3月1日の夢(逃亡バス)

 バス停で待っていると、定時にバスがやってきた。乗り込むとパスモの読み取り機がない。車内は部屋のように広くて、ほとんど正方形に近い。ぼく以外に乗客はなく、座席の前方中央に紙切れに埋まるようにして、読み取り機があった。しかしランプが点灯しておらず、明らかに生きていない。
 ハンドルを握る初老の運転手にそう声をかけると、「12番の席にも読み取り機がありますよ」と言う。窓際の12番の座席を探すが、そこには読み取り機はない。しかたなくぼくは無賃乗車のまま一番後ろの席に座る。
 運転手は大きく振り返って、ぼくの方を見ていたため、前方に曲がり角が近づいているのに気づくのが遅れた。バスは猛スピードのまま、レンガの壁を避けて右折する。コンクリートの電柱に激突しそうな勢いなので、ぼくは「うわあ」と思わず声を上げてしまう。
 「このバスはもう1時間も遅れているんです。私は何かから逃げているのかもしれないなあ」と運転手は独り言のように言う。「でも動物たちは歌をうたっているし……」と彼はつぶやく。そういえば窓から見える街に不思議な動物たちの姿を見かけたな」とぼくは思う。

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