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2014年06月05日

淋しい傷口

ほっといてくれという淋しさの記号と
かまって欲しいという悲しさのベクトルが
イコールする東京の中央線の真ん中で

指先と指先で心中したかったのに

大阪に持って帰ったのは
あかぎれた人差し指だけの傷

昼間を走る新幹線と
夜間を走る高速バスに
向き合う二人の私

真昼の月に梟が
夜目を光らせて
双頭の月を眺めていた

人差し指の赤い切り口に
雪の白さが染みる夜
こんな日に
私は
黙って産まれてしまったのだ

母の途切れる寝息と
白内障の猫の瞳に
責めらて
都会の痛みを抱いたまま
真っ直ぐ
あなたと指だけつないで
どこまでも揺れて
逝きたかったのに

私は また
もう一つの朝日の前で
乾いた血を舐めては
濡れた顔のまま 空を見上げる


抒情文芸 151 夏号

清水哲夫 選    選評有

投稿者 tukiyomi : 09:19 | コメント (0) | トラックバック