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2015年07月27日

神隠し

西日のツンと熱さが刺さる土の上に
父の遺骨は 埋められた
真新しい俗名の墓石は それぞれの線香の煙に巻かれながら
親族が帰るまで夕暮れの空を 独りで支えなければ 誰一人として
家に帰ることは出来なかっただろう

役所からもらうたくさんの紙に 父の名は散らばり刻まれ転がされた
間違えられた「父」や「本人」という文字は シュレッダーにかけられ殺された
名前の欠片が灰のように飛ばされながら 塵のように「父」の影だけ残していく

完成書類に捺印が押され紙切れに命を吹き込まれると
ファイルたちが「父」を平らなケースに寝かせて処理する
紙切れは死んだ父の変わりに甦り「生存給付金のおしらせ」として
父のような顔をして家にやってきた

多くの書類、封入された御仏前の抜け殻、法事の残りの熨斗紙
区役所たち死んで尚、父を管理しては紙幣で買い取り
手から手へと取り引きしながら橋渡し

   (施設も、付き合いも、契約内容も、法律も、
   (知ったもん勝ち、使ったもん勝ちなんだよ、
   (しっかり読みなよ、自治区の広報。

赤いA4ファイルの回覧が怒鳴りながら
ほとんど毎日出歩きまわる

挟み込まれた広報便りを 老眼鏡でも読めない母が
広報に丸め込まれて潰される

重要箇所の小文字の隙間 煙に巻かれて挟まれて
神隠しにでもあったのか 母が回覧板を持ったまま
出て行ったきり 家にも帰って来やしない

投稿者 tukiyomi : 22:45 | コメント (0) | トラックバック

2015年07月23日

使い捨てカメラ

想いを切り刻んで 記憶は泣く
スマートホンもデジタルカメラも 人の目に映らなかった頃
思い出を自販機で買い取った彼女の空は
空白のまま歳月を渡る
数年前傍にいたはずの笑顔は カラカラに干からびて
空へ昇っていった

(そんなにも性急に誰と瞬間を接続させたかったのだろう)

データに残らない【 写るんです】が、
枕の上で仰向けになったまま レンズで西日を追っている

その場かぎりの衝動を はした金で買われながら
文明の利器に 流され、流され、利用され、
簡単に 消耗されてきた女

白内障の眼が捉えているのは
青臭い映像の中の春の陽射し

光が眩しすぎると、陰は濃くなるものだ、
誰にともなく 呟くと
母は自分の世界に 瞼を閉じた

投稿者 tukiyomi : 22:42 | コメント (0) | トラックバック

2015年07月18日

けむる、浄化

ナニ、か、腐った臭いが立ち込める部屋で、老女が横たわっている。毎日堆く詰まれていくソレらに、埋もれて隠れたモノ。老女が自分の背中のジョクソウと、タオルケットとの間に挟み込んだモノ、が生きたまま腐ってゆく。

仏壇の前で吐き出され押し潰されたティシュが、丸み込んだ独り言をナイロン袋に一つずつ詰め込んで、口元を縛り上げて声を密封する、それが私の役割。今日も愚痴をこぼしたと指先に絡みつくヨダレがニィーと垂れて、私は真ん中から押し殺した叫び声や呻き声を取り出しては、ナイロン袋に詰めて静かにさせる。

光りの射さない仏間と客間を仕切る一枚の白い襖、その溝口から滔滔と流れ出す河で、老女は毎日頭を洗っていた。たくさんんの淡い虹色をした映像や透けるようなセピア色の写真が、流されていき白紙に戻る。消滅していく写真の人物は泡のように弾けながら、蚊取り線香の火が消えていく温度の熱さと速度、命を静かに殺して燻る煙の曖昧さにも似て。

客間から手を伸ばせば届く背中をむけたままの女、彼女のカタチが私の母であろうとする姿に変わりはなく、当の昔に張り巡らされたしつけ糸たちは私の手足を所有し、結び目を何箇所も設えていた。
(いつまでも母でいたい女、でなければ自尊心も生きる価値も見出せない女。「お前は私の背負う十字架だ」と悲しそうな眼で、私を見下し私を蔑み、私を嘲り私を見下ろす女。母であり祖母であり、姑にまでなろうとする女。そして今夜もおそらく河で頭を洗うであろう、鉛色の六角形鉛筆の芯の眼をした女。

私はいつまでたってもひとりで一つの向日葵を咲かせることが出来ない。ここが駄目、あそこが違う、雄弁な叱責は、伸ばそうとした足先をスコップで根こそぎ切り刻み、掘り返され、私は項垂れたまま枯れるしかなかった。
俯いた顔から黒い「かなしみ」を落としても、発芽することなく鋭利な母の息吹に凍て付き根絶やしにされた。干からび萎びた私は、晩夏の太陽に見世物にされ干されたまま腐ってゆく。

今夜、仕切り襖の溝に、流れる河へ飛び込もう 。
明日は確か燃えるゴミの日。青いナイロン袋にくるまれた、白いティシュ、黄ばんだ指先三百六十五本×2と、金切り声や愚痴った後のヨダレたち、そして私のようなアタシ、流れ着きましたか、お母さん。


ナニか腐った臭いが立ち込める部屋で老女がジョクソウとタオルケットの間に忍ばせた枯れた向日葵とナイロン袋、それらを枕元に飾ると安心したように私の名を呼ぶ。
私は今夜も母の頭の中で、まき戻されては、綺麗に再生されてゆく。

投稿者 tukiyomi : 22:08 | コメント (0) | トラックバック

It格差。

パソコンのシステム用語の七並べ これ読めますか これ読めますか

独りでも楽しみ方なら知ってます不正アプリの読書コーナー

ネットすら関係なしに生きてます母の身元は世界でシェア

あなたの保険証売ってますスマートフォンの検索エンジン

父が死に葬儀屋ギフト屋駆けつけて四十九日に表札屋がきて

ツィッターお馴染みさんがひとりごと 呟いたなら直ぐお気に入り

誰も喋らない山手線の昼間に乗り込むスマートフォン

マルウェアがシカクになって入り込む大枚叩いて滅んだパソコン

IDで管理される私たち 名前で呼んで名前を呼んで

ガラケーのメール送信出来ぬ母みて高校生が(笑)を送信

かくれんぼオフィス街の地下に鬼 路地裏にも目隠しがない

今日のあなたを同期する くるくるまわって同調意識

見つけたものを独り占めに出来ない共有はいつの間にかの今日の優越

パソコンのIを叩く指一つ デリートされる愛と愛

データが消えてしまえば泣く人と喜ぶ人の喋る写真

筒抜けです タダ漏れです ウィルスないのに裸の王様

投稿者 tukiyomi : 21:57 | コメント (0) | トラックバック

2015年07月07日

暮らし

手垢にまみれたコトバたちを 洗濯機に放り投げて洗い流す
駅前で叫んでいた主義主張たちを アイスノンにして頭で溶かす
空っぽの冷蔵庫から 私が居そうな卵を見受けて目玉焼きにする
フライパンから世界を覗き見すると また油にまみれ濁りが取れない
自分のかいた汗と涙の責任を シャワーの前でひざまつき懺悔しても
枕はリアルな夢しか語らない

時計の針は心臓をどんどん突き刺しながら 暗闇で零れる赤を撒き散らし
空の光は雄たけびをあげ続け 煩悩を数にして朝を呼ぶ

抜け殻になって脱皮した自分の皮を 朝一番でゴミ袋に詰め
炊飯ジャーから 眠気と食い気と色気をかき混ぜて五臓六腑に流し込むと
白い靴が黒い靴になるまででていけ、とアパートから不在証明を言い渡される

投稿者 tukiyomi : 23:33 | コメント (0) | トラックバック