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2009年08月30日

月神の涙

   月神の涙 月神の涙 海底に眠る君の体から透明な茎が 月に向かって伸びてゆくよ 月神(つぐみ) 哀しいけれど お前はそれを見ずに 短い夏を逝く お前が咲かせた花は 月下美人 儚さに背を向けて 薄明かりの部屋で 小さく悲鳴をあげたような花

投稿者 つるぎ れい : 12:52 | コメント (0) | トラックバック

ノドボトケ

  ノドボトケ この世には 恋の歌が多すぎる あの世には ノドボトケが唄うコトノハ ひとつ だから君に 僕のノドボトケをあげる あの時、巻き戻したかった言葉も 現実に瞼を閉じて噛み砕いた真実も 裏切られたと早とちりして流した涙も 解りあえた二人だけの賛美歌も 全部全部ここに呑み込んであるから 僕に嘘をついて悔やんでいるなら この骨を少しかじって下さい 僕が言葉を発することが出来なくなっても このノドボトケには 君の欲しかった無声の僕が たくさん たくさん つまっています もし僕がいなくなって 哀しくなったり 淋しくなったりして 眠れない夜には ちょっと、かじり ちょっと、かじり してください 君は口下手な僕の本音をかじっては 笑っちゃうかも 呆れちゃうかも 驚いちゃうかも トキメいちゃうかも そして僕は 叱られちゃうかも この世には 恋の歌が多すぎる あの世には ノドボトケが唄うコトノハ ひとつ 流行歌(ハヤリヤマイ)の「愛してる」より 君と紡いだ「恋」ひとつ 誰かの彼女(あなた)になる君へ 残せる物は 喉仏(ノドボトケ)

投稿者 つるぎ れい : 12:38 | コメント (0) | トラックバック

ぬけがら

   ぬけがら 納屋の戸棚に 蝉の抜け殻をみつけてん 白くて透明やったから 多分ツクツクボウシやと 思うねん 昔な 授業中 先生の声が聞こえへんくらい 蝉が自己主張するのが 正直 うっとうしかってん でもな 今 蝉の声 あんまり聞かれへんようになったやろ なにが悪いんかようわからんけどな この抜け殻の蝉も 今日はもう 死どんのかと思たらな なんか私が  ぬけがらになってしもうたわ

投稿者 つるぎ れい : 12:35 | コメント (0) | トラックバック

    パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間も一人遊びをしている子供がいた。 台車にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。  どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。 「おばちゃん、コレ開けて。」  ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの丸いボールの蓋を開けてと言う。 「ありがとう。」  女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。  夕陽は傾きかけていた。 ‘‘この子の親はどうしているのだろう・・・。‘‘ そう考えていた時、それを見ていた私の母が、ふと 「あの子は強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」 と、呟いた。  その時、女の子の母親らしき人が 「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!!」 と、女の子の手を引っ張った。  その子は母親の大きなお腹をさすっては 「赤ちゃん、赤ちゃん。」 と、はしゃいだ。  どうやら母親は妊婦らしい。 そして換金所で働く母の話では、毎月二回、土曜日曜は、女の子は換金所の前で遊ぶ。 「孤独に強い子になる」  私の母の一言が、頭の中でリフレインする。  果たしてそうだろうか? 今度は赤ちゃんが産まれるというのに。 赤ちゃんが産まれたら、母親は姉になるその子の面倒まで見れるだろうか。 幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければいいのだけれど。  その子も淋しい。  私も何だかやるせない。  また、パチンコでしか満たされないその子の親すらも・・・。  いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。 夕陽はもう、すでに沈んでしまったというのに。  それでも少女は、自分にしかわからない唄を歌っている。 -------------------------------------------------------------------------------- 散文(批評随筆小説等) 唄 Copyright 為平 澪 2009-07-25 05:28:53縦  

投稿者 つるぎ れい : 12:30 | コメント (0) | トラックバック

ハンマー

ハンマー おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。  今日も親方に呼ばれて仕事をする。  扉を叩いて壊す。  瓦礫をトラックに積む。  そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。 「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」 「・・・・・・。」 「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。  ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」 「・・・・・。」 「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。 そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ・・・。」  おいらには難しいことはわからねえ。  今日も親方に言われたように仕事をする。  ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。 -------------------------------------------------------------------------------- 散文(批評随筆小説等) ハンマー Copyright 為平 澪 2009-07-25 06:03:30縦  

投稿者 つるぎ れい : 12:21 | コメント (0) | トラックバック