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2019年12月07日

車椅子

地元の植物園で菊花展が開催される頃
入園入口にある車椅子を借りると
母を乗せて湖畔に広がる花々や温室の中を歩き回った

昔、母は祖母を乗せて車椅子を押した
ひと昔前母は 私を乳母車に乗せて
そして泣きだせば 抱いたり負ぶって
この巨大な植物園を歩いた

秋といえど まだ日差しは強く
工事されていないデコボコ道もある
多くのカップルが行き過ぎ 老夫婦が通り過ぎ
工事現場のダンプカーを避けながら
車椅子を押し続けた

私の荷物を胸に抱えて
車椅子から喋っていた母の声が 
だんだん小さくなり 聞こえなくなり
ポプラ並木の紅葉は見えなくなり
裸木や寝そべった枯れすすきを横目にしながら
薄暗い椿の森へと入っていく

車椅子は重くなる
荷物を抱えている母を押しながら
一歩、一歩、と 足を
前に出さなければ進めない苛立ちを踏みしめながら
押し車のグリップに圧し掛かる手のひらの強張りに
肩を震わせながら 前へ、前へと、そして 前には、
坂道、坂道、そしてまた デコボコの坂道

私が車椅子に乗せている人は誰だろう
そして 運んでいるものは何だろう

対岸の入口の傍に菊花展の菊の花が 黄色く灯る
白菊の花の灯りもぼんやり見える

紫や白の緞帳の中に飾られた
菊花を見に来る行列に紛れて
車椅子を押す女が見える

投稿者 tukiyomi : 2019年12月07日 22:13

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