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2018年08月18日

彼岸と語る

耳の隙間から浸水してきた水圧に
古家と私の身体はただ錆びついて
歯車の音は止む

薄暗い仏壇に薄寒い軽薄が漂い
手を合わせる家族を失った遺族たち

残された者と取り残された者の会話は
姑と小姑その娘という憎しみの砦を越えて
「実家」を再現する幼年時代の話題は
齢(よわい)八十を超えた者の
記憶の中でしか遊び場を知らず
また その先の逝き場を覚悟させる

幼馴染みが何人渡っていったのだろう
(病気で、異郷で、突然死で、独りで
(なんの、知らせもなく

何食わぬ顔で向かえていた明日に
二本足で立てない未来が待ち受ける
((年は取りたくないもんだ…

緑茶すら啜らず紅茶も飲まず
湯気を立てているものすべてが
冷めてしまったことを私たちは語り合った

凍てつく外界の降りしきる雨に身体を濡らし
実家を後にする叔母の物静かな世間話が
背中に長い独りを見せつける

隣の襖から香るお線香とひしゃげた蝋燭の炎
何人分もの灯火が風雨の強弱に煽られながら
梁の上を越えて昇っていく

私の持つ小さな火も知らず燃え尽き
煙は天井を燻し続けていくだろう

この家の天井に燻りつづけ いつしか
シミのような 大きな黒い顔をして

(buoy掲載原稿)

投稿者 tukiyomi : 22:18 | コメント (0) | トラックバック

あかんたれの国

あかんたれや、くらい
ゆわしたれや。
おれ、あかんたれやから、くらいの
コトバ ひとつ。

死にたい、死にたい、ゆうて
生きとる。
ゆうたらあかん、おもて
ゆうてしまう、
「死にたい」が
毎日。毎日。。

おれ、あかんたれねん、と
ゆわれへん国では
死にたい、や
殺してやりたい、が
あふれて 首くくったり首絞めたり。
(誰かを悪者にな、負け犬の国)

「あかんたれ」の コトバひとつ、
軽く笑いとばしたれや。
あかんたれで 生きられるなら
あかんたれで 明日も熱くなれるなら
もう 誰も責めんですむやん。

   コトバひとつ まちごうて
   コトバひとつ つうじのうて
   いっぱい人が 死によった

じぶんのコト あかんたれや、ゆう人を
嗤う、あんたれねん、と、ゆわれん人が
いっつも 鉄砲もって 攻めてくる。

あかんたれの国を滅ぼして 
エライ国になって
あかんたれらを閉じ込めて殺していく。
   
   (そのほうが あかんやろ
   (そのほうが えらないやろ

じぶんのコト
「あかんたれやった」ゆうて 
黙ってしもうたお父ちゃん、
お母ちゃんは泣きよったけど 
お父ちゃんは カッコよかった。

その遺言のつづきみたいに 
私はあかんたれの 詩ィ書きよる。

あかんたれの国に 生まれて
あかんたれの家で 育って
毎日
死にたい、死にたい、ゆうて
生きとる。

ほんま、
迷惑な話やでェ。

(bouy掲載原稿)

投稿者 tukiyomi : 22:13 | コメント (0) | トラックバック