狂態

狂態
鏡から狂態晒す 私の身 辱めてよ 視線の矛先
愛してる 愛してなくても 抱けるなら 理屈はいらない それだけでいい
まだ胸に 花びらの痕も 無いままで 乳輪だけが 赤く泣く夜
首だるく 髪を散らして くねる腰 夏の夜は 女の薫り
溜め息と 吐息を吐いて 足して割る 方程式は 答えを持たず
独り寝の そばに君が居たならば なにもいらない 言葉を封じて
濡れた髪 手櫛で上げて また上げて 溜め息の分 時計は進む
汗ばんだ 肌が絡まる オーガズム 顔がみたくて 細目をあける
淋しいの 体じゃなくて 心かい 問うあなたは 何も知らない
日曜の 夜は早くも 眠り往く 男の闇が 女を揺さぶる
刺青を 施すように 愛撫した あなたが描いた 般若の仮面
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詩人

詩人
追い越せない季節を
記憶に攫われるような
覗き穴からみた秘密を
焼き付けるような
あどけない笑顔を前にすると
白紙が埋まらないような
あなたは宇宙の余白のような
虚しさをを秘めたままで
海溝の奥底に眠る
マグマの激しさに触れてみるような
感性の旅を続けなければならない
私たちは行間に宙(そら)と海を飼っていて
その隙間から
透明な魚だけを食べて生きています
だからでしょうか
ペンを持つと
必死で空腹を満たすため
文字を紡いで網をめぐらせ
空を仰いでは
真昼の魚座を
捕らえようとしたがるのは

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笹舟にのせて

笹舟にのせて
終焉に出来ない恋を笹舟に 乗せて果て往け 彼方まで
流れゆく この魂とこの身体 たどり着けない 貴女の海に
未練という 文字 短冊に書き写し 笹の葉ゆれて 私もゆれて
死にたいと想うくらい 焦がれても 漕げないオールを掴んだままで
雨粒が 脳裏を濡らす暗闇に 昔の君が 零れ溢れて
会いたくて 僕だけずっと会いたくて 君は離れた 悲しい距離に
悲しみを 笹舟に乗せ 流しても 流してみても 沈んで崩れ
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夢想雨

夢想雨
私の子宮に春雨
薄淡い白雲を覆う粘膜の空
沈黙の物干し竿にとまる湖水
溜め込んだ吐息
シトシトと
冬の憂鬱は流れてゆく
私のためらいは
物干し竿に留まったまま
デジャビュ
白糸のように燦々と降り続く水は
私の横隔膜の隙間から
私の部屋へ入り込み
小さな呼吸を繰り返す
雨は降る
雨が降る
私の子宮に雨が降る
この水面の器から
溢れる涙
さざ波の鼓動
弾ける産声
小さな握りこぶし
嬰児よ
ゆりかごのなかで
新緑に染まる
春を待て
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萌芽

萌芽
ひだまりに誘われて
なだらかな傾斜の苔むした土手に座り
私は春をスケッチする
やわらかな風は
頑なな桜の蕾に
息吹きを吹きかけ
陽光を注がれるまま
池の水面はきらめく
ごらん
こぶしが握っていた冬を
空へ放っているよ
水面は風にそよがれるままに
まばたきを繰り返し
乱反射する煌びやかなメロディーを
ゆるやかに泳がせる
山上の鉄塔たちが
灰色の鉛筆で
青空に落書きして
白い雲が一つ生まれた
光は平等に春を告げ
今 一枚の淡彩画の中で
私は確かに息づいている
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分岐点

分岐点
人生はいりませんか
人生はいりませんか
老いた瞳が訴える
人生って何だろう
人生って何だろう
振り向きたがる団塊世代
人生に愛を加えたい
人生に愛を加えたい
必死でキーボードのiを押す三十路女
人生ってしまむらに売ってるの
人生って今 流行ってんの
ショーウィンドーのマネキンのような女子高生
それぞれの胸の振り子は
午前0時が始発点
逆回転する短針の
指さす先は謎かけ問いかけ
質問攻めの終止点
あるいは
道行くダンジョンで
大皿に盛られた過去と未来
秤にかけたら
懐古と倦怠の分岐点
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さよならの君

さよならの君
はじめから 特に意味などない恋を まことしやかに 信じた徒花
足跡をかき消すように 逃げ惑う 二人の間に 芽生えた裏切り
愛してる の言葉の重みを 赤薔薇に 託して逃げる さよならの君
朝露も 濡れない昼に 侵されて 色あせて行く 乾いた涙
手を伸ばし 手を翳してみても 届かない 揺らぐ炎は 幻想のまま
きっと泣く きっと裏切る そんな事 知ってるつもりで 交わした約束
もう一度 知らない顔で 罵って お前も違う男を探せ
恋なんて しない女を 気取るには キャリアと趣味と実力兼ねて
あの人が気になりだしたの あなたとは全く違う 素直な人なの
手を握り 砂辺で歩く足跡を 満潮の波に 遠く消されて
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抱いてみたい

抱いてみたい
何も知らないきみを抱いてみたい
音楽よりも激しい音を奏でる躰
遮断した胸の鼓動
時々寂しげな眼差し
素直になれない強さ
君の全てを暴いてやりたい
何も知らないのは
お互い様だから
人は微熱を重ね
夜に手のひらを握りしめ
独りでないことを
確かめたがる
その夜を二人で越えよう
何も知らなかったその瞳に
一体何が映るのか
光 溢れる未来
重ねた温度から広がる地平線
その海原で君は自由に泳げるだろう
全ては君の手の中に
僕さえも虜にして置いて
何でもも知ってるくせに知らないふりする
薄情なきみごとを抱いてやりたい

(とある、少女に・・・)

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空中庭園

空中庭園
用意したものは
ハルシオンと
カッターナイフと
包帯
壁には壊れた時計
床には硝子の花が咲く
お互いの手首を傷つけ
血の赤さに安堵して眠る夜
幻覚の森で落ち合って
オルゴールの棺に収まり
夜は宮殿を抜け出し
裸足でピアノの鍵盤の上を踊ったよね
君は永遠の乙女
黒いレースのついた喪服で僕を迎え
幼さの残る激しさで僕を射抜く
そのままで居られなかった苛立ちは
伸び始めた手足たち
汗ばむオスの胸板の下で杭を打たれ
僕はオンナという遺伝子組み換えの罰を受けた
男という生き物は
僕の背中に腕を伸ばすと
「コレは邪魔だな。」
と笑いながら翼をもぎ取り
僕に足枷をして繋ぎ止め
夜しか知らない生き物に作り変えた
人殺しにも似た行為を毎夜繰り返し
僕は残酷になった
もう庭園(くに)には帰れない
なのに君がくれた一輪の薔薇が
故郷(ふるさと)を恋しがるので
地獄にいても
晴れた日は空を見上げて涙が出たりする
あの二人で覚えた遊びは封じられずに
思い出が骨を砕く
帰りたい
還りたい
孵りたい
用意した物は
ハルシオンと
カッターナイフと
包帯
今から逝くよ
肉などそぎ落として
白い粉になって
透明だけが支配する
二人だけの
空中庭園(おうこく)へ

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虹を あなたにあげたいんだ
たくさんの色をして
空に続く橋のようで
きっとふたりで渡れば
夢にたどり着くはず
きみの病気も
あの架け橋の向こう側には
きっとないはず
だから
走って走って
雨がやむまえにって
太陽が沈むまえにって
祈りながら走ったのに
ぼくの手には
転んだ時の泥しか
つかんでいなかった
それなのに
きみは
私が見たかったのは
虹じゃなくて
泥だらけのあなたなの
なんて笑うものだから
ぼくは泣けてしまって
泣けてしまって
西日がさす
病室で
ぼくの顔に
うっすらと
虹ができてしまうんだ

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