9月23日、お彼岸の夢

 先輩詩人のS氏から戦中体験を聞く。戦中は日本国内で放浪生活を送っていて、真っ黒な泥の地面に寝て、汚い虫を食べて生きたいたという。戦後の日本は復興したけれど、当時の真っ黒で汚い日本が海に近い銀座の街にはまだ残っている。真夜中の人通りの途絶えた銀座のビルの隙間には、まだあの真っ黒な泥の地面が残っている。そして、そこにはあの汚い虫たちが沢山生き残って、うごめいているのだ。でも、S氏には楽しい思い出もあった。放浪の途中、ギターを貰い、仲間二人とバンドを組んで歌っていたのだ。彼はその頃のままに、ギターの弾き語りで「誰か故郷を思わざる」をきれいなハーモニーで歌う。ぼくもコーラスの二人のうちの一人として、その演奏に参加する。
 海へ行く。そこは映画館で、30年前に死んだ父がぼくに映画を見せようとしているのだ。しかし、ぼくはスクリーンの反対側を向いていたので、父はぼくを抱え上げ、スクリーンの方を向かせてくれる。
 映画の主人公は、飛行機に乗りたくてたまらない少女と、その少女をだまして飛行機の中でいじめたいと思っている、年長と年少の少年二人。少女は「飛行機に乗せてあげる」という少年の申し出に、喜びのあまり、持っていた袋の中の穀物を全部こぼしてしまう。そして、実際に飛行機の中で少女は少年たちにいじめられるが、彼女の純真さに年少の少年は同情し、ひそかな恋心が芽生えて、最後には少女と心を通い合わせる。
 ぼくはこの映画を前にも途中から観たなと思う。そのときはちょうど、このあたりから観たのではなかったっけ。障害物があって、スクリーンがよく見えないので、ぼくは箱の上に立ち上がって、スクリーンの右斜め後ろから映画を観ている。ふと見ると、父は反対の左側から映画を観ている。
 最後に、主題歌が手書きの歌詞のテロップとともに画面に流れる。作詞者の名前として「平山」という名前が書かれている。ぼくは父に「平山さんって誰だろう?」と尋ねる。父はぼくに「この平山さんだよ」と言って、本を見せてくれる。この映画について書かれた本であるらしい。

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