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2022年04月21日

橋の上

橋の上から下を見る人、上る人と下る人
いちにち、は時計どおりに進むが
いちにち、を今から始める人と終えた人が
橋を境に上下する

お疲れ様に向かう白や黒に乗車した人と
夜が戦場だとピンヒールで纏め上がった
黒いベロアのロングコートと赤すぎる唇たちと ── 。

いちにち、の行方も知らず、
突き進む人と尻込みする人、そのあわいで
シフトの調整メモとタイムカードが記憶する濃いインク
クリスマスソングに踊らされながら 動く人と休む人

橋の上で下を見つめる人と 下から上を見つめる人と
いのちは同じでも いちにち、は其々にたそがれていく

マスクは夜をたどる人の口を塞いでいく
目に見えるものが全てではない事はすでに語られていて
いちにち、について全てを語れる人もいない

時計回りの時間とわたしが途方に暮れている
橋の上から飛び込めば何もかも止めることができる、
かもしれない、など 頭をよぎって背中を笑う

橋に居並ぶたくさんのわたしが背後に押し寄せていて
下を見ながら楽になりたいと舵取りにつかれ
バランスを崩し 足を左に踏み外す

踏み外した足、より速く
止まらない救急車に乗せられ
いのちを病院で逆走させようと
いちにち、の行方をおしはかる

いのちを計ろうとして 失敗した腕時計は外され
マスクの必要もなくなった わたしが
何か言いたげな目を上に向けたまま
閉めることができない口を ポカンとあけて
橋の上を歩いていく 

*「詩と思想3月号掲載原稿」

投稿者 tukiyomi : 03:37 | コメント (0) | トラックバック

らくがき

からだに イヌと かかれた日
はだかで わんわん 泣いていた
そとに でるときは 四つん這い
イヌでは ないが 犬だった

からだに ブタと かかれた日
もっと なけよ、と 笑われて
なくに 啼けずに 哭いていた
ブタの ように 生まれて いたなら
もっと たやすく 啼けたのに

たにんの かいた らくがきが
どんどん ふくらみ こうしんして
からだじゅうを のろいに かける

それが たのしい だれかも いて
とてつもない もじたちが
ヒトを ジュモンに かけていく

わたしの からだに かく ばしょが
きのうで すっかり なくなった
ビルの たにまに ヒトの カタチが
しろい チョークで らくがき された

   わたし、
    (やっぱり ヒトだった
   すべて、
    (しっかり ヒトだった

       *

あすは だれが ターゲット
アシタハ ダレカヲ ターゲット


*「ファントム5号掲載原稿」

投稿者 tukiyomi : 03:08 | コメント (0) | トラックバック

わたし

右手は清いが左手は汚い。汚れた手なら切り落としてしまえ。
右目が見えるものを左目は見えない。見えない目なら節穴も同然。
左足が前に進むと右足は退く。使えない足なら切り捨ててしまえ。
右肩が上がるなら左肩は下がる。頭が平衡に保てない肩書なら潰してしまえ。
口に出してはいけないことを口にする。そんな素直な心は壊してしまえ。
すべては体が資本。器だけ残ればいい。

   右手が左手を抑えつけ
   右目が開くと左目は閉じる。
   左足が右足を踏みつけて
   右肩の意見に左肩は従い続ける。
   口はとうとうゲロを吐き
   心はどんどん遠ざかる。

右手を切り捨て左目をくり抜き右足を失って
バランスの定まらない視界を口にする頭に
もはや涙は宿らない。

カラダだけが累々と行進していく茫漠の土地で
イタイの群れを横目に通り過ぎ
先程、遠目に見送ったのは
一体、誰。


*「ファントム5号掲載原稿」

投稿者 tukiyomi : 03:05 | コメント (0) | トラックバック