世界の中心

世界の中心
悲しみを踝までに浸しては裸足で歩む触れたい背中
盲目の行方不明の両目たち夜を跨いであなたの夢へ
子守唄自分の為に歌っては涙を流すもうひとりの君
ただひとり私を信じてくれる人裏切りらないで夜明けの朝日
すぐそこに冬が来るから私たち肌のかたちが かまくらの熱
嘘つきと虚構と事実と小説と孤独と愛が詩人のスパイス
夜の闇静寂を滑り会いに行く私はいつかの御息所
箸が折れ携帯壊れヒステリーそんな私を畳んだ笑顔
いつの日もいついつまでも愛してるあなたはいつも世界の中心
 

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メモ帳

メモ帳
あなたにもらった皮表紙のメモ帳に
文字がかけないでいる
昨夜の喘ぎ声の悲しみに言い訳したり
今日私についた嘘について説教してみたり
明日出会う友人とセーラー服を着ることを
全て
メモ帳に語りかけているのに
文字にはならない
変わりに
涙が零れて
真夜中にクチュクチュ鳴る指から
水蜜桃が割れて溢れ出て
親友の彼氏のノロケ話を
スィーツにして
あなたのくれたメモ帳が
重みを増して
日常生活の私の一部になるように
無声の私が
沢山ページをめくっていって
本当のことを言うと
メモ帳は
たった3日間で
全て書き込まれ
私の胸のポケットで
心音に温められては
鼓動だけを刻んでいる

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秋空の海原

秋空の海原
とある田舎の早朝に
鱗雲は光を帯びて
金色の日常に
私のおはようの瞳(め)が
隙間に挟まったまま
泳げない
鱗雲の向こう側には
宝島があるのだろうか
太陽が隠し持ってる
宝箱を目指して
この町の午前六時半は
動き始める
昨晩の空からの訪問者は
夥しい水しぶきをたてて
はしゃいで帰ったので
草花は朝露の重さに
うなだれたまま
艶美な光の粒に
身体を洗っている最中
空には大海 地上には楽園
この張り詰めた
一日の始まりに
自転車に乗って
部活動に急ぐ
詰め襟少年も
地上から空に
宝島を目指す
水夫のひとり
自転車ペダルが回るほど
動き始める秋空の海
軽くなって行く私の足取り
そして東の空からは
まだ見ぬ向こう側の笑顔たち
やがて始まりの鐘が
晴れた空に響き渡るだろう
私の胸にも
あなたの空にも

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「嘘がまことでまことが嘘で…」
昔の誰かの舞台のセリフを
僕は何度も繰り返しては
嘘の言葉を川岸に並べて
石を積んでいる
或いは意志という頑な
もろい正しさを壊したり創ったりして
シナリオみたいに並べてみては
まことしやかな 嘘に 罪悪感の印しを
川辺の石に刻んでいる
その意志が 君に届くように
或いは 届かないように
胸の内すら確かめられずに
言葉は千年先の虚構に隠されたまま
僕の描く世界に 君を
連れ去るにはどうしたらいいか
伝えるインクの色すら
セピアに褪せて消えていった
「嘘がまことでまことが嘘で…」
何度もその言葉を
石に刻んで叩いてみても
君の「秘密」を暴けないのは
君が 川辺で
バベルの塔くらいの高さで
その石たちを積み上げて
僕は いつの間にかブロックされていた
(暗い塔の中で嘘をついて泣いていたのはどっち?)
川辺の石の印しを文字の形にして
君に当てはめようと
あるはずのない 「真実(まこと)」を探しては
僕は さまよい続ける
言葉を無くしたままで
目を閉じたままで
光があったことすら
知らなかったようにして

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名無し山

名無し山
その山に名はない
ただロープウェイを使わなければ
山頂には登れないらしい
私は麓まで居眠りをしながらバスに揺られ
終点のバス停から近くの
ロープウェイ乗り場で切符を買った
天候は妖しくなり
濃霧が頭と目を白濁させて気が遠くなる
ロープウェイに吊された赤いゴンドラは
しつらえられた柩のように私に用意され
時折迫る強風に曝されては揺れた
標高が高くなるにつれ酸素は薄まり
山頂の公園に着いた時にはすっかり
体温を奪われた
そこには巨大な蝋燭の形をした石塔がひとつ
誰かが何かを刻んであった
高名な僧侶が書いた梵字だったか
定かではない
霧は晴れないのか…
私は山頂で消えたり現れたりする人影を追ううちに
ゴンドラに帰る術を失った
なぜこの山に登って来てしまったんだろう
自問自答を繰り返す私に
どこからか幼い子供の声が降ってきた
「お姉ちゃん 僕に名前(いのち)をちょうだい。そうしたらこの山を崩してあげるから…」
その山は今はない
ただ割れた境目から
溶岩が血の塊のように
どろり どろりと
うなり声をあげるように
溢れ続けた

詩と思想11月号入選作品

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サイコパス

サイコパス
サイコパス
愛してはいけない人に恋してる
身の程を知れと言ってるみたい…
空を串刺しにする
伸びやかに しなやかに
聳え立つ あなたは一つの
強い意志
張り巡らされた
全ての策略も
戦慄のシナリオに変えて
街々を飾るひとつの
突き抜けた電波頭脳
私は
あなたの空を
泳ぐ鱗雲
あなたの青さに
染まって消える
過去に流れて逝く
透明な白
だから
私にも 発信して
これ以上の悲劇はないほどの
喜劇のような終わり方
恋しては消えてゆく
秋の高みから
狂った舞台の
サイコパス
もう
愛せないように
殺された
女が墜ちる
空(から)舞台

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片手鍋

片手鍋
私の傍にはいつも片手鍋があった
「両手鍋ならお前にもっとおいしい御馳走や幸せを味あわせてあげられたに・・・。」
と 豚肉が傷んだいきさつや
胡瓜やもやしが腐ってしまった原因を
ガスの火で燃やしては 蓋をする鍋だった
片手鍋は孤独だった
はじめは両手鍋だったのに
片方が勝手にもげて
キラキラ光るステンレス鍋の
お料理を貪るようになったから
その愚痴を片手鍋は言わないで
夜になると黙って ひとり グツグツと
湯を沸かして深夜の食を作り
料理が冷え切るまで
両手鍋に戻れる日を信じて待ち続けた
煮えくりかえった鍋から
熱い湯がこぼれても
遠くにいる片手鍋の持ち手は気づかずに
床を拭おうともしなかったし
鍋置き場から
片手鍋が転げ落ちて修理に出されても
そろっていたはずの持ち手には
関係ないことだった
その頃片手鍋の持ち手は
ステンレス鍋と新しい愛妻料理を
笑って作っていた所だったし
出来上がった品に【私生児】と
つけられるのが怖くて
台所の洗い場にお金と一緒に流して片付けた
私は私の傍に三十余年一緒にいた
片手鍋を信じている
片手鍋は賢かった
片手鍋は涙もろかった
片手鍋は情が深かった
片手鍋は…
もう錆び付いて
自分が鍋であったことも
忘れてしまったけれど

詩と思想11月号執筆依頼掲載作品

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同じ星

同じ星
あなたの孤独が
空から降りしきる夜は
遠い星の 夢を見ている
   *     *
見上げたあなたは
ただただ 遠く強い巨星
見下ろしたならば
あなたは生まれたての七つ星
あなたの名前を
並べてゆくと
宇宙の理に引っかかる
その先っぽからでいい
空から私に雫を垂らして因子をください
私はあなたに似た星を宿しては
その詩(こ)を
空へ解き放つ
私たちは 言葉で繋がれた
同じ涙の同じ星
同じ孤独抱えた星が 出会う確率は
東京行きの新幹線の中を 淋しさで逆走しても
辿り着いてしまう
あなたの駅に あなたの声に あなたの中に 
取り込まれて 墜ちてゆく
それはとても 悲しいくらい 100パーセントの引力で
   *        *
同じ星
だけど なんて 遠い星 
探しても探しても探してみても
涙が止まらないまま
夢から覚めない夢をみている・・・

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ワガママ短歌

ワガママ短歌
ひとひとり愛せないくらいのわがままで告白したいあなたが好きだと
昼下がり微熱を帯びた過去の汗あなたの風邪はもう癒えましたか
愛せない愛せない人を愛してる躊躇う私を殺して欲しい
声すらも優しさすらも体温も全てを奪う白い錠剤
震災が繰り返される夢をみて鯖の味噌缶だけの夕べ
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白い蜃気楼

白い蜃気楼
束ねていた栗色の髪をほどくように
その髪をかきあげるように
耳もとで囁いた告白は
僕の詩を書き始めた頃の
青臭いペンネーム
ほどかれた髪の上を
滑り出して
僕の詩はたなびいた
堅苦しい
もう一人の僕の名と一緒に
柔らかな風に吹かれ
君の笑顔に舞う
戸惑う僕の思いの丈
 (好きなんだ
   詩を描くことが)
そう告白したのは
新緑が芽吹いた
大切なひとへと向かう
それは いつかの
白い蜃気楼(ミラージュ)

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