男と女の間に 指
荷物を背負う為の
フライパンを持つ為の
あるいは
抱き寄せる為の
リングを嵌める為の

紡ぎだす指で
男は詩をかき
女はピアノをひく
歌は未来に産まれくる
ニンフが地上で
泣かないように作曲した
子守唄
男は縦糸を
女は横糸を
未来永劫編み上げてゆく
二人の指先が
たとえ
あかぎれ ひびわれて
血が滲んだとしても
もう火が消えることはない
冬を越すセーターを
編み終えた 指たちは
男と女の間に
ろうそくの灯り消さない為の
手のひら
と呼ばれたから

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この糸をたぐりよせれば
貴女の髪にたどり着く
濡れた髪に触れたとき
後ろ姿で震えた貴女
この糸をたぐりよせれば
成熟な夜にたどり着く
シーツの海を泳いだ人魚
忘れてしまった帰る国
この糸をたぐりよせれば
艶やかな声にたどり着く
唇から漏らされる母音が
長い列を絶やさない
糸の呪縛に捉えられ
肉体は透明さをおびて
精神崩壊の早さに
僕たちは地球上から
陰だけ遺して
姿を消した
この糸をたぐりよせれば
貴女の傍にたどり着く
珠玉の夜露から
糸を垂らした闇夜の娘

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波乱

波乱
あなたは
私を攫う波
何度も何度でも
突き上げては
狂い落とす
絶頂の高波に曝されて
悦楽の私の顔に
薄笑い
盃 独り傾けて
私を船に味わう
優しさと男らしさの指使い
私の身体で詩を書く男
私に身体で詩を憶えさせる
危険な荒波
波乱の渦にはイマジネーション
息づかいにはイリュージョン
腹部に沈めた珊瑚礁
私は恋の難破船
人魚は巧く歩けない
痺れた痣から逃れられない 
未だに波乱の渦中を
彷徨い
溢れ 溶け出す雫
真珠の泪を瓶に詰めても
届かない明日
波に消された悲涙石(ヒルイセキ)

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マニュキアと乙女

マニュキュアと乙女
サイダーのような泡たちたちまちに弾けて痛い恋心たち
マニキュアに染み込んだ赤は気の毒な今日のおばさん笑う口元
なみだって意味がなくても流れるの背中合わせのおまえの海辺
ひらひらとアシンメトリーのスカートを午後の太陽に知られた秘密
痛いのは空っぽだらけ心なの夜に擦りむく傷口が泣く
艶やかな流し目よりも オーバーニー 下ろし立てなら くちびるだけで
セーラー服の胸元をそっと押すと胸がいたい 少しだけ大人がキライ
お揃いのピンキーリング小指だけスペシャルなまま非売品
血を流す意味がなくても血を流す女になったら着れない水着
鏡さん早くウサギを連れてきてアリスになれない私ははだか

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海と柘榴

海と石榴
人の傷口に
触れないことが
愛だという
私の傷口に
触れる奴は
私の傷口を
必ず癒すことが
できる奴
でなければ
あんなにも
女の体の内に
海を秘めた石榴が
パックリと
容易く開いているものか
あなただけの石榴だ
さぁ
傷口を塞いでくれ

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あかちゃんのにぎりこぶし


あかちゃんのにぎりこぶし
赤ちゃんが 大声で
泣いて産まれてくるんはな
誕生の喜びちゅうか
命の讃歌なんやで
もう ひとつはな
人生の道のりの辛さかも知れへんけどな
なかには
産声も上げられへん
赤ちゃんも おるんよ
でもな
安心して
神様は ちゃんと
お見通しや
赤ちゃんの握りこぶし
あの中にはな
その子が
生きてゆく為に
使い果たせるくらいの幸せ
両手に独り占めして
産まれてくるんよ
だからな
サイレントベイビー
とか
言わんと
ちゃんと人前でも
堂々と泣ける
真っ直ぐな子に育てたってな
ほら
昔の人は言うやないの
「千両蔵より子は宝」
言うて
昔の人も
赤ちゃんが 両手に
宝 握っとんの
知っとったんやろか
千両蔵握っとる
赤ちゃんの柔らかいにぎりこぶし
宝ごとボイコットしたら
赤ちゃんより
わてが 泣くわ
空見上げながら
「あ〜ん!あ〜ん!」
言うて泣きやめへんさかい
そこんところ
宜しく堪忍してな
かんにん
かんにん
かんにん
やで。

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僕の名は

僕の名は
僕の名は
記号なのかと訪ねられ
黙ったまま
あなた方の
夜を見守った
木偶の坊と言われて
突っ立ったまま
季節は過ぎた
寒くないのかと怒られて
寂しいと答えて
酒を注がれた
だけどなぜか
熱烈な
阪神タイガースファンには
人気者
冴えない癖に
目立ちたがり屋の
僕の名は
「私」と
呼ばれているらしい

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春の高さ

春の高さ
春の高さ
空を刺す電柱は
見上げる私に
春告鳥の羽ばたきを
聞けよ
燕の囀りを
英訳せよと
投げ掛ける
蕾 開花し
空 高く
鳥 歌い
私 詩を紡ぐ
光のみ射す
青き空を
串刺しにする
焼けた肌の午後の
春の高さ

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爆弾発言の下に

爆弾発言の下で
根っこ
桜の木の下には死体が埋まっているんだよ…
爆弾発言をした文学者は
知っていたんでしょうか
昔 日本に
桜の下に死体が埋まっていた歴史を

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恋人たちが一方通行の標識の下で
笑い合うべンチ
斜めの窓際で老人は最後の作品を
綴り始めた
恋人たちの躁病と鬱病への陶酔はなりやまず
老人の遺書は尊厳死に値する
友人の声は巧みな技で好意的
その反面
本性は果たし状
わからないの?
薄笑いを浮かべる年増の女の日記は
私を終焉の真っ暗森へ誘う
傾いた家屋は崩壊を続けながら
瓦礫たちが身にのしかかり
鈍い残響が鼓膜を打ち破る
助けて!
いたずらに発した私の爆声に
見知った女が一人
私の首を絞めながら
「信じるってどうすることなの?」
私の後ろの私に問いただす
その頃両親の危篤のメールは
確実に着信履歴に残っていて
穏やかな神の形見みたいな
アメージンググレースの音楽が
訃報を告げていた
ねぇ、今、何時?

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