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2011年08月29日

晩夏をゆく(小詩 四編)

晩夏をゆく  (小詩 四編)


【晩夏】

線香花火は湿って
微熱は褪せてゆく
なのに
鼓膜から
蝉時雨が
鳴きやまない夜

【立秋】

まだこない手紙を
待つような
忘れた人から
ひょこり
電話がくるような
女の第六感が
少しずつ
紅葉するような

【彼岸過ぎ】

あの人たちは
ちゃんと
往けただろうか
燃えるような
彼岸花の合間を

【故郷】

ここ以外
どこにふるさとが
あるのだろう
桐の箱には
干からびた
私のへその緒

投稿者 つるぎ れい : 23:35 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月28日

妄想不夜城

妄想不夜城


花が咲くのは昼などと
決めてしまったのは誰ですか

月下美人は夜に咲く
恍惚を匂わせて
激情に小さく悲鳴をあげた

私の城は月の城
深夜に浮かぶ月光花
欠けたり満ちたり消えたりの
たどり着けない蜃気楼

花は静寂に覚醒し
不眠の芳香を放ちつつ
瞼をあけたまま夢を見る

今宵限り花は狂人(くるびと)
紗をもがれるように
薄い粘膜に誰かが痕をつていく
零れた夜露に花が泣く

次から次々花は咲く
私は城から出られない
城が花に埋もれて
狂人廓(くるびとくるわ)になりました

花が咲くのは昼などと
決めてしまったのは誰ですか

月下美人は眠らない
夜に抱かれた春の性
誰も知らない秘密の花弁
一夜限りで散らしましょう

投稿者 つるぎ れい : 21:10 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月24日

散華の夏

散華の夏


散華の夏


零れた白い夏が
月に還る

晩夏の名を呼びながら
新たな季節に
淫らに燃えて
白肌は紗の薫りを
遺して
西国浄土の夢を
珠にして
夜を数える

泥濘から残されたのは
夏の名残りの
裸の芯

蓮(はちす)
十六方位に
光を宿していながらも
花弁は
珠玉の涙を浮かべた
薄幸の女

投稿者 つるぎ れい : 20:26 | コメント (0) | トラックバック

煙草

煙草


沈黙ケースのホテルから
四角四面な私を取り出すと
いとも軽く持ち上げて
唾液のベッドに放り込む

真っ白な私に真っ赤な言葉で火を付けて
頑なな私の芯を解ようにくちづける
あなたが私の躰を吸う度に
痣になった蛍火が
儚い命を闇に溶かして消えて逝く

ギリギリまで私を奪うくちづけは激しく
火照る私の体温は発火し高熱を帯び
病に犯され寿命を削り取る

あなたの憎らしい執拗な戯れに
私はヤニついた毒を吐く

けれど

容赦なく私を一本一本と
征服してゆくあなたの指先が
私を狂わせ胸の炎を踊らせ
私を蝕んで愉しんでいる

あなたの咽せた咳 ひとつ
これが私の精一杯の抗い

蒸気した私の涙が紫煙となって
くゆり くゆり と立ち上る頃
あなたに愛された記憶は
夜にはぐれて薄れてゆく

思い出を全て空にして
私を簡単に捨てるあなたに
報いを授けましょう

あなたの肺は真っ黒い点描画
誰も入る隙間もない

私だけの部屋になる

投稿者 つるぎ れい : 20:13 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月19日


言の葉を並べて祈る最愛の人は消えゆく音楽にも似て


とめどなく 溢れる想いメロディーに歌えど歌えど君には届かず


夏の日に 飛んだ蛍の灯火に 君はみたかい あの灯(ひ)に愛を


来世では 添い遂げようの 約束も 来世があってならの約束


人知れず 君の名を書く 君を呼ぶ 姿形も白紙のノート


また会おう またっていつなの どこでなの 黄泉路は私独りで逝くわ


最近の私は悲劇で喜劇なの 自分の余命玉響の音


詩はかかない 詩は書けないの だから今 死を書いてるの 死を書いてるの


招き猫 招いてください あの夜を ブルーノッテの薫るあの女(ひと)


さよならと言ったあなたの始発駅はじめましてが冷たい終着


真夜中にあなたをさらった 犯人は 哀しく泣いたカムパネルラ


嘘を塗り 罪を纏い 泥濘に 足掻きながらも 僕には君だけ


世界から弾かれたのは鎮魂歌 モーツァルトは いまだ眠らず

投稿者 つるぎ れい : 23:07 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月16日

セクサロイド

セクサロイド


セクサロイド


浴室に幽閉された
モノクロの私は
未完成でありながら
あなたに飼われるのを
待っている

誘うように哀願する

【色が…欲しい】

乾いた喉を裂いて
溢れ出したコトバ

堪え切れぬ涙を
身体中に浴び

まだ
独り
濡れたままで…

投稿者 つるぎ れい : 01:18 | コメント (1) | トラックバック

小詩  四編    4

小詩四編   4


【すれ違い】

そろそろ来ると
思ったとおりの
すれ違い

【水溶性】


文字が滲むのは
涙のせいね
水性マジックで
君を呼べば
夜が溢れる

【鍛える】

あなたは鉄棒の逆上がりが
上手にできないからといって
手の皮が破れるほど
しがみついて
握りしめてはいけません

鉄棒は汗で錆びて
あなたは淋しくて
逆上がりしたくなるだけです


【逆鱗】

逆なでした冗談は
嘘ではないから
厄介だ

真実みたいに
輝く嘘は
皮肉に彩られ
鱗に尾鰭をつけらた龍は
ストレスを溜め込んで
いずれは
雷を落とすだろう

投稿者 つるぎ れい : 01:08 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月06日

騎乗体

騎乗体


馬が鬣を靡かせると
私の空白が埋まる

摩擦する風を受け止めながら
まだまだ走り出す
熱風に怯まず
身体ごと曝された
狂態が踊り出す

発火する魂は
新しい炎を生み出し
空白は燃やされ
女は叫びながら
刹那を駈ける

投稿者 つるぎ れい : 00:22 | コメント (0) | トラックバック

2011年08月01日


し 音にだしたら黙り込む

四 数にして見りゃニで割れる

紙 インクが無くちゃ白いまま

死 白い布巾が顔を隠す

ともすれば

詩 長い一行の地平線

投稿者 つるぎ れい : 12:31 | コメント (1) | トラックバック

言葉

言葉


愛する人よ
鏡を見ずに私の方へ振り向いてください
月光があなたの顔を照らすとき
私は最初で最後の言葉を伝えることができるでしょう
でも雲が残酷に月の灯りを消したなら
私は黙ってあなたに抱かれに行くでしょう

投稿者 つるぎ れい : 02:16 | コメント (0) | トラックバック