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2018年07月28日

鍵っ子

両親から持たされて鞄の奥に仕舞っていた
親の言いつけだったのか
知り合いの噂話だったのか
人目には触れさせなかった、その鍵。

納戸の勝手口には突っ張り棒がしてあり
玄関口は内側からしか開けられない
何のための鍵であったかわからなかったが
この家の一番奥の仏壇の前の床の間へ
行くものだったのか
あるいは その手前の一人きりしか入れない
狭い部屋に続くものだったのか

わからない、鍵。

私は親の言いつけを守る子だった
バスが決められた時刻に決められた場所を
通過していくような
電車がスピードを落とすことなく目的地を
目指すような
両親と私をつなぐ鍵付きの私を私は守った

でも、鍵。

母親との言い争いで飛び出した夜に
私が鍵を守っていることを知った人が現れて
その人と鍵の交換をしてしまう
私が手渡してしまった、その鍵。

その人は深夜に私の家に入り込んで
土間を渡り 次々と襖を開けていき
仏壇の横で泣いている私を見つけると
手をつないで行ってしまった

その人が何を言ったのか思い出せないのだが
人の話によれば
私はもう鍵っ子ではないという
         *
私はその日以来
納戸の勝手口に突っ張り棒をして
自分で玄関口の内側に立ち 
その手で錠をおろす
仏壇の床の間に行くまでの道順を
学校で暗唱し
電気の灯らない黒い狭い部屋で
白い骨と向き合い
誰とも本音で話すことができない、人の鍵。

飛び出したのか、それとも入っているのか
わからない家と鍵のことばかり気にしながら
両親の知る私に戻るため
夕暮れの坂道を どこまでも どこまでも
うつむきながら 黙って歩く

投稿者 tukiyomi : 2018年07月28日 20:20

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