« 2011年11月 | メイン | 2012年01月 »

2011年12月31日

新たな一字

新たな一字


今年がゆっくりと
重い荷物を背負って
通り過ぎてゆく

裾の長いコートを
年の瀬に引っ張るような
未練の風に吹かれたが
あなた方が繋いでくれた
手のひらを握りしめていたら
コートに隠れていた
新年が
私のセーターの胸元から
今年の抱負を連れてきた

あぁ
なんと書こう
この偉大なる
手のひらのぬくもりを

この
未来につながる
夜明け前の
一文字を

投稿者 つるぎ れい : 13:21 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月29日

夜想

夜想


茅の外には蟋蟀がか細い音を
隅々に通わせていた
それは月光に曝された
虫の息

薄明るい十六夜
夜のかたまりが路の端へ流れながら
蒼白く行進してゆく

三叉路の標識に引っかかった
亡霊の衣擦れ
地蔵堂の扉が開いて鬼ごっこ

静かな月祭り
音も無く聞こえる笙の笛
皆を幽谷へ誘う
笙の笛

石を穿つ決意の哀しみは
黄泉路を振り返った
刹那に零した二人の
【あ】の火

無明の眠りから
何かがフッと囁いて二人の
【あ】の火が消え果てる

あるべきものが
在るべき国に還るのだ

おやすみなさい
胸の空洞から念仏が聞こえる

投稿者 つるぎ れい : 21:54 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月17日

祈り

祈り


祈り
この細い道のりの
向こう側に
待っているひと

祈り
独りぼっちの部屋で
呟くような
口笛

祈り
一筋の頬を伝う
あなたへの
花咲く涙

遠くに見えた光
君からもらった
生きる言葉

祈り
ともすれば
誰かが
飛ばした
白紙の紙飛行機

(叙情文芸141号佳作作品)

投稿者 つるぎ れい : 18:08 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月15日

詩集がみつからない

詩集が見つからない


君にあげる詩集が見つからない
私の陳腐な言葉じゃ間に合わない
下手なメタファじゃ
真心が独りよがりの余所の国

君の心の隙間に
じわじわと染み込むような
君の鋳型にピッタリ当てはまるような
思わず笑ってくれるような
忽ち愛(かな)しく泣きだすような
文字を探す 探す 探す 探す

何年もかけた秘蔵書に 収集した本棚は
君に想いを告げられない

投稿者 つるぎ れい : 00:43 | コメント (0) | トラックバック

戸惑い

戸惑い


戸惑い


蒼白い氷雨針
冷めた囲い人の焔
ながされ たゆたう
小さな情熱
唇のような赤などいらないから
小さな棘をひとつだけください
あの人の胸に
小さく刺さるだけの
揺らめきを

投稿者 つるぎ れい : 00:29 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月04日

恋愛ごっこ

恋愛ごっこ


さっぱりと切った髪を弄っては軽くなった過去にサヨナラ


手折られる花一輪の哀しみを抱いてふるえる冬の陽光


ねぇ夏美 恋って冬至を越えれるの 試して傷を幾つ数えた


初霜に蝕まれゆく花びらのようなあなたの心がみたい


この指輪あなたが噛んだ歯形です今は見知らぬ誰かの傷痕


固いなら約束なんていらないのふるえる指が欲しがるリング


哀しみを重ね塗りする悪戯を教えて重ねた罪木を崩し


囲まれた四角い部屋はいつも夜朝を遮る白い錠剤


寒空に心ひとつ置き去りに透明に濁る君への想い


愛してはいけない人と知りながら背伸びした分キスして欲しい


目を閉じて独りの夜を閉じこめる瞼は火照る君を想えば

投稿者 つるぎ れい : 21:59 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月01日

ハンマー

ハンマー


おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。
 今日も親方に呼ばれて仕事をする。
 扉を叩いて壊す。
 瓦礫をトラックに積む。

 そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。
「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」
「・・・・・・。」
「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。
 ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」
「・・・・・。」
「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。
そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ。」
「・・・・・。」
「ねえ、ここにもいつか知らない家族が越してくるんだよね。・・・・新しい家が…建つ日がくるんでしょうね・・・。」

 おいらには難しいことはわからねえ。
 今日も親方に言われたように仕事をする。
 ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。
    


※(詩と思想新人賞、第一次選考通過作品)

投稿者 つるぎ れい : 18:58 | コメント (0) | トラックバック