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2013年09月29日

彼岸花の影法師

彼岸花と影法師


寂れた公園のブランコに
射し込む夕陽と 鱗雲

私を見下ろす背の高い
夜間ライトの点滅が
今年の夏に 終わりを告げる

夕暮れ迫るあの空に
向かう流星 帚星
飛行機雲に 願いを込めて
ブランコ 揺らして ゆれている

足の上がらなくなった母の
時計を止めようとしたがる父の
その終焉の空を視て 
滲んだ空は どんよりと
赤くなっては 水になる

父母の骨を焼く 空を
私は私の水で 消せたらと
過ぎゆく季節に 地団駄踏んで
強くブランコの 振り子をゆらす

どんなに抵抗してみても
追いつけないし 追い越せない
白髪になった彼岸花
夜露を零して 黒くなる

先に逝った黒い花弁の赤い花
冠燃やして手ぐすね引いて
ここまで、おいでと
父母を喚ぶ

夜道のような 影法師
冠 亡くした 彼岸花
やがて 闇に呑まれては
見えなくなって 溶けたまま

私が歩む獣道 家路で待ってた 白い猫
二匹は 足跡 足音も
無いまま帰る 古い家

りん、と 鳴った鈴の音は
夜道の影への 抗いと
知っていたのか 死人花

投稿者 つるぎ れい : 18:17 | コメント (0) | トラックバック

櫻狂(ハナクルヒ)

櫻狂(ハナクルヒ)


櫻(ハナ)に喚ばれたんだ、と少年(アナタ)は云った

 (一)
  春は宵櫻(バナ)
  漆黒の薄衣纏し少年は
  夜々に微熱を身に帯びて
  春の目覚めを恐れては
  右手に短刀 黒袈裟羽織り
  まほろばの櫻(ハナ)に春を見る
  櫻(ハナ)よ 華よ 心あらば
  我が身の卑しき早春の
  性(サガ)の時を御身に封じ給え
  されど我が身も男(オノコ)故
  今 一度(ひとたび)の憐憫を

 (二)

  否 我は老い櫻(バナ)
  もはや華の季節(トキ)は過ぎました
  妖しき言の葉薄紅の紅に宿して花弁舞う
  春を忘却に沈めた櫻に何のご用がございましょう
  吹く風に抗えば命を冥府に墜ちるでしょう
  黄泉路 開かぬうちにお帰りを
  人が櫻(ハナ)に狂うなど
  ましてや櫻(ハナ)が人に恋うなど


  (三)

  春は夜
  宵に酔い
  月が奏でる魂の旋律
  共する二つの影は赤裸々に
  深みに墜ちては昇りつめて濡れそぼる
  幽妙な舟底は雫に溢れ
  注がれる熱に鼓動は嘶き
  時空(トキ)を超えて滑り出す
  狂い櫻(バナ)と雄の四魂
  絡み合い墜ちては突き上げ
  奪い奪われ紅櫻
  死と再生を繰り返し
  櫻(ハナ)は満月
  月に咲く


  (四) 
  女の潮は男(オノコ)の精を巧みに操り
  尚 朱く 紅く天に向かう
  男子は聖域を犯したその手で
  小刀 ひとつ
  自らの心の臓を櫻(ハナ)に捧げて 来世の春を誓う
  
 【櫻狂(ハナグルヒ)恋し女(ひと)は華と為り
          来世の縁(えにし)を此処に結ばん】
  黄泉平坂
  禍事の
  良しも悪しも
  人知れずして
  恋と呼ぼうか妖しと云うか
  
只、 櫻(ハナ)に喚ばれたんだと、少年(アナタ)は云った…

投稿者 つるぎ れい : 02:31 | コメント (0) | トラックバック

2013年09月22日

墓標に名を彫る

墓標に名を彫る


どれほど
強い自己愛だけで
詩を綴るのか

紙が腐る程の
自分が吐く息
白いはずの紙は
黒く窒息していった
汗ばんでいく人間性

教室の裏側で 翻ったままで戻らない 答案用紙
あの夏 甲子園の決勝戦で
負けて歯を食いしばりながら
自分たちの夏の残骸を拾う野球児たち

たった一度のミスから
ファール球をキャッチ出来なくて
勝敗が決まったその青年は
一生涯をかけて
自分の骨を見つめて
暮らすのだ

ひと一人 生きるということは
全体の敗戦前で発狂しながら
個人として背負わなければならない未来の過失

体感の過ちは 
頭を責め 季節を凍らせたまま 
自分への墓標に
絶えず枯れた花束を 手向けること仕向ける

苦渋は辛酸と手を繋ぎ 笑顔を磔の刑にした
人の真夜中を垣間見た 詩人が
その光景を 描写しては 破り捨てる

 (歌えない夜に 笑っていない眼)

詩人の目は
いつも自分が まだ
ギリギリ 人であるかを知るため
墓にむけて 仲間の
文字を 刻んで
泣けるか泣けないか

  (人を見て 己の底を視る)

刻め 刻め
過去から続く
傷を引っ掻くように
強く 刻め
ファール球を落として
一生笑うことが出来なかった
青年の笑顔が
浮き出るまでに

お前が背負うべき
リスクの名前たちすら ファイルにして
生きた過ちをも 道連れに

人は 現世も 幽世も 
修羅を 逝く

投稿者 つるぎ れい : 23:24 | コメント (0) | トラックバック

2013年09月16日

海を抱く

海を抱く


あなたが こぼす一粒の海
その海の深さを私は知りたい
あなたが今 眠れないで
泣いているのではないか
赤子のように泣きじゃくる 私の男よ
不眠の闇に
あなたは 私のなきがらを
視たのではないか
暗い空から降る不安を 撒き散らしながら
私の在処を探して あなたは海を流す
 
 ここにいるわよ
 水に游がせた言葉で
 やさしさを染み込ませ 隙間をふさぐ
 追憶の果て
 あなたに幾人もの女人が手をさしのべては
 泥濘に突き落としただろうか

遠くで赤子の 夜泣きがきこえる
月のない夜
すてられた貝殻の 海鳴りのように
あなたが 私を呼ぶ
 
 波打ち際には雨に濡れたままの貝殻
 暗い空からうち捨てられた 夢
 誰もがひとりであって独りでないこと

私はそれらを拾い集めて 空へ帰す
広い 腕が欲しいのです

いつか目覚める 生まれたての
あなたを 游がせたくて
私は 両腕で 海を抱く

投稿者 つるぎ れい : 23:29 | コメント (0) | トラックバック

香水物語

香水物語



待つことのはじまりの香の名前には少女が似合うロリータ・レンピッカ

誘惑の呪文を纏う死の眠り夜の肌からヒクノテック・プアゾン

イブが摘む林檎の形硝子瓶アダムの喉に刺さった紫

赤い毒どんな夜をも眠らせる今宵も君が私を殺す

くちづけて抱いた夜から滑り出す恋を夢見て恋に憑かれて

この夜を越えたあなたは微笑んで振り向かないでサクレをふわり

待ちわびて待つことの意味の牢獄に囚われていた二人の蝶々

投稿者 つるぎ れい : 23:27 | コメント (0) | トラックバック

なみだが ことばに なってしまう
あなたが つぶやいた 一滴の海
そのいいわけを 海辺で さがす
あなたの 塩分が おんなの
いちばん しょっぱい所に しみる

 渇いた夜 私は貴方を 絞り続けた
 カラカラ鳴る 喉を切り裂いて
 溢れる赤い言葉を 待っていた
 受話器の向こうで さざ波が
 無言の大海を 游いだあと
 海の雫が 夜の頬に伝う

なみだが ことばに なってしまう
 残酷な仕返しで 私を水没させる声
 男と女の隙間から 零れてしまう塩水が
 海を名乗り お互いの クレバスを
 押し広げては 深みに堕ちる

(そこが最後の海溝ならば
 いつか必ず出て行かなければなりません)

なみだが・・・
 切り出せない サヨナラの 始まり
 貝の口に閉じ込めて 底から
 あぶくをひとつづつ 貴方に向かって
 ふかく 吐く

(ため息の住処に 
      コトバは居ましたか?)

思いつきしか 思いつけないくせに
思いがけない言葉が ひっかかったまま
夜の海辺で 彷徨う ふたり
 波に浚われ 夜に喰われて 
 未来のない夢 来ない朝
なみだが ことばを けしてゆく

投稿者 つるぎ れい : 23:24 | コメント (0) | トラックバック