ぼくは台所で次から次へと料理を作っている。プロメテウスのように無限に料理をする刑罰を受けているらしい。だがそんなぼくの評判を聞きつけて、テレビ番組にゲストとして出演するオファーが来た。
家は丘の上にあったので、そこから長い石段を降りていく。道には巨大な白猫がいて、ぼくの足にまとわりついてくる。重量級の猫なので、ぼくの足にぶつかる度にすごい衝撃を感じる。しかも江戸っ子弁でたえず独り言を言う猫だ。「そんなら○○すりゃあいいじゃねえか……」などとぼやき続けている。
斜面の途中に左へ行く小道があり、そこを同じ番組に出演するタレントたちがぞろぞろ歩いていくが、ぼく一人だけは坂を一番下まで降りきり、そこにある少し広い道を同じ方向に歩く。「重い猫でしたね」と上の道を歩く男性タレントの一人がぼくに声をかけてくる。「日本語をしゃべるんですよね」と答えると、「それも江戸っ子弁でね」と男の後ろを歩く別のタレントが応じる。みんなが気軽に話しかけてくれるので、ぼくはとても嬉しい。
放送局への登りの道に着き、みんなぞろぞろと狭い坂を上がっていく。局の玄関で靴を脱がなければならないが、当然のようにぼくが一番最後になる。みんな青いゴム製のレインシューズを履いてきたので、このままでは見分けがつかないだろうと不安だ。だが脱いでみると、ぼくの靴だけが靴の上部に折り返しのついた長靴で、みんなよりダントツに背が高い。これなら間違えられることはないと安心する。