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2013年02月13日


盛る、ためではなく
抱える、ための
飾る、だけでなく
魅せられる、だけの
器。

質素で
小さく
柄もなく

高級レストランなんかに並べられたら
灰皿にされてしまうような 私の器
その煙草の煙から臭いを かぎ分け
多くの人たちが含んだ唾液を 進んで含み
吐き出された言葉を 呑み込み
呑み込んだ沈黙から 学び
より深く 底を押し広げる 私の器

 私が釜飯屋の弁当箱だった時代
 下町のおかみさんの人情話が
 おちゃらけた色で詰められた

 私が旅館の分厚いガラス皿だった時代
 少し背伸びしたおじさんの
 忘年会のよもやま話と馬刺しをのせて
 テーブルに運ばれた

 私が都会で灰皿だった時代
 薄汚く罵られ 火を押しつけられた
 時には亡骸になった灰に 
 夜 涙を流す人もいた

人と人との間に置かれる 私の器
呼吸を 数えるだけで
視線を 感じ取るだけで
温度や距離を 計れるような
愚痴を受け入れ ほろり涙を受け止め
空っぽで 綺麗にしておいて
いつでも人に 使って貰えるように
身の丈に合う大きさで
せっかちと おせっかいを 繰り返し
赤恥だらけで 赤茶けた 私の器

盛る、ためではなく
抱える、ための
飾る、だけでなく
魅せられる、だけの

やがては
人ひとりの人生を背負えるだけの
そして いつの間にか
月日に 優しく欠けて逝くような
器の私。

投稿者 つるぎ れい : 2013年02月13日 22:13

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