夢の中で夢についての講演をしている。会場は半屋外で、天井はあるが、四方には柱があるだけで、壁はない。スロープ状になった観客席は丘のようで、その頂上から少し下のあたりにぱらぱらと聴衆がいる。ほとんど宣伝をしなかったのに、結構な人数である。
司会者がぼくを紹介し、マイクの前に座って話し出す。ちょうど正面に太い柱があって、聴衆からぼくの顔が見えないので、少し席の位置をずらす。
あらかじめノートを用意していたが、スロープをゆっくり歩きながら、殆ど即興で話し出す。たまたま隣の敷地にある病院の外廊下をナースが駆け足で走ってコピーを取りに行くのを見ながら、「夢はゼロックスのような昔のコピー機で、コピーをとるのに似ています。拡大コピーを重ねると、だんだん粒子が粗くなり、もとの画像とは似ても似つかぬものになる。夢はこれに似ています。」「よく見る夢で、夢の中で映画を観るんです。その映画はフルカラーでシネマスコープです」。
そろそろ約束した講演の終りの時刻だ。まとめに入ろうとすると、司会者が「先に〇〇さんがまとめを言ってからでもよいですか」と尋ねるので、しかたなくOKを出す。指名された〇〇さんは若い学生風の男で、「この会はもっと頻繁に開きたいのですが、めったに開催できないのが残念です」と挨拶する。ぼくは夢について講演するのはこれがもう7~8回目だと言いたかったのだが、言うチャンスを失ってしまった。
ふと見ると、マイクの置かれたテーブルに掌大の褐色の虫がいる。そういえばこの虫は生きているのか死んでいるのか分からないが、講演の初めからここにいた。そこにそうやって虫がいる偶然性についても話そうとしていたのに、結局話すのを忘れてしまった。