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2017年12月03日

何処

憧れる街は いつもディスプレイの中
モニターに入って人混みに紛れてみると
誰かの指で私はデジタル文字にされたり 欠けた映像として 
スクロールされておぼれて消える

明日の浮遊物が明後日の沈殿物になる街の
七十五日の話題を追いかけても 
答えは前後左右に散らばるだけの罠
現世を映す鏡を人差し指で弾く人の、揚げ足をとり
また人差し指が、はじく、はじく、また誰かを指す、その指
会話をなんとか縫合しようとしてみたら 
今度は親指で話題を葬るバーチャルリアリティー

  小さな古家に住んでいた祖母が言っていた言葉
  (阿弥陀さんが、みんな見とるから安心してここで暮らしたらええ

その「ここ」からとても遠い場所でぼんやり光る夜光虫は
おばあちゃんの鍬も鋤もどこにしまったか忘れてしまったし
さつまいもの植え方を教えてくれた父はもういない
私の鎌も錆び付き草刈りの仕方も忘れて畑は荒れ放題
ディスプレイから私を覗けば私は人の住めなくなった廃屋を
大切そうに見せびらかしながら歩いてた

街では成り上り者が虚勢の名を荒らげていく
そういうことを 一番嫌がっていたはずなのに
自分が成り上り者だと指を指される頃に気づく
街の見晴らしは とても高く、そして足元は脆かった
足下のマンホールから人の死臭を帯びた風がいつも噴き上げて
その臭いが 身に染みていくのが怖かった

ネオンは青から黄色、そして赤へと 空高く昇っていく
街は こんなに華やかなのに
人は こんなに賑やかなのに
今、この瞬間に「誰か友達いますか」と
問われると 黙って俯くことしかできない

   私はどこにいるんだろう
   どこに行けばいいんだろう
   これからどうすればいいんだろう

空騒ぎして明日になると宛も無くなる人と 
容易く乾杯して作り笑いを見せて別れてしまえば
私の手と手が真っ直ぐ私の首を絞めにきた

夕陽の沈まない街の、
夕日が沈んだり浮いたりして川に毎日捨てられる泥水の、
その、夕陽が残していくものだけは覚えていて胸は高鳴った
私の古臭い町にも同じ太陽が沈んでいる、と
思い出したら 赤い色が滲んで落ちた

   帰りたいのか、出て行きたいのか
   戻りたいのか、忘れたいのか

空いっぱい黄金色に広がる手のひらの、大きさ、厚さ、懐かしさ

はじめから孫悟空
私の手で掴めたものなど何もないと知ったとき
逃げても逃げても追いかけて正面から向き合ってくれた人と
真っ正直に沈むあの夕陽の町

みんながみんな居なくなった あばら家の
テーブルの上に置き去りにされた阿弥陀如来
今もそこで 私の何処を見てますか


※同人誌「NUE」寄稿原稿⑤

投稿者 tukiyomi : 22:07 | コメント (0) | トラックバック

おいてけぼり

都会に行けば田舎に帰りたいと泣き
田舎に帰れば都会が忘れられないという
両親と恋人を秤にかけるくらいの、
推し量れない淋しさと重さを見ていたら
安住の地は無くなった

量り売りが得意になった
誰かを乗せて何かを足して二で割る
計算が早くなった
白より黒を、黒よりグレーを選んでた
気が付けば スマートに生きたいと
望めば望むほど ブヨブヨに太った

夜になると どこからか漏れる声がして
誰かがイヤラシイことをしている声だと思っていた
夜、声のする階下の深い溝に目をやると
溝からお母さんの生首が ぱくぱくと
何かを言って泣いている

口から発するのは私の声で何か苦しそうに
訴え続けていた
お母さんの口からたくさんの私が出てくる度
お母さんが泣いている

怖くなって窓の扉を閉め
鍵をしてカーテンを閉じると
暗闇が私に襲いかかる

おいてけぼりに投げ捨てたものを
拾いに飛び込む勇気もなくて

振り返らずに今日を走り去ると
鬼がどこまでもついてくる


※同人誌NUE掲載原稿①

投稿者 tukiyomi : 21:58 | コメント (0) | トラックバック

2017年12月02日

家出娘

肉体の、
肉体の檻が邪魔だ
空間をよぎって その声は
いつも私を焦らせる

部屋を暗くして闇にうずくまる
部屋の心音と私の動悸が重なって
あらゆる、存在に理由を付けたがる私の思考が
膨大な情報を流し込み細胞から壊死させていく
追い詰められ逃げ場所をなくした私の、
吐く息の温度を奪い、呼吸が酸素を求めて 
外景の底を這いずり回る

薬はカプセルの中にしまわれているのが幸せ
   でも、薬を飲まなければ、あなたはあなたの激情で
   頭ごとあなたを、壊してしまうでしょう
      (私は囲われているものはみんな嫌い)

電車に運ばれていくときは一人が当たり前だったのに
二人だと容易く独り、になりきってしまう、この街の、
ありきたりの軽薄さに 慣れることはなかった
風に乗ることもできず、風をまとうこともなく、ただ、
風に飛ばされていく炎のようなモノたちを、
いつまでも大切そうに見送って
電車が来るたびに「自由になりたい」と小石をぶつけながら
踏切に、自分の遺体を何度も泣きながら置いた

愛することにも愛されることにも不慣れで 
懐疑的な頭から爪の先までを終おうとすると見えてしまう、
名前の付いた箱に入りきれないモノ、あるいは、
その箱の向こう側で息をしている、名付けられない世の名詞
見たこともない事実だけを尋ねて歩きたい

居心地のいいユートピアも、ほど遠い身で、 
リュックサックに大事そうに負ぶさっている
“自由に生きられないなら、死にたい”を、
取り出してしまえれば 
私はやっと 自分らしく迷えるだろうか

旅の途中で私を生かそうとしていた
ペットボトルの水や、カプセル薬を全部海に流してしまった
肉体という殻を脱して、この世に名のつく物よ、さらば
その果てにある、果てのないものの正体が
手を振って私を呼ぶのが見える

ただの家出娘
もう帰る家も器も持たない、
ただ、それだけのこと


(ファントム2号掲載原稿)

投稿者 tukiyomi : 23:52 | コメント (0) | トラックバック

師走に鬼

あなたがトマトといえばピザやパスタが出てくるのに
わたしがトマトといえば三割引の見切り品を
手渡されるのはなぜだろう

あなたがケーキと呼ぶだけでバースデーケーキが出てきて
わたしがケーキと言えば名前の無いカットケーキが登場し

あなたが鳥と言えば七面鳥の丸焼きがテーブルに並ぶのに
わたしは代わりにニワトリ小屋に行く

あなたの一万円を人々は褒めた
わたしの一万円を人々はクシャクシャで折れ曲りすぎだと貶す

人が又、人を喰らって生き延びる

人の値打ちを数える鬼が
師走に坊主を走らせて
人の隙間を見て嗤う

投稿者 tukiyomi : 23:43 | コメント (0) | トラックバック