空中庭園

空中庭園
用意したものは
ハルシオンと
カッターナイフと
包帯
壁には壊れた時計
床には硝子の花が咲く
お互いの手首を傷つけ
血の赤さに安堵して眠る夜
幻覚の森で落ち合って
オルゴールの棺に収まり
夜は宮殿を抜け出し
裸足でピアノの鍵盤の上を踊ったよね
君は永遠の乙女
黒いレースのついた喪服で僕を迎え
幼さの残る激しさで僕を射抜く
そのままで居られなかった苛立ちは
伸び始めた手足たち
汗ばむオスの胸板の下で杭を打たれ
僕はオンナという遺伝子組み換えの罰を受けた
男という生き物は
僕の背中に腕を伸ばすと
「コレは邪魔だな。」
と笑いながら翼をもぎ取り
僕に足枷をして繋ぎ止め
夜しか知らない生き物に作り変えた
人殺しにも似た行為を毎夜繰り返し
僕は残酷になった
もう庭園(くに)には帰れない
なのに君がくれた一輪の薔薇が
故郷(ふるさと)を恋しがるので
地獄にいても
晴れた日は空を見上げて涙が出たりする
あの二人で覚えた遊びは封じられずに
思い出が骨を砕く
帰りたい
還りたい
孵りたい
用意した物は
ハルシオンと
カッターナイフと
包帯
今から逝くよ
肉などそぎ落として
白い粉になって
透明だけが支配する
二人だけの
空中庭園(おうこく)へ

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