7月5日の夢(かくも長き不快)

 京都駅で新幹線を降りようとして、デッキに出る。ドアが開いたところで、自分が何の荷物も持っていないことに気づく。しまった。大きなスーツケースをデッキ脇の棚(成田エキスプレスと新幹線の構造がごっちゃになっている)に置いたままだったのではないか、と思い出す。今から取りに戻ろうか、それともセレブらしく、自分は空手のまま赤帽さん(そんなのもういないと思うが)を呼んで、運んでもらおうかと一瞬迷うが、とりあえずデッキに戻ってみる。しかし、スーツケース置き場の棚にぼくの荷物は見当たらず、掃除のおばさんたちが忙しく立ち働いているばかりだ。ホームに連れの女性がいるのを見つけ、ぼくの荷物のことを尋ねてみるが、要領を得ない。そうだ。あのスーツケースには「かくも長き不快」というものが入っていたはずだと思いつく。
 田舎にヴァカンスを過ごしに来て、鄙びた郷土料理屋の奥座敷のようなところで、誰もいないのを幸い、木製の大きな座卓の上に手足を伸ばして寝転がる。天井を仰いで、ぎょっとする。天井に、まるで重力が反対になったみたいに、この店の若夫婦が頭を下に足を上に、逆さに座ってぶら下がっているではないか。しかも、その姿が妙に小さい。ということは天井が驚くほど高いということだろう。「うわあ。この部屋って天井が高いんですね」と、ぼくは間抜けな声を出すが、彼らを見ているうちにまるで自分が遙かに高い天井にへばりついて、彼らを見下ろしているような錯覚におちいり、とても気分が悪くなる。「そうなんですよ」と二人は言いながら、ぼくのそばに降りてきて、「少し風に当たりましょうね」と言ってくれる。しかし、窓を開けてくれるのではなく、大きな送風機にスイッチを入れて、ぼくの顔に風を当ててくれる。自然の風でないことがちょっと不満だが、少しは気分が良くなった。

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