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2013年10月13日

淋しい充電器

淋しい充電器


一万円札だけの旅
一万円札だけの価値
自分の電池が切れるまで 歩く
チャリチャリとポケットに詰め込んだ
値打ちを確かめて 入ってゆくのは暗い路地
贅沢な焼き豚丼で 電池をチャージ
心配してくれない親は
感情電池を切断したままだ
帰りたいのに帰れない日に限って
丼屋のBGMは フル回転で
前頭葉に染み渡る、から
聞いたような口を開いて 私に涙を伝達する
店から外部への接触はシャッターの隙間から
オレンジ色に光る 街角娘をシャットアウト

斜め上の高級レストランの三階から 
白く輝く白熱灯
見下ろしていたのは 大雨の中
赤黒い泥としみに感電した
ネットカフェの看板持ち

私は歩く 
黒い服を着込んで
背中は 停電したままで
来たことも無い暗い道
でも いつか身を屈めて辿った
苦しい産道の指示表示のネオンに向かって
一本道のアーケード街の光を 目指す

私がエコーで 私の内部を見つめるように
私が心電図で 息をしていることが
ばれないように 
停電したまま停滞を続けて 這っていく

 人間は大声を出して働く
 電池が切れるまで
 ネオンの色はすぐ変わる
 見失うための目くらませ

スクランブル交差点から 
はみ出したいと 強く思った
信号が赤になったら
一目散に 走り抜けたいと思った
路地裏はそんな暗い跳躍力で 点滅していた

移りゆく景色を電線に阻まれ此処に来るまでに
何度更新をかけても 電波は届かなかった
誰でもない誰かである 宛もないメールが
ひとこと 欲しかったのだ
夕暮れが赤黒く胸にこみ上げるように
すれ違った人の 笑顔や言葉が響き渡って
私の内を 交信して 消えることは無い

真っ黒い個室の充電器からは 
人が流す血のむくみが感じる赤が
充電中の表示と共に 滲んで落ちて
私の夜が 赤く零れたまま 掬えない

投稿者 つるぎ れい : 2013年10月13日 08:12

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