« ぞう | メイン | めんどくさいテレビ »

2019年12月07日

駅前の信号の青の中を
ホテルの前で屯する入り女の白い手招きを
ビジネスマンの眼鏡の先を
赤いジャンパーの男のポケットの音を
渡り歩いて辿り着く エビス屋のテーブル席

器に盛られたカルパッチョの鯛は
もう捌かれて 目はないのだけど
私がどこを潜り抜けてやってきたのか
一目瞭然で 身体を開いていた

ラテン系の音楽、弾む弦楽器、
その店から流れる音色は 筒抜けに明るく
心労が祟ってイライラしている、
タクシーの運転手のハンドル捌きさえ
リズミカルで陽気にみせる

会話は店内から外界に賑やかに溢れ
テラスの恋人たちは
カラフルなビールで乾杯して
二人の祝日に グラスを傾ける

けれど
赤信号で突っ立たままの歩行者の眼を
ホテルに入れてもらえないまま路地裏に消えた女の顔を
パソコンのディスプレイに取り込まれて点滅しているビジネスマンを
そして
どんどん大声になっていく 赤いジャンパーの男の
膨らんだケットの中のモノのことを
思い浮かべて目を瞑れば
はぐらかしていたものに おいかけられて
サイレンの音は鳴り響く
   (病院に運ばれるのだろうか
   (警察署に行くのだろうか

否、おそらく
目のない 開かれたままの鯛と同じ方角へ…。

賑やかだったエビス屋のラテン音楽は店じまい
華やかだった色を浮かべたあのグラスたちでさえ
他人の顔をして 吊り下げられる

騒がしい喧騒の街を 
巨大な手をした夜が
旅に出た者たちを
ことごとく 片づけていく


(ファントム4号執筆原稿)

投稿者 tukiyomi : 2019年12月07日 22:03

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
https://www.a-happy.jp/blog/mt-tb.cgi/14254

コメント

コメントしてください




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)