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2016年03月21日

母の頬を打つ
鋭い音が私の底に弾けて沈む
窓から漏れる灯が全て真っ赤に爆ぜる
影絵が暴れ出す
玄関口を喪服の村人がぞろぞろ出て行く
四角いお供え物に母の骨を携えて

母の頬を打つ音が隣の家に着火し
老夫婦はもう家に帰れなくなった
また、喪服の村人がぞろぞろと夜の玄関先渡って行く
四角いお供え物から、ピシャリ、という音が聞こえないように
大きな風呂敷袋にぐるぐる巻きにされた、その箱の底から血が滴っている
─あれが生首です。
影絵の物語はいつもそんな風に幕を閉じた

                ※


   私が赤ちゃんを叩き殺した理由ですか
   私わたしが赦せなかったのです。私は母からすれば良い子ではなかった。
    昔から母によく叩かれた。だから私はわたしが子供を産んだら良い子になる
    ように赤ちゃんの頃から叩いて育てようとしたんです。悪いことが出来ないよ
    うに。一つ叩いても泣きやまない。二つ叩いても泣きやまない。赤く膨れて
   泣きやまない可愛そうな私の・・・「私」、え、何か言いましたか?今、何か
   大切な・・、え、ノイローゼ?はい。そうでした。でも、ノイローゼって何で
   すか?
   ─赤ちゃんを叩くと喚くんです。私も痛かったのに、私も叩かれたのに、どう
   して私はそんな幼子を殺さなければならなかったのかしら・・・。あんなにも、
    助けて!って泣いていたのに。誰が、泣いていたのかしら?おかしいわね・・。
    本当に・・・。オカシイ?
    眠れないんです。え、目が覚めてないだけですって?じゃあ・・これは夢?
    本当に・・・?
   そう、夢だったの、ね、夢・・・。ああ、怖い夢・・・!
   ほんとうに、ホントウニ・・・?
   

              ※

ピシャリ、
玄関を閉めきった家に炎が住む
母の頬を打つ子の影と赤子を殺める母の手が燃えている
村人は炎を光と間違えて、灯を求めてやってくる
「飛んで火にいる夏の虫」とは、どちらが先に言ったのだろう/逝ったのだろう

              ※
あの家には鰯の頭も、無かったのかねえ・・・。
私の焼死体を見ながら通り過ぎるランドセルに手を繋ぐ母親

                      /鬼は、 外。

            ※

ピシャリ、
鋭い牙をした思い出が死んだ私の腸から出てきた
(お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい!
(もっと、ちゃんと、甘えたかったのに・・・!
(オカアサン!!
    
                      /鬼は、、、「 」。

投稿者 tukiyomi : 22:18 | コメント (0) | トラックバック

2016年03月20日

かぞえる

珠を数えている。
腕に通された木目の珠を。

祖母が亡くなったとき 
父が握っていた大粒の珠を、
父が四角い小さな石塔になったとき 
母の手首に引っ掛かった数珠の珠を、
数えている。

目が開いた時から数えていたのか、
数字というものを覚えたから数え始めたのか、 
わからない。
なのに、
随分と前から数えることがやめられなかった私。

数えている。
生きるために数えているのか、
死に切るために数えているのか、
長い夢の歳月の裾、
その、衣擦れが過ぎ去り
私の髪は白髪になり抜け落ち
骨と皮と皺の隙間から
数珠がするり、と落ちてしまう迄には
私は薄暗い朝を迎えて又、数珠玉を指でひとつぶ、掴む。

私のいち、は どこにあったのだろう。
ひとつぶの珠を掴んでは放ち 掴んでは放ち
その、サイクルから逃れられない人生でした。

今の、いち、も持たないまま
数える意味も知らずわからず
心は 狂気と歓喜に踊らされ
私の分身たちが
私の記憶を覗き込んでは
掻き回し 過ぎ去っていく。

気が付けば
もう、
彼岸過ぎ迄── ──。

投稿者 tukiyomi : 15:51 | コメント (0) | トラックバック

2016年03月08日

足並み

 私はカルピスのいちごオーレの底にたまった沈殿物。
五百ミリリットル入っていても果汁は一パーセントにも満たない。
濃いピンクのふりをしても、先生たちは私のことを講堂に響く大きな声で、赤点、ギリギリだったという。そういうことは“だいたい”で、いいらしい。
 私の個人情報が薄汚い口髭の男から、交流会館のキレイな受付嬢に銀行振込をされていく。“だいたい”の、料金で。
 赤いベストの黒い丸渕眼鏡のおじさんは封筒を大事に抱えてNPO法人行きの切符を窓口で買う。行先は白く一人。帰りは黒く独り。もう乗客席に座る足も、持たないままで。
 私が得体のしれない沈殿物だった頃は珍しがっていたのに私が赤点ギリギリと分かったら、みんなそっぽを向いていたくせに、私のIDを知った途端に手を叩く人と、水をかける人。
 「地域はそういう仕組みになっている。」ということを教えてくれた人は独り、黒い箱に入れられたまま、口を開くことはなかった。
                 

──と、いうことで総会は開かれた。理由もなく会議には老人が選ばれた。
おせんべいも割れない歯で、するめをしゃぶるだけの舌で、一体どんな話し合いをしたのだろう。
知らない町の交流会館で、そんなつぶやきを書いている、私に、よく似た私を見たよ。
故郷は竹藪の中に消えたのに、そこが私の赤点の出発点だったなんてことは、交流会に参加できなくて、会議室の隅の暗室に詰め込まれた寂れた椅子が知っている。
(座る人もいなくなったら椅子って誰が呼んでくれるの?
竹藪の中に放り込まれた木造椅子も、そういったら壊れていったのに。
 会議室はハクネツしているみたいで、喉をカラカラにしたペットボトルたちが並んでは、すごい速さで捨てられていく。
 沈殿物が覗いていた穴が、巨大になっていることにも気がづけないまま、会議室が暗室になる日、足並みは、途絶えた。


投稿者 tukiyomi : 20:42 | コメント (0) | トラックバック

2016年03月02日

母になれないこのままで

母になれないこのままで
あなたに名前を名付けたい
あなたは黒い目玉を輝かせ
きょとんと笑ってくれるでしょうか

母のになれないこのままで
あなたを産んだといってみたい
海のなかに潮が満ち
あこや貝が真珠を一粒育てたと

母になれないこのままで
あなたと手をつないだと微笑みたい
握りこぶしがつかんだ風景
風吹く街で横断歩道を渡ったと

(おかあさん)

それは空から降ってきて
私のお腹を通りすぎ、
海に還っていく星の瞬きほどの、、、

           (おかあさん)

母になれない身体のままで
脈打つ、やさしい赤
幸せを掴んだ見えない手のひら

母になれない子のままで
私は宇宙の子供の母になる

投稿者 tukiyomi : 19:20 | コメント (0) | トラックバック