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2015年08月23日

手鏡

「誰も彼も 渡ってくれば良いのです」

遺影写真に並ぶ祖父と祖母と父の目が
私をじっと睨み続ける
肉体の私を憎み後頭部の私の影に 三寸釘を打ち付けて
今日も十字路に磔にする

置時計が打つ音の回数に 正比例して滅んで逝くモノを
彼らは愛し、悲しみ、慈しみ、喜捨しては又、連れ戻す

丸い朱塗りの手鏡に映った眼の白さに血走った怒り、
その一筋に託された遺影と同じ目線、物言わぬ企みが
剥き出しのまま 交差する

上目遣いに黒い太陽を滴らせ 私は両目に夜を飼う
眼球に凍れる月の球を忍ばせながら
赤い鏡に浮かび上がる、その御霊たち

眉の黒、髪の黒、
その、黒を渡る血のざわめきを拝みながら
黒く冷たい理由を宿して
鏡は夜を嘲笑う

投稿者 tukiyomi : 15:04 | コメント (0) | トラックバック

2015年08月15日

判定


ユニットバスの水平さの隅で 
私は猫の目になる前の棒っ切れ
コンドームたちの密会を
五秒の使用と三分で決定させる 
男と女の待ち合わせ

不在の子の存在を 赤い視線で映してみせても
喜んでくれる人より、しくじった、と、棄てられる先は
コンドームと同じゴミの中

  ナプキンやタンポンより役立たず
  コンドームみたいに便利じゃない
  のに、私を欲しがる、人たちは
  絶対零度の淋しさの、いち、より、
  不安と期待の二乗、を繰り広げ
  ドラックストアーで私を連れ去る

ユニットバスのの冷たさに 抗う私の体温が
世界の不在を 二分する

放置された暗闇で 血眼になってく赤い筋

見開いたままの猫の目が
都会の茂みを 裁きつづける

投稿者 tukiyomi : 20:28 | コメント (0) | トラックバック

2015年08月09日

看板と表札

大都会へ行けば行くほど大きな看板がある
当たり前だよね
こんなゴミゴミした場所で 目的地のホテルに行くには
デカイ看板でもないと無理

大きなホテル程 大きな看板が名乗りをあげて
そこでイベントや授賞式やインタビューやスピーチがありまして
来賓席に座る人の椅子には 名誉の看板がぶら下がる

その代名詞にあやかりたい人が
看板をペンキで塗り立てあげたり、拝んでみたり、磨いてみせたり、
色とりどりに色鮮やかに目立って光る

ネオンが虹色に変色する街で
見上げた巨大な看板にたくさんの「我」が飛んできて
くるくる回って貼り付きたがる

人の持っていない、人より大きな、人より特殊な看板を
背負って肝心の「表札」を無くした者もいるのに
夜のうわべを飾り続ける華やかな看板

グランドホテルの看板が これからどんなにきらびやかに大きくなっても
そこに自分の名前を一生刻んで住み続けることも
親の仏壇を背負い込むこともできないのに
エライ人は看板の作り方や経緯や光具合が肩書き文字が大好きで
何処からともなく看板の 大きさめがけてやって来る

看板の真下から伸びた影の指す先に崩壊していく私の家庭
日照権すら剥奪された暗くて黒い表札たち

私の家族や本名をよんでほしいといいながら
腐った蒲鉾板のような表札が
誰にも磨かれることもなく
私の帰りを独り待つ

投稿者 tukiyomi : 01:46 | コメント (0) | トラックバック