箱の中

空が青い日なんて一度もなかった、
本当の色が見えない人が多すぎて困る
青じゃなかったら 何色なのか考えすぎると
うつむく人なら 嫌われる

   覚えていたレシピの手順を間違える
   早朝のゴミ出しに間に合わない
   何を食べたか忘れてしまう
   いつ眠ったのか思い出せない
   キャベツを刻む音だけが響く
   毎日、毎日、切り刻まれる音 ── 、

空が青い日なんて一度もなかった、
本当の色について言えない人が多すぎて困る
青じゃなかったら何色なのか考えて 塗った灰色
嫌な顔をしたままコトバを失くす お医者さん

   頭をたたくように
   「ご立派ですね」と
   手をたたく
   その手で本棚から「空」の写真を取り出して
   指で「スカイブルー」を声に出す

患者と医者は 繰り返し
ブルーの中にグレーがあるのか、
グレーの中にブルーがあるのか、
いつまでたっても
箱のふたは あかない


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