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2014年12月21日

女の人の持っている鞄が気になってしょうがなかった
遠くへ行けば行くほど 鞄を欲しがる様になっていった
ピンクのショルダー 
黒のハードな合成革に金の鎖のアクセントの物
軽量ダウン地のブラウンのトートバッグに
ストライプは青と白のマリンバッグ
アフタヌーンティーのドッド柄のエコバッグに
果てにはレジャーを模したトレンドリュック

彼女たちを彩る 鞄が気になって仕方がない
ひと夏で 切り捨てられる物もあれば
擦り切れたり千切れたりするまで使う
一生物の 鞄もあっただろう
大切に使われたと 静かに自分の役目を終えることの尊さを
味わえる鞄が ショーウィンドウにいくつあるというのか
期間限定だとか、レアだとか、季節の変わり目に
女心の目に留まるそれぞれの 道標
鞄は 彼女たちと 何処に連れて行かれるんだろう

私は たくさん鞄を買った
そして使わないまま 眺めて満足したら
何処へいったか なくしてしまう
オーダーメイドのものもあれば 友人が作った物もあったし
ウソかホントか ブランドモノもあっただろうが
どれも私の一生を 共に飾ってくれる物ではなかった

私は 服はいらない
私が欲しいのは 裸の赤子が安心して入る鞄
そこでごろごろ眠る私を
一生大切に肩や背中にかけて 運びまわってくれる女(ひと)

今日 真新しい赤い鞄が
青い透明なゴミ袋に入れて捨てられていた

中身を 確かめる勇気はない


「文芸詩誌 狼 24号  掲載作品」

投稿者 tukiyomi : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

2014年12月08日

うそのそと

うそのそとに いつわり
うそのそとに いいわけ
うそのそとに くちがあり 
くちがあれば うそをはく

嘘から覗く虚ろな社会の本音で悪口 三枚舌で赤く丸める
嘘が強かに実しやかな熱弁を振るい 人は溺れて舌を巻く
嘘が腹を抱えて笑いながら 寡黙なウイルスが噂になった

うそのうちがわで なく
うそのうちがわから でれなく
うそのうちがわで だいてみせて
うそから 「嘘」を みせないで

うそのそとに すわり
うそのうちがわに あこがれた
いなかものの むくな、夢
のっぺらぼうの なくしたしたが
あしあとつけて こうしんちゅう

投稿者 tukiyomi : 22:09 | コメント (0) | トラックバック

2014年12月07日

正体

西日の強い秋の日に 
燃え落ちた赤ピーマンの残骸に目をやりながら
駅前のツタヤと惣菜屋へ向かう

ジャーのご飯に合う惣菜を
ツタヤで十代に戻れる私を
選んだはずなのに
コンビニでトイレを借りたら
便利にみんな 流れていった

とぼとぼと 背中に西日を背負いながら
今まで歩いてきた道を ノートに書こうとする度に
両親からの留守電話が 引っかかり
その後 見送る「夕焼け小焼け」

曲がり角をすれ違う妊婦は
地面を見ていたのか お腹を見ていたのか
俯いたままで 歩いてゆく

それは 当たり前の幸せを宿して 不安を抱えた子供
赤く熟れて落ちて逝く ピーマンの未来にも似ていた

誰の上にも広がる夕焼け空の下で
赤くなれない種なしブドウが私だと
自分に言い聞かせて 安心したふりをする

当たり前の幸せの後ろについてくる
影のことばかり見えるから
西日が沈むほどに 
私の正体は 黒く長く伸びては
この街に 沈んで消えた

投稿者 tukiyomi : 11:37 | コメント (0) | トラックバック

2014年12月05日

香水と煙草

見つめ合う 香水と煙草

出会いと出会いが通過していく、お互いの横目で
記憶を垣間見る 痕

口紅では 押し付けがましい
ネクタイでは 束縛し過ぎる

灰色の街を 太陽が落ちて焦がした 焼け跡を
覚めた夜が呼び止める

香水が煙草を脱がして 火を灯す
踊る匂いが 一瞬にして 千億のシャッターを切り
マルボロの強さで 引き寄せたまま風に乗る

私の足元に 香水の空きビンと煙草の汚れた灰皿
空き箱になった暗室で 秘密だけが たちこめる

投稿者 tukiyomi : 21:45 | コメント (0) | トラックバック