ぼくは荒れる学校として有名な高校の担任教師である。始業の日からしばらく休んでいたので、今日が今年初めての登校日となる。自分の担任する教室がどこにあるのかさえ分からない状況だ。ともかく職員室へ行く。生徒が生徒なので教師たちも荒くれ者が多いが、一番人のよさそうな男性教師を見つけて、ぼくの教室のありかを尋ねると、彼は一枚の地図を見せてくれた。教頭たちも出てきて、ぼくにその場所を説明してくれる。
聞かなくても分かっている。それはこの治安の悪い街でも最も恐れられている場所である。頭の中でさっきの地図を反芻しながら街路をたどる。荒廃した商店街を歩いていくと、そこはコミケのような腐女子たちの集まる場所である。そこに女王のように君臨しているのは、もちろん有名女性詩人のKだ。まずはKを探して、その協力を得ることが早道だろう。だがKは見つからず、かわりに映画館の前で、ある映画作家の特集チケットを二割引きで買おうとしている、詩人会の元会長G氏に出会う。
だが、まさにその瞬間だった。向こうからやってくるのはぼくが探し求めていたあの人だ。逆光に浮かび上がるその人は男性にも女性にも見える。その人を無事に送り届けることがぼくの任務だ。ぼくたちはこの街のヤクザの組長がさしむけたリムジンに体を低くして隠れる。今この瞬間にも敵に体中を蜂の巣にされるかもしれない。だが、ぼくらは無事に目的地にその人を送り届けることができた。迎えの男が近づいてくる。その人も一言も口をきくことなく、後ろを振り返ることもなく建物の中に消えていった。
さあ、任務が終わったから、家に帰ろう。ぼくの目の前に二つの駅がある。どちらも見たこともない駅だ。一つは地下の駅で、もう一つは高架の駅だ。家に帰れるのはそのどちらの駅だろうか? ぼくは魅入られたように高架駅の方に近づいていく。