外出から帰ると、玄関から小さな息子が迎えに顔を出し、妻は「帰ってきた?」と声をかけてくれる。狭いが幸せなマイホーム。壁掛けテレビを観ながら、夕食を始める。妻は「京都テレビで、自分の馴染みの劇場をテーマにしたドキュメンタリーをしているので、チャンネルを合わせて」と、ぼくに頼んでくる。リモコンを操作するが、チャンネルが何十、何百もあり、どれが京都テレビか分からない。既に妻の観たい番組はテレビに映ってはいるが、どこか地方の系列局らしく、電波が届かないので映像が悪い。チャンネルを変える度に少しずつ画面は鮮明になっていくが、どうしても京都テレビを見つけることができない。
観ているテレビ番組はかつて関西に存在したYテレビという放送局についてのドキュメンタリーだ。元社員が証言をしている。自分たちが違反を起こしたので、同局は廃止になり、威容を誇った局の建物は今は巨大な廃墟になっているという。ヘリから見下ろすその廃墟は山肌に頂上までべったりと貼り付いた巨大な山城のようだ。ぼくは現役時代にそこへ取材に行ったはずだが、当時もこんな建物だったっけ? と思う。カメラは上空から地上に降り立ち、局の前の大きなマーケットをなめるようにして、道路を隔てた公園にパンしていく。土砂降りの雨の中、一人の若い男性(元局員)が腹ばいの姿勢で、道路をツイーッツイーッと滑走していく。時々サーフボードにも乗っているが、よくそんなことができるものだと感嘆する。