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2012年05月29日

斜景

斜景


車椅子は後ろ向きに並び
待合室から掲示板を覗くギョロ目たち
黒鞄の中身は駆け引きと
すれ違う人の胸にはピアスホール

私は泳ぐように歩む
傾いた首で傾いた顔色を伺いながら
俯く病巣の中に
見えない手すりを求めながら

(ジストニアによるケイセイシャケイ。ストレスによるものですね。二年で完治する極稀な人もいますがあなたの場合はおそらく…)

容易く吐露する主治医のサラリーな一声が
耳に残響して早三年
私の見る 人も景色も
斜めに映ったまま陰を沈める

車椅子同士の笑い声に
待合室のいらだち
黒い革靴たちは早歩き
すれ違う人の
異質な私への疑問符は
白いマスクでシャットアウト

私の横目から溢れ出る
情緒不安定な雫たち
斜めに落ちて
いつも 誰かに踏みつけられていく

窓際で
傾いた頬にほおづえついて
睨んだ夕陽さえ
斜めに暮れてゆく


 詩と思想六月号入選作品

投稿者 つるぎ れい : 15:13 | コメント (0) | トラックバック

五月

五月


失った若草色の
色鉛筆を探して
新緑の森を過ぎ去る
透明な風
慌ただしい太陽が
恥ずかしがりながら
月に隠れた一瞬
瞬きもせずに
光った空の詩

投稿者 つるぎ れい : 14:46 | コメント (0) | トラックバック

2012年05月22日

涙の後始末

涙の後始末


涙の後始末

悔しいことも
理不尽な扱いも
みんな溜め込んで
吐き出すことが出来ない

泣いていいよ
話すことは
放すことだからね

でも
鋼鉄の口からは
無言の悲鳴が
響くだけ

投稿者 つるぎ れい : 17:46 | コメント (0) | トラックバック

禁色

禁色


禁色


白いあなたを
私が神仏の前で堕落せたのだ
私の中に潜む
楽園を追い出された
蛇が
あなたを絞り上げた

零れたあなたの
白い羽の残骸が
私の身体を汚すように浄める

あなたに授けた
獣が片時も
業火の中で
吼える

あの時
強引に
塞いだのは
まっすぐに泣く
あなたの
「愛しています」

きっと
それを聴くと
私は泣いてしまう
自分が
女であると気づいてしまう

あなたを
飼い殺しにして
置き去りにする
自分に

あぁ、
雷がなる
神鳴りが聞こえる
二人の声を燃やすように

投稿者 つるぎ れい : 17:42 | コメント (0) | トラックバック

2012年05月12日

バイバイ。人差し指

バイバイ。人差し指


怖いんです
すべての人の手にある
人差し指
怖くて怖くて堪らない

私に与えられた
時計の針を
時計回りに
人差し指でぐるぐる回す

すると
人差し指が私の胸を刺す
人差し指が私に向けられ
笑い出す

怖いんです
人差し指
生きていくのに
邪魔な人差し指
今日
切り落としました

誰も笑わなくなった
四本の指の世界に
くるまって
今度目覚めるとき
時計は
止まったまま
朝を告げない

バイバイ
人差し指の悪夢

おやすみ

投稿者 つるぎ れい : 16:58 | コメント (0) | トラックバック

夜に落ちる

夜に落ちる


朝日が
沈んでくれないかな
と 思う日に限って
夜に落ちる

たとえば
昨日の誕生日ケーキの
蝋燭の火を
誰かに明け渡すような
老木の哀しみを
新木に知らしめるような
リレー始まっている


私が脱皮したぬけがらを

自分で見なければならない
朝日の角度は鋭角で
目眩をおこす

歪な風に吹かれながら
とぼとぼと
蛻の殻になって
捻れながら歩む私の道のりの
背後からは
夜がしたり顔

朝日が沈んでくれないかな

言わんばかりに

投稿者 つるぎ れい : 16:55 | コメント (0) | トラックバック

【再生/呼吸をするように】

【再生/呼吸をするように】


天と地の狭間で
射し込む光と
砂塵に帰す闇

光は高らかに産声を
あげて号令をかけ
闇は忘却の能力に支配されて
いつしか大地に身を任す

森は沈黙を守りながら
命の営みを呼吸し

ただひとつの例外もなく
目覚める者と
眠りにつく者を
代わる代わる
再生させてゆく

まるで
地球がひとつ
宇宙に
提案したかのように

投稿者 つるぎ れい : 16:53 | コメント (0) | トラックバック

抹茶とプリン

抹茶とプリン


抹茶とプリン


少し渋めだけど
憎めない甘さで
ふるえつづける
プリンを
少しずつ優しい
新緑の言葉で
染め上げるから
私たち
ちょいどいい
柔らかさにくるまれて
午後のスプーンに
救われてしまう

温かい眼差しに
溶け出した汗は
滑り出した恋の味わい

投稿者 つるぎ れい : 16:49 | コメント (0) | トラックバック