり
歌えないプリマドンナ
声が出なくなった頃
ト音記号の歪曲さ
今更ながらに
思い知る

詩と思想五月号佳作作品

投稿者 つるぎ れい : 18:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月26日

歯車が狂うように

歯車が狂うように


歯車が狂うように
詩をつづる
ペン先から漏れてく私

棺に文字を入れられて
喋りすぎる言葉の茎が
耳元から伸びゆく

咲いた向日葵が
うなだれて
私の顔色を伺いながら
土色に染まる

私は静かな雨音に
消されて逝く
去りゆく人々の骨を
拾う

墓標
詩人の墓に
添えられた言葉は
喪失

ひとつひとつの
歯車が狂うように
詩人の運命は
張り詰めた
ピアノ線

一筋の音色しか
奏でることを
知らない

投稿者 つるぎ れい : 23:02 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月22日

波紋

波紋


路地裏の企み
過労死する
サラリーマンに集る
マスコミ
埋蔵金の謎解き政治家
原発の隠蔽科学者

たかが日本
されど我が国
出てゆけない自分に
破門

投稿者 つるぎ れい : 21:19 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月19日

生と死の狭間に濡転がって

生と死の狭間に寝転がって


日が昇り ラジオから流れる 放送を 掻き消すような 草刈りの女(ひと)


青空に 快晴と描く 正直さ 登校生徒に 割けない時間


山裾を 目にしてみれば 若桜 季節の軌道に遅れた私


洗濯や 布団干しに 追われても 私の今は 誰にも負えない


光射す 汚い部屋にも 光指す 埃にまみれて 質問された


毎日を安穏と暮らす私など 鬼と罵れ 東北の人


窓からは 夕暮れ見えます 茜空 多くの犠牲を 払った空に


生きてきて 沢山友人 死にました 動けぬ私を 責める魂


水いっぱい 飲めない人と同じ血が 流れていると 知りたくない夜


年取れば 夢を描くなと いう人の 夜の予言を キャンバスに描く


さようなら 何もしないで暮れる今日 おやすみなさい 明日も振り出し


お前など 死ねばいいと 呪詛の札  明け方までも響く嬌声

投稿者 つるぎ れい : 21:31 | コメント (0) | トラックバック

感情

感情


入り込む海に
渦潮が逆巻き
碧い涙を
凌駕する

満月には
満たされ
新月には
干からびて

嘘月の賭博に騒ぎ立つ
鼓動の狭間


満ちたり
欠けたり

満ちたり
欠けたり

投稿者 つるぎ れい : 21:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月14日


岸壁の上に砦
打ち砕く
女のヒステリー

荒波を見下ろし
包括する空と海

たとえるならば
私の灯火
哲学より深く
恋愛より激しい

あなたの身体は
そんなにも
細いのに

砦に差し込む
日差しは
暴力的なほど
私に優しい

投稿者 つるぎ れい : 21:11 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月10日

再会   〜或る女の為に〜

再会    〜或る女の為に〜


指で弾くような恋をして
泡のようにふくらんだ蕾のままの私
黙って剥がれないマニュキュアを
そっと塗る
この指先に点る灯りは
誰にも触れさせない

指先から身体の芯まで
発光する流動体を
揺らめく炎に変えて
旅人の帰りを待ちましょう

邂逅を一陣の風に今は攫われても
春雨が別離の涙を溶かしてくれる

春 雛罌粟を一輪ください
花言葉は純愛

さらば恋人
されど恋人よ
私は歓んで貴方の礎となりましょう

投稿者 つるぎ れい : 03:11 | コメント (0) | トラックバック

布団

布団


慈しむような嘘で
温められ
抜け出せない私を
抜け殻にした
快楽部屋の牢獄


私は私の夢を
毎夜咲かせては
腐らせ
咲かせては
腐られ


干さなければ
ならなくなったほどに
悪夢は染み付いて

今も まだ
一緒の布団で
眠っている

投稿者 つるぎ れい : 03:08 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月08日

ミエナイチカラ

ミエナイチカラ


見えない引力で二人は
繋がっているのに
春嵐の花びらにかき消されて
彼は貴女に気づかないで
今日も明日も明朝体を
打つでしょう

互いがS極とN極ほど
正反対でありながら
強く惹かれ合う

その磁力に明朝体もペンもなく
彼の目には裸の女が独り
言葉なく真夜中過ぎの
引力に抱きしめられるだろう

投稿者 つるぎ れい : 22:05 | コメント (0) | トラックバック

小詩  四編   3

小詩 四編  3


【目眩】

嘘のような誠が
まことしやかに
うそぶいて
三億年から
地球を廻す

嘘が誠で誠が嘘で
愛と正義が見つからなくて
兄弟人類
まことしやかに
目を回す


【電灯】

僕の中に
ホタルの下に
君の芯に
灯りが点ると
よその子供が
たくさんよってきて
笑顔の明るさ
四百ワット


【眩しい】


あなたの鎖骨から流れる

一滴

【指輪】


あなたが
薬指に噛んだ
歯形が
痣になったまま
私を赦さない

投稿者 つるぎ れい : 21:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月07日

こぶし

こぶし


五分咲きの こぶし一本(ひともと)山裾に 握りし冬を虚空へ放つ


こぶしより放たれた冬の塊(かい)ひとつ 溶けて空の泡となる

投稿者 つるぎ れい : 14:39 | コメント (0) | トラックバック

2011年04月04日

母子像

母子像


私がお腹の中にいるときに
母が一枚の
絵を描いていた

柑橘系の匂う顔彩を
指で取っては
子宮の辺りに
私の表情を笑顔に描いた

私がお腹の中にいるときに
母は一枚の絵を描いた
自分の骨を砕いては
白いテンペラ絵の具にして
私の肌を色白に染めた

けれど
それはとても酸っぱい記憶

私は檸檬と母の骨を
かじりすぎて
血塗れの罰を受けた

罰に泣き濡れる私を
産湯で洗って
母は初めて
自分の絵が最高傑作だと
微笑んだ

母親はお腹に子を宿しては
母子像を描く

その腕(かいな)に
おしっこを漏らしながらでも
飛び込んでくる
乳飲み子の
夢みながら

投稿者 つるぎ れい : 12:12 | コメント (0) | トラックバック